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56話 断罪後の出来事

更新が遅くて誠に申し訳ない……

「――っ!!!」

 

 汗をかきながら緋夜はベッドから飛び起きた。肩で息をしながら青ざめた表情で俯く緋夜は今の今まで見ていた悍ましい夢を思い出す。

 シネラで対峙した時とは真逆の風貌になっていたミラノとモルドール侯爵、二人から出ていたおどろおどろしい何か。そして後ろに見えたどろどろとした黒紫の塊。

 

「何あれ……」


(あんな……心の奥から浸食していくような猛毒を含んだ闇は……それに)


 最後の光景がひどく頭にこびりつき、緋夜は唇を噛んだ。

 アードが誰かの命令で親しかった者に命を狙われていると言ってはいたが、夢の中で見た男の顔が真実だと物語っていた。

 知らずのうちに緋夜は己を抱きしめていたが、ミラノに腕を掴まれたことを思い出し急いでアームカバーを外すとそこには黒い手形がくっきりと刻まれていた。


「……冗談でしょ」

 

 やけに生々しい光景とくっきり残った手形。この二つに思考を走られた緋夜は、一人で解決できる内容ではないと判断するや否やすぐさま部屋を飛び出し、ガイたちのところへ向かった。

 早る気持ちを抑えながら緋夜が外へ出ると何やら人だかりができていた。その中心にいたのは――


「……はあっ!?」


 険悪な雰囲気を醸し出すガイたちだった。

 地面に伏せっているネモフィラの騎士数名とその一人に剣を向けているガイ。そしてメディセインとアードはファスと睨み合っていた。



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 

 しばし時は遡り、ガイたちが緋夜と別れた直後のこと。

 ガイたちは唐突に、砦の上へと鋭い視線を向けた。


「おい、一体なんのつもりだ」


 返事はない。しかし、そこには確かに気配を感じる。うまく気配を隠しているが相手が悪かった。

 ガイは不快そうに眉を顰める。


「おい、聞こえてねえとは言わさねえぞ」

「さっさと姿を見せた方が身のためですよ」


 メディセインの言葉を皮切りに数人の騎士が姿を見せた。


「ずっと俺らのことを監視していたよな。……いや俺らというよりもアイツか」

「彼女を監視しなければならない事情でもあるのですか? 彼女は先駆け人として初めてネモフィラ皇国を訪れた身です。あなた方に目をつけられるようなことはしていないと思いますが」


 ガイとメディセインの言葉にもネモフィラ皇国の騎士は眉ひとつ動かさずじっと見据えている。

 このままでは平行線だと思ったメディセインは少々挑発してみることに。


「だんまりですか? 仮にも騎士ともあろう方がなんの罪もない女性に対して執拗に嫌疑をかけ、共に戦場に立つ者たちに不快感を与えるとは……ふふ、ネモフィラ皇国には愉快な文化がおありのようですね」


 意味深な笑みを浮かべゆったりとした口調で放った言葉は、先ほどまで一切変わることのなかった彼らの表情を一変させた。

 まあ、時刻を侮辱されれば誇り高い者たちは憤るだろう。それを理解しながらさらりと言うあたり、メディセインの性格が伺える。


「……我々は職務として行っています。不快な思いをさせたのでしたらそれは謝罪しますが、それにより我が国が劣るように言われるのは不快です」


 低い声で一人の騎士が応える。彼らはエルフゆえに他の種族に比べてもプライドが高い。侮辱されたとあればその場で斬りかかってきてもおかしくないのだが、騎士というだけあって忍耐強いようだ。


「この国に不満があるわけじゃない。ただ、こちら側になんの心当たりもない以上、与えるのは不快感だけだ。こんな状況下の中で疑いをかけたりかけられたりするのは互いに良くないだろう。だからせめて監視の理由を教えてほしい」


 アードが間に立ちこちら側の心境を説明してくれたことによって険悪になっていた空気がいくらか霧散したように思えた。


「申し訳ないが疑惑のある相手に事情を説明することはできない」


 しかし、頑なな騎士たちの態度にガイとメディセインが眉を顰める。


「こっちには心当たりなんかねえっつってんだろうが。どうせ命じたのはファスだろ。アイツに話通してこい」


 通常騎士は貴族階級に属するのでガイたちの態度は紛れもなく不敬罪が適用されるもので、案の定、騎士たちの眉間に皺が寄った。


「言葉でわからないのであれば仕方ない。悪いが大人しくしてもらう」

「正当な抗議に耳すら貸さねえ連中に尽くす礼儀なんぞ持ち合わせてねえんだよ」

「おや……仕方ないですね」


 互いに睨み合い、獲物に手を添えた次の瞬間空気を揺らす斬撃が双方から放たれた。



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「……で、あの状況ねぇ……」


 あの後すぐさまガイたちの間に割って入り、別室へ移動し、速攻謝罪と事情説明をさせた緋夜は聞かされた内容に溜息をついた。


(ガイたちは……こんな短気だったっけ?)


 緋夜は彼ららしくない行動に若干首を傾げるも、ひとまず飲み込んでガイたちに目を向けた。


「確かにずっと視線は感じていたし、一瞬睨まれたことも事実だけど…………うん、まあ、起こしてしまったことは仕方ない。これから気をつけてね」


 かなりあっさりと終わらせた緋夜は部屋に入ってから沈黙しているネモフィラ皇国の面々に顔を向ける。


「さて……団長様。できればご説明願えませんか。仕事で来た手前、心当たりもないことで疑われたくないしそちらも余計に疑いたくはないでしょう。特に暴走の予兆が起こってしまった今は」


 真剣な面持ちで告げる緋夜に対し、ファスをはじめとするネモフィラ皇国側じっと観察するように見据えてくる。

 数秒の睨み合いの末、ファスはため息をひとつ吐くと真っ直ぐに緋夜を見つめた。


「ではヒヨさん。嘘偽りなく答えてください」

「何でしょうか」

「貴女は本当にお心当たりはないのですか?」

「ありません」

 

 一切目を逸らすことなく即答した。

 堂々と言い切った緋夜にファスは更に目を細め、やがて静かに目を閉じ、再び目を開けた時は警戒心こそあれどそこに疑心は含まれていなかった。


「私の負けです。お話ししましょう。確かに仕事として来ていただいた方々に少々無礼が過ぎました。どうかお赦しを」

「お気になさらず。教えていただけるだけで充分です」


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ファスによって密談の場が整えられ、緋夜たちは向かい合うように座り淹れたての紅茶の香りに包まれる中、ファスは緋夜に疑惑を向けるに至った経緯を語り出した。


「事の発端は先日シネラでとある侯爵家が身分剥奪及び国外追放になったことです。シネラからいらしたあなた方の方がご存知かもしれません」

「噂程度ですが。それがなにか」

「砦警備の最中、謎の爆発音を聞いた私たちが現場に向かうと大破した馬車とその周囲に護衛らしき者たちが倒れていました。馬車は罪人移送に使われるものだったので、事前に情報を得ていたこともあり、すぐにシネラの元貴族だと判りました。しかし馬車の中に彼らが監視していたはずの罪人たちの姿は確認できなかったのです」

「それでも見つかったんですよね」

「はい。すぐ近くの川で発見されました。すぐさま捕縛し牢へと収容しましたが……」


 何故か苦々しい表情になったファスを見て緋夜たちは首を傾げる。


「捕らえた者たちは正常な精神状態ではなく、何かに取り憑かれたかのようにぶつぶつと恨み言を口にしていまして、あまりにも異様なので記憶を覗いたのですがそこでシネラの貴族とあなた方の姿が映ったのです」

「……あ~、それで警戒をしたんですね。私関連で何か起こすのではと」

「はい、貴女は断罪した側ですが、それでも念のため警戒せざるを得なかったのです」

「そういうことでしたか。教えていただいてありがとうございます」

「いえ、こちらこそ疑惑を向けてしまったこと、重ねてお詫び申し上げます」

「いいのですよ。無実が判っていただけただけで……と、言いたいところですが、どうやら真っ白、というわけでもなくなりましたけど」


 緋夜の言葉にネモフィラ側だけでなく、ガイたちも眉を顰めた。そうなるだろうな、と乾いた笑いを浮かべているとすぐに味方側から鋭い声が飛んできた。


「どういうことだ」

「そういえばヒヨさん。随分と早くお目覚めになりましたよね。もう少しお休みになるものかと思っていましたが」

「もしかして変な夢でも見た?」

「うん。内容が明らかに私一人でどうにかなるようなものじゃなかったから相談しようと思ってガイたちのところへ行ったら、あの状態だった」

「それに関しては僕たちの非だから申し開きはしないよ」


 いい笑顔のアードにガイは気まずげに視線を逸らし、メディセインはどこ吹く風でしれっとしていた。


「俺らのことはどうでもいい。お前が匙投げるなんざ、どんな夢見やがったんだ」


 ガイの質問に緋夜はその場にいた全員から視線を受けるなか、徐にアームカバーを外すとそこには黒々とした文字が手のような形でくっきりと残っていた――

スタンピード前に問題発生。やっぱり順調にはいかない模様……乙。


ご意見ご感想お待ちしてます。


次回予告

緋夜の腕に刻まれた悍ましい跡を見せられた面々は揃って顔を顰め、なぜか焦りながら事の次第を説明促され緋夜は戸惑いながらも応えたのだが、ファスから禁忌の属性について聞かされて……


『57話 魔属性』


お楽しみに!

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