54話 会議
更新が遅くなりすみません……
案内された部屋でくつろいでいた緋夜たちは再び最初の部屋へと呼ばれ、作戦会議が始まった。
これまでのファスからの説明をまとめるとこうだ。
魔物の活性化
↓
魔力の急激な増幅の確認
↓
近隣への協力要請
↓
先駆け人同士の打ち合わせ(現在)
という状況だ。魔物暴走の場合は大抵この流れになるらしいという説明もついたが。
「今回は規模は小さいと予想されますが、油断なさらぬよう」
「ちょっといいですか?」
ファスが話を進める中、アスチルの先駆け人であるケレイブが声を上げた。
「はい、何か?」
「今回セフィロスには要請しなかったんですか? セフィロスは召喚された聖女がいるはずですが」
やはり近隣諸国に伝わっているようだ。魔物の活性化が進んでいるという理由のもとで召喚された聖女に、という発想は間違ってはいないためケレイブの質問はごもっともだろう。
「要請は出しました。しかし、聖女様は魔法のない世界から来た方だそうで、魔力の完全制御に慣れず、実戦で使用できるか微妙だとか」
「不慣れだからこそ実戦で経験を積んだほうがいいと思うのですがね」
「確かにその通りではありますが、それは国が判断することですから」
「では、やはり三国での討伐になるのですね」
「いえ、聖女様の訓練が完了次第こちらに赴くと昨日連絡がありましたから、実質四カ国での対応になります」
「なるほど、しかし昨日の連絡、ということは」
「到着には少々時間がかかるかと」
「了解です」
納得した様子のケレイブにファスは頷くと、再び正面を向き会議を再開させた。
「では、大まかな作戦会議に移ります」
そう言いながらファスはメタセコイヤ砦周辺の地図を広げた。
「ここが最終防衛ラインになります。そして最前線はここです」
ファスは広大な森の中腹を指差した。地図上ではさほど離れている様子はない。それぞれが地図を覗き見ながら見解を述べていく。
「これは……」
「近いですね。かなり」
「ええ。もう少し遠ければ、時間稼ぎもできたでしょうがこの距離では、一瞬でも隙を見せれば突破されてしまいます」
「こちらがバラバラになりにくいという利点はありますが……真っ向から迎え撃つよりも罠などを多用した方がやり易くなるかと」
「罠……ですか。確かに効果的かもしれませんね」
「けど、強力な奴も出てくるだろうからそいつらも足止めできるだけの罠が必要になりますよね」
「ええ。一瞬だけでも向こうに隙を作れれば、強力な魔物でも対処できるでしょう。そのためには罠の種類も考えなくてはなりません」
緋夜は以前、この世界には魔法を使用したトラップは数多く存在するらしいが、だからこそ物理的なトラップはダンジョン以外ではほとんどない、とガイが言っていたことを思い出す。おそらく彼らが言っているのは魔法を用いたトラップだろう。
「あの、物理的なトラップもあった方がいいかと思います」
緋夜が思い切って提案してみると、一斉に視線が向けられた。
「物理的……ですか? でも相手は魔物ですよ? そんなもの相手に物理的な罠なんて……」
「相手が魔物だからこそです。魔法のトラップは属性に左右されがちですが、物理的なものでしたら、その問題も解消されるのではないかと」
緋夜の言葉を聞いたファスはしばし眉を顰めた後、緋夜に視線を向けた。
「例えばどのような?」
「そうですね……地面に穴を掘って穴の深さの半分くらいの長さの円錐状のものをいくつも並べる、ある場所を踏むと石鹸や辛味成分が含まれているものを水と混ぜたものが噴射される、などでしょうか」
『……』
前述はいわゆるパンジステークというもので後述の方はどちらかと言うとイタズラに近いものでどちらも地球のゲームや悪戯でよくあるものだろう。緋夜自身、さほどゲーム類について詳しいわけではないが、友人たちから押しつ……勧められてプレイしたことはあるので、その中で覚えていたものを挙げてみたのだが、ファスたちは考え込むように首を傾けた。
「確かに有効だとは思いますが……」
「どうやって用意するんです?」
「パンジステーク……あ、深掘りした地面に突き立てる円錐状の棘のことですけど、それは普通に魔法でいいと思います。穴を掘るのは土魔法で、棘の部分は……土魔法か氷魔法でで大丈夫かと」
土はともかく、氷はある程度の硬さがあれば立派な武器になる。勢いをつければ肉くらいなら貫ける軽く貫けるだろう。別に鉄を用意するわけではないし、この世界には魔法があるのだから、存分に使えばいい。
「なるほど……確かにそれならば有用ですね。足止め程度だとしても、時間稼ぎになります。ある程度知能のある魔物であれば一瞬でも怯むでしょうし。超えてきたものたちだけ駆除すれば労力も減り、体力の温存に繋がる」
ファスはつらつらと予想されるメリットを述べていくのに対し、ケレイブは何やら難しい顔をしていた。
「ケレイブさん、どうかしましたか?」
「……いや、その穴掘りはまだ納得できますが、そんなので本当にうまくいきますかね? 確かに地上の魔物には有効でしょうが、空を飛ぶ魔物や外側が硬い魔物なんかには効きにくいと思いますけど」
ケレイブの言っていることは間違っていない。外側が硬い魔物には口さえ開けられればどうにでもなるが、地上の魔物にはいくらでも対抗策はあるが空飛ぶ魔物への対策は難しいのだ。どれほど対策しようとも上空には限りがないため、罠の発動前に上に上がられたら結界魔法で防いでどうにか近づいての攻撃になる。おまけに飛んでいるため障害物が少なく避けるのも簡単だ。
通常ならば対策は難しいだろう。これは緋夜もかなり思考を巡らせたのだが、ふと以前友人が作ったゲームのお試しを皆でプレイした際にとった戦法を思い出した、のだが。
(あれをこの場で言うのはちょっとな~……)
「どうしました?」
突然遠い目で黙り込んだ緋夜に周囲から訝しげな視線が寄せられたが、そんなことに構っている場合ではない。緋夜は今、実にくだらな……ではなく、(本人にとって)重大な葛藤をしていた。この緊張感のある空気の中では流石に言えない、と。しかし今は会議の場であるため、後から言うのもおかしいだろう。シネラへの報告義務もあるのだ。後からの提案ではまた報告をしなければならなくなる。
……と、このようなことをぐるぐる悩んでいた緋夜を見かねたのか、ガイが軽く小突いた。
「……え?」
「なんか作戦あるんならさっさと言え」
「……この空気で言うのは躊躇われるんだけど」
「そんな余計なこと言ってる場合か」
「…………わかったよ。では言いますがその前に、これは私が考えたものではなく友人がとっていた戦法です。そこのところは深くご理解くださいますようお願いします」
突然意味不明なことを言い出した緋夜に奇妙な視線が向けられるが、何故か(無駄に)真剣な緋夜の目に見つめられ、その場にいた者たちはとりあえず頷いた。
「ではお話します。えーっとですね――」
そして、緋夜の話を聞き終わった面々は――
「なんですそれ……」
「何をどうしたらそんな方法思いつくんだよ」
「面白い方ですね。そのご友人は」
「……えーっと……すっげ~反応に困るんだが」
「大丈夫かそいつ」
と、呆れを多分に含んだ反応が返ってきた。概ね予想通りである。そして、緋夜が念押しした理由も同時に判明し、ささやかな同情が向けられた。
「……まあ、内容に関しては少々引っ掛かりを覚えるものではありますが、方法があるだけマシでしょう。とりあえずは二つの方法で進めていきますが、他にも案があれば遠慮なく仰ってください」
『はい』
「では、本日の会議はこれで終わりです。それぞれお部屋に戻り本日の内容をまとめ各国へと送ってください。お疲れ様でした」
ファスの一言で会議は解散となり、それぞれ案内された部屋へと向かう。
「それにしても貴女って不思議なご友人をおもちですよね」
メディセインはいつもの笑みで緋夜に話しかけた。その肩が僅かに震えていることを除けば。
当然それに気づかない緋夜ではなく、メディセインを軽く睨んだ。
「はっきりと変人って言えば? 私もそう思うし」
「言ってしまっていいので?」
「事実だし。趣味や性格がどうであれ仲は悪くないよ」
「それは何よりです。ですが一度お会いしてみた」
「案外気が合うんじゃねえの、変人同士」
「ガイさん何か仰いましたか?」
「空耳だろ」
ポンポンと会話をしているうちに部屋へと到着した緋夜たちは扉を開けた途端に立ち止まった。
「いつの間に食事を……」
「会議中だろ」
「それはそうだろうけど」
「先駆け人への労いだと思ってありがたく思っておこうよ」
「そうですね。わざわざ部屋へと運んだのは砦内を下手に歩かれないようにするためでもあるでしょうけど」
「あ、やっぱりそっちの理由もあるんだ」
「それもだが、報告書のためだろ」
「なるほど。さっさと食べて報告書を送れってことか」
「ああ。報告書はリーダーがやることになっているが、冒険者の場合は報告書の作成に時間がかかる奴が多いからな。多めに確保させてやってるんじゃねえの」
「へえ、結構配慮されているんだね」
「情報伝達は重要ですからね」
「それもそうだね。じゃあ先に食事を――」
ドオオオオオォォォン!!!!!
食事を摂ろうとそれぞれが椅子に手を置いたその時、激しい縦揺れが襲った――
緋夜ちゃんが伝えた作戦ってなんだろう……あまりいい予感がしない。
次回予告
魔物の暴走の予兆が起こったその日の夜、不気味な夢を見て……
『55話 暴走の予兆と悪夢』
お楽しみに♪
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