番外編 おまけ娘の年末年始 年始編
『明けましておめでとう!!!!!』
人々の掛け声と同時に花火が上がり、グラスが掲げられる。装飾が再び点灯され、あたりが華やかな光に包まれ、街の人々がグラスを傾ける。街はまるでイルミネーションで彩られたように輝きちらちらと舞い降る雪が幻想的な光景を作り出している。
家々からは軽やかな音楽が聞こえ、それに合わせて人々が踊り出した。
「もう踊り出してるよ。あんなに飲み食いしてたのに」
「元気が有り余ってるんだろ。まあでもそんなに年中行事があるわけじゃねえから、こういう時にハメ外すんだろうよ」
「私の故郷は季節ごとになんらかのイベントがあるからこういうのは新鮮だよ」
「逆にありすぎじゃねえか?」
「楽しければいいんだよ、楽しければ」
「フフ、城でのパーティーより全然楽しいわぁ。外交とかそういうこと気にしなくていいんだもの」
「あはは、庶民はそんなものないからね」
「俺達にとって年末年始は仕事で埋まっていたからな」
「どう? 初めての庶民の年末年始は」
「悪くない」
「素直に楽しいって言えばいいのに」
「放っておけ、問題児」
「新年早々言うことじゃない~!」
「ふん、事実だろ」
「違いない」
「ちょっとガイ、同調しないでよ」
「いいじゃなぁい、いくら本当のことでも今日言うことじゃないわ~」
「シルワさん、それフォローになっていませんよ」
「あ、あら?」
言いたい放題である。それだけ仲がいいと言えばそれまでだが、本当に『いつも通り』のやり取りに緋夜は笑みを浮かべる。
「まあでも、ガイ、メディセイン、ファス、シルワ。今年もよろしく!」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくねぇ~」
それぞれがそれぞれに挨拶をする。五人の間に穏やかな空気が流れているところに響く声がひとつ。
「おうおう! お前ら道端でな~にしてやがる! んなとこに突っ立ってねえでほら踊るぞ!」
「わっ!」
ゼノンに腕を引かれ、緋夜は中央へと引っ張り込まれた。そのまま勢いに乗って踊り始めたゼノンに緋夜は苦笑しながら一緒にステップを踏んでいく。
「楽しいか~? やらかし娘!」
「新年早々ご挨拶じゃん?」
「ははっ! 去年の出来事考えりゃ言いたくもなるって!」
「それは……ごめんなさい?」
「謝るな謝るな! 俺はお前らのことは気に入ってるんだぜ~! 毎回飽きねえからな!」
「どうも」
「まあ、なんだ。いろいろあったが、これからも期待してるぜ」
「ありがとう」
緋夜は少し照れたような表情なりながら笑顔でお礼を言った。
一方、強引に連れて行かれた緋夜を見送った四人はそれぞれの表情で自分達のパーティリーダーを見つめていた。
「ったくゼノンの奴……」
「やれやれ、最初の相手持って行かれてしまいましたね」
「相変わらず暑苦しい奴だ」
「フフ、でもあの子とても楽しそうよ。出自がどんなに特殊でも笑顔や涙はどこにでもいる普通の女の子ねぇ」
穏やかな表情で緋夜を見つめるシルワは、緋夜と出会ってからこれまでの生活に思いを馳せる。
「去年はいろいろあったから今年は心穏やかに過ごしてほしいわぁ……」
「……そうですね」
「……ふん」
「……」
話をしている間に一曲目が終わり、二曲目に移る。
「さて、今度は私がお相手するわ~」
「姉上っ! ……行ってしまった」
「また先を越されてしまいましたね。次は私が行かせてもらいましょうか。ガイさんとファスさんも踊ってきてはいかがです?」
「誰と踊れってんだよ」
「おや、先程からこちらを伺っている女性達が目に入りませんか?」
「「……」」
「……二人揃って無言にならないでください」
「ならお前が踊ってくればいいだろ」
「折角ですが、私の初手はヒヨさんと決めていますので」
「そうかよ」
男達がそんな会話をしている間、緋夜とシルワが中央で踊っていた。
「もう年が明けるなんて早いものねぇ……まだ出会ってからほんの少ししか経っていないのに」
「あはは、いろいろあったからね~ネモフィラで」
「そうねぇ、でもお陰で助かったわ~。悲しいこともあったけど、楽しいこともたくさんあったわ~。弟とも仲良くしてくれてありがとうね」
「仲良く……というか一方的に遊ばれているような気がするんだけど……」
「あら、あの子は興味のない相手には見向きもしない子よ? 相当気に入っていると思うわ~あれはあの子なりの愛情表現よ」
「だったらいいんだけど」
シルワは仲間になってから同じ女性視点でいろいろと助けて貰っていた。パーティの中で一番年上ということもあり、メンバー内でもみんなの姉としてなにかとフォローをしてくれている。
「これからもよろしくねシルワ……姉さん」
「! フフ、こちらこそよろしくヒヨちゃん」
ふわりと笑顔を浮かべたソイルは緋夜に何かを耳打ちすると今度は艶やかに笑った。いつの間にか曲は変わっていたが、しばらく動けずにいた。
「……ずる」
「何がです?」
「え!?」
突然声をかけられて振り向くとそこにはメディセインが立っていた。
「今度は私が相手ですよ。ヒヨさん」
いつもの笑みで差し出された手を自然な流れで取ると、すっと引き寄せられ一気に距離が縮まる。
「シルワさんに何を言われたんです?」
「べ、別に……」
「おや、はぐらかされてしまいましたか。まあいいでしょう。ですが、今は私が相手なので……私だけを見てください」
色気の溢れる声で囁かれ、密かに胸が疼いたが気取られてしまえばまた何を言われるかわかったものではないのでなんとか堪えた。
「耳元で囁かないでよ。くすぐったい」
「……それは失礼しました。ヒヨさんて意外と男性慣れしていないですよね」
「どういう意味かな」
「そのままですよ。仮面をつけている時とは反応が全然違いますから。普段の行いもそうですけど、突然全く予想がつかなくなるので見ていて飽きませんよ」
「それ、褒めてる?」
「この上なく」
「本当に口のうまい」
思えば出会った頃から何を考えているのか全くわからなかったなと思いながら緋夜は踊り続けた。
踊り終えたシルワを呆れ顔のファスと仏頂面のガイが出迎えた。
「姉上、一体何を言ったんです」
「ヒ・ミ・ツ♪ よ。女の子同士の、ね?」
「まあ言うわけないですよね全く」
「フフ……あの子って意外と純粋なのよねぇ」
「最初は嫌いって言っていたでしょう」
「あら、私のより貴方の方が酷かった気がするけど?」
「……事実を言ったまでですよ」
「素直じゃないわね~」
シルワは不器用な弟を見てクスクスと笑い、心の中で緋夜に囁いた言葉を思い出し艶やかな笑みを浮かべる。
――貴女を狙う獣が男とは限らないわ。気をつけてね? 私のようにいたいけな子ウサギを狙う悪い女もいるんだから
(フフ、あの言葉嘘ではないのよ? 今年も可愛がってあげるから……私の可愛い子ウサギちゃん?)
三曲目が終わり、息を吐くと緋夜の目の前に影が落ちる。視線を上げるとファスが立っていた。
「手」
「あ、うん」
言われるままに手を取ると、そのまま抱き寄せられ、自然流れでステップを踏む。
「まさかお前らと年越しを迎えるとは思っていなかった」
「それは私もだよ」
「だが、まあ悪くはない」
「ありがとう」
「勘違いするな。あの頃よりはマシというだけだ問題児。言っておくが貴様が我が国でやらかしたことは忘れてやらないからな」
「その節は大変ご迷惑を?」
「まったく反省していないな。また仕置きされたいか?」
「いいよ。多分次の日には忘れてるから」
「ほう……?」
「本気にしないでよこのサディスト」
「黙ってろバカ娘。いい加減首輪つけるぞ」
「やれるものならやってみろ」
踊りながら睨み合う二人に周囲が若干引いていることに気づかずしばらく言い合いが続いた。
「貴様には散々だったが、まあこれからも付き合ってやる。俺が監視していればいつでも調教できるからな。せいぜい光栄に思え」
「あんたの調教になんか屈するわけないでしょ陰険エルフ」
「いい度胸だ。その態度がいつまで持つか楽しみだな? 問題児」
いろいろな意味で譲らない二人だが、そこには確かに絆が芽生えている。頭に奇妙な、という言葉が付くだろうが。それでもきっとこの二人の関係は今年も変わることなく続いていくのだろう。もしくは既に変わっているのかもしれないが。
「まだやれるか?」
「当たり前」
「じゃあ……次だ」
ファスとのダンスが終わり、流れるままに誰かが緋夜の手を取った。言うまでもなく、ガイである。
「五連続で踊り続けている割にピンピンしてるな」
「いつかのパーティーで無駄に踊り続けたからね。あの地獄よりは断然マシだよ。気負う必要もステップを気にする必要ないんだもの」
「そうかよ」
優しいステップを踏んでいくガイにさりげない気遣いを感じる。緋夜はこの瞬間だからこそ聞いてみたいことがあった。
「ガイ、あのさ」
「なんだ」
「あの時、なんで私の依頼を受けたの?」
「……」
あの時ーー緋夜がガイに初めて出会い、依頼をした時のことだ。今だに理由を聞いていない。聞いてもはぐらかされそうなので正式に聞いたことはなかった。年が明けたことで去年の出来事になったことでようやく聞くことができた。
「……それ、今聞くか?」
「今だからこそ、だよ」
「…………それは…………まだ言わねえ」
「なにそれ!?」
ためにためて出た言葉はまさかの否だった。ガイらしいといえばらしいが、だいぶ拍子抜けである。珍しく固まっていると、ガイが吹き出した。
「なんだその顔。なんかいいもん見られたな」
「……!」
いつも不敵な笑みばかりを浮かべるガイが年相応の屈託ない顔で笑ったことに一瞬面食らった緋夜は思わず俯いてしまった。
「……い」
「あ? なんだ?」
「! なんでもないよ! もうっ!」
「あ? 拗ねたか?」
「別に……」
「ククッ……まあなんだ。今年もよろしくな、ヒヨ?」
「……よろしく、ガイ」
緋夜はガイの言葉に呆れたように、けれど確かな信頼を込めて、言葉を返した――
…………
……
…
もうすぐ、夜が明ける。
結局皆朝まで踊り歌い、時間はあっという間に過ぎ去った。今は誰もが夜明けを待っている中、緋夜達は――
「ガイ、こんなところに連れてきてどうしたの?」
ガイの案内で人のいない静かな丘の上にやってきた。突然ガイがパーティメンバーを連れ出したのである。
「ここ登る」
「……木?」
「あらあら……木登りなんてあんまりしないわねぇ……」
「こんなところに大木なんてあったんだな」
「ここは確か……約二千年もこの間枯れたことがないと言われている大木ですよね」
そんな木に一体なんの用だと思いながら、とりあえず登ることにした四人はひとっ飛びで登ったガイを追う様に順番に登っていく。
「言われるままにやってきましたが……」
「ここに一体なにが」
「あっち見てろ」
「あっちって……」
ガイが指を差した方に視線を向けると、次第に空が明るみだし太陽が地平線の彼方から顔を覗かせた。
「初日の出……」
「これは……」
「まあ……
「ほう……」
それぞれが感嘆の声を上げる。散々踊って疲れが出ているが雲ひとつない空が朝焼けに染まり、冷たい空気を赤く色づけていく様はまさしく、夜明けだった。
「綺麗……」
「私達だけの特等席ですね」
「贅沢な朝ねぇ……」
「……なんでこの場所を知っていた?」
「……偶々だ」
「……そういう事にしておこう」
名実ともに年が明けた。普段は騒がしく、いろいろな意味で忙しなくしている五人もこの瞬間だけは言葉を交わさない。だが、それでいいのだ。
――この大木から降りればまた、新しい『日常』が始まっていくのだから――




