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33話 誘拐の真実とほんの少しの正義

「俺と勝負をしてアンタが勝ったら、望み通り情報を教える。だがもしアンタが負けた場合は俺の手駒になってもらう。どう?」


男……センは獣のような獰猛な瞳を緋夜に向けながらそう言った。


(勝負の内容を言わなかった。まあでもこういう場合確実にこちらが不利な勝負であることがほとんどだから、話を聞いてやめると言わせないために、さっさと言質を取っておきたいってところだろうね)


緋夜としては正直なところ、好奇心で受けてみたいがあいにくそんな時間はないだろうと諦める。


「せっかくの申し出ですが、遠慮させて頂きます」

「あれ? アンタなら乗ってくると思ったけど、案外臆病なのかな?」

「大変魅力的なお誘いではありますが、お受けしている時間がないのですよ。そもそも勝負以前に勝敗は決していますし」


相も変わらない笑みでそう言った緋夜にセンは怪訝な表情をした。


「何言って――」


ドォンッ!!!!!


 突如センの言葉を遮るように、轟音が響き渡る。緋夜が光の漏れる格子に視線を向けるとあれがパタパタと羽を羽ばたかせた状態でガイに捕獲されていた。


「な、なに今の!?」

「センさん?」


緋夜はセンの名前を呼んだ後、無言で指を格子の外に向けた。緋夜の指を辿ったセンはそこに広がる光景に目を見開いた。


「は? 何、侵入者!? つーかなんでここがわかって……まさか」


センはは驚愕と疑いの混じった視線を今の今まで全く変わらない笑みを浮かべる緋夜へと向けられた。


「アンタの仕業? っていうかこの状況じゃそれしかないけど」

「捕らえた獲物に見張りをつけるのは基本ですよ。いくら牢に入れてもそれだけでは獲物に逃げろと言っているようなものです。まあそれを見越しての対策は立てていたようですが、意味ありませんでしたね」


そう言いながら緋夜は壁の隅を探り、思い切り引っ張ると、壁の中から魔法陣が現れた。一見壁のように見えていたそれは布でしかなく、本物の壁に描かれた魔法陣を隠すためのカモフラージュでしかなかったのである。


「あはは……まさかバレていたとはね。これは魔力が外に漏れないようになっているからたとえ魔法使いや魔術師、魔導師だったとしても気づけないと思っていたんだけど」

「残念でしたね。さて……おしゃべりはここまででいいでしょうか。でないと……」


ドガン!!!!! バキバキッ!!!!!


「私のお迎えがこの建物吹っ飛ばしてしまいますので」

「はあ!? ここにアンタがいるのにぶっ壊してんの!? ちょっと頭おかしくない!?」

「……それは本人に言ってください」

「アンタもなんで平然としてんのさ!? せめてもう少し狼狽えるとかしようよ!?」

「……わーたいへんだーこのままじゃあここがくずれるー」

「…………もういいわ。アンタら二人とも頭イカれてんだろ。誘拐する相手間違えたわクソが」


悪態をつきながらセンは牢の扉を開けた。


「出ていいよ。俺はアンタを死なせたいわけじゃないんでね」

「他の人達は?」

「……これから出す。あの野郎が派手に暴れた以上ここは確実にバレる。詳しいことはこっから出たら話すから」


そう言うセンは嘘をついている様子はないため、本当に全員を外に出すつもりなのだろう。


 その後、センは自分の部下と共に捉えていた人々全員を解放し、建物が完全に崩れる前に外に出た。


「ガイ」

「出てきたか」

「うん。でもこの状況は何?」

「いや、お前の閉じ込めらている場所が地下だってわかったから破壊音が聞こえれば、隙をついて脱出してくると思ってな」

「なんかちょっとおかしい気もするけど、まあいいや。来てくれてありがとう」

「ああ、にしても」


ガイは周囲に視線を向けながら緋夜に尋ねる。


「これは一体どういうことだ」

「さあ? 誘拐犯とその部下が捕らえていた人達を外に連れ出した」

「なんだそりゃ」

「私もそう思う」


互いにハテナマークを浮かべながら会話をしているとセンが緋夜達の元へやってきた。


「いや~参ったよ。まさかここまで破壊されるとは思ってなかった」


ケラケラと笑いながら歩いてくるセンの喉元にガイが一瞬で剣を突きつけた。目で追う余裕もなく死の危険が訪れたセンは笑顔を引き攣らせながらゆっくりと両手をあげた。


「あ、あの~……お兄さん? これ……」

「俺がこの首刎ねる前にこいつを攫った理由を吐け」

「……ハイ」


若干青褪めながらも、センは息を整え事の次第を語り出した。


「頼まれたんだよ。このクリサンセマムでなんか事件を起こしてくれって」

「誰にです?」

「それは知らない。俺らんとこにいきなり変な連中が来て、「もし事がうまくいけば金をやる」って言われて」

「お金に釣られて犯罪行為に手を染めたのですか?」

「俺達だって好きでやっているんじゃないんだ! お、脅されているんだよ!」

「脅されて? 先程金をやると言われたと言っていませんでしたか?」

「確かに言ったけど、明らかに犯罪行為だろ? だから断ったら、「お前らの家族や恋人がどうなってもいいのか」って言われて……それで、仕方なく」

「……なるほど。ではもう一つ聞きます。今、今この町で好き放題に暴れている連中は貴方方の仲間ですか?」

「いいや、俺らと違って連中の方はその手のプロだ。格が違う」

「……プロ、ね」


緋夜とガイは一瞬目配せをすると、ガイは剣を下ろし、緋夜は一歩前に出た。


「いかなる理由でも誘拐を起こしていたことに変わりはありません。それなりに処罰はあるでしょう。ですが、事情も事情ですから情状酌量の余地はあると思いますよ」

「まあ、処罰は覚悟の上だよ」


センが諦めたような表情で笑いながらそう言った。彼ら自身もわかっているのだろう。罪は罪、罰は罰。


どんな事情があるにせよ、犯罪に手を染めたという事実は変わらない。


「まあそこのところは私の仕事でもなんでもないのでどうしようもありませんが、最後にもう一つだけいいですか?」

「なに?」


緋夜は変わらない笑顔のまま、笑っていない目でセンに問いかける。


「あなた方のご家族や恋人が囚われている場所、ご存知ですか?」



      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 ――クリサンセマム外れの古びた屋敷


 センから人質の場所を聞き出した緋夜達はクリサンセマムの外れにある、ボロ……趣のある屋敷にやってきた。元は貴族の屋敷か何かだったのだろうが、今は人が寄り付かない館となってしまっている。


「……人の気配があるのはなんとなくわかるけど……」

「監視の奴らも含めてそれなりに数がいる。人質を先に逃した方が良さそうだ」

「人質がいるのは地下かな?」

「さあな。だが、守りながら戦うのは結構面倒だぞ」

「まあそうなんだけど……せめて人質がどこにいるかわかれば動きやすくもなるのに……ん?」


緋夜はふと、空間収納にしまっている荷物の中身を思い出し、キャリーバッグを取り出した。


「何してんだ?」

「えーっと確かこの中に……あ、あった」

「あ?」


気になったガイが見慣れないバッグから取り出した緋夜の手元を覗くと、そこには蝶の飾り(?)があった。


「なんだそれ?」

「確か『見せて蝶』って言ったっけ」

「ダセ」

「こら。本当のことでも口にしない」

「それフォローのつもりか?」

「……」

「……」

「黙秘!」

「おい」


非常に緊張感のない会話をしながら、空間収納にキャリーバッグをしまい蝶に視線を向ける。


「で、これをどう使うんだ。あの変な鳥みてえにただの蝶じゃねえんだろ?」

「これは蝶の形をした小型カメラだよ」

「カメラ?」

「まあ分かりやすく言えば今起こっている光景や見ている景色を記録するための道具だよ。向こうの世界では犯罪の証拠とか思い出を保存するために使用されていた。こっちだと記録の魔道具と同じようなものだよ」

「ああ、あれか」


ガイは納得したように頷いた。この世界のも記録の道具は存在するらしく、そういったものの開発なども魔術師や魔導師の仕事のひとつである。


「で、それをどうやって動かすんだ?」

「確かコントローラーがあるって……これかな?」

「魔法で動かすことはできないのか?」

「私の世界は魔法がないから完全機械式なんだよ。だから魔法というものに耐えられるかわからないもの」

「ああなるほど」


緋夜はコントローラーを動かしながら屋敷の様子を伺う。


「このコントローラーってので見れるのか」

「うん。カメラの映像と連動していて光景がそのまま見れるんだって?」

「だってってなんだ」

「作ったやつから聞いただけ」

「……なんでお前の荷物に入ってんだ」

「ん? 新しいのできるたび人の荷物に勝手に突っ込んで『新作完成したから愛のプレゼント受け取ってキャ♡』てさ」

「…………そいつ、頭大丈夫か?」

「さあね」


緊張感をどこかに置いてけぼりにしたのかと言わんばかりにお喋りをしながらも手を動かしていると、ガイが緋夜の手を掴んだ。


「どうしたの?」

「今のところ左」

「左?」


言われるまま左に動かすと複数の人が映り込んだ。


「これ」

「ああ、おそらく人質だろう。数が把握できればいいんだが」

「サーモセンサーならできるかも」

「なんだそれ?」

「熱を感知するためのものだよ。確か機能の一つにあったはず」

「……これ作ったやつは暇なのか?」

「さあ」


そう言いながら蝶を屋敷から少し遠ざけてサーモセンサー機能をいじると、かなりの数が表示された。


「どのくらいいるんだろうこれ」

「人質はこのまとまりだろ。全部で二十七か」

「じゃあ残りは全部……」

「敵だな」

「どうする?」

「俺が表から行って気を引く。お前はその間に人質のところへ行け。お前なら上手くやるだろ」

「分かった。気をつけてね」

「ああ」


一瞬で作戦会議を終え、緋夜は『見せて蝶』一式を空間収納に戻し、二人は再び屋敷に視線を向け、そして――


「行こう!」


屋敷に向かって駆け出した。




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