30話 推測
「おい、怪我は?」
「ないよ。ありがと。咄嗟に結界張ってなかったら危なかった。装備は問題ないけど、顔はさすがにまずいから」
「そうかよ。お前の結界のおかげで破片やらが飛んでこなくて助かったぜ」
緋夜の目の前で軽い爆破が起き、咄嗟にガイが庇ったのだ。今は窓から少し離れた場所にいる。一瞬で緋夜が結界を張ったため軽傷者はいるものの周囲への被害はそれほど出なかった。
「でも、一体何が」
「さあな。だが、あれは爆薬だな」
「うん一瞬甘い香りがしたから油分を含んだ植物で作ったものに火をつけたってところかな」
「……あの状況でよく匂いなぞ嗅げたなおい」
「ガイだって嗅げたでしょ」
「まあな。火つけた奴はお前と目合わせてたな。お前狙いか?」
「はじめから狙ってたわけじゃないと思う。多分私と目が合ったから咄嗟に放ったんじゃないかな」
「どうだろうな。犯人は逃げたみてえだが詳しいことが分かんねえ以上下手に動かねえ方がいいだろう」
「……そうなんだけど、ねえガイ。これってさ朝警吏の人が来たことと何か関係あったりするかな」
「まあ可能性はあるんじゃねえの」
もうじき夕方になるこの時間、この辺りは人通りが多くなる。強盗の類であれば昼間ではなく夜に動くだろう。もし犯人が初めから人が多い場所を狙ったのだとすれば狙いが不明だ。
「あの犯人と対峙してたの警吏の人達だったよね」
「ああ」
「警吏の人を排除したかったって線は?」
「だったらそっちに投げるだろう」
「意識を逸らして逃走する時間を稼いだ?」
「あるかもな。偶然お前と目が合ったから利用したって可能性がある」
「単純に騒ぎを起こすこと自体が目的だった」
「だとすれば傍迷惑な愉快犯だな」
「警吏の人に聞いてみよう。一応私達被害者だから事情聴取として接触出来るかもしれない。その時に色々探ってみたほうが良さそう」
「ああ」
などと会話しているうちに警吏兵が集まりだし被害状況の確認やら事情聴取やらを始めた。その様子を窓から確認すると緋夜とガイは宿の外に出て一人の警吏兵に近づいた。
「ああ、ちょうどよかった。あんた達も少し話を聞かせてくれ」
「はい」
タイミングよく声をかけてきた警吏兵に直前直後の話をした。緋夜達の話を聞いた警吏兵は顔を顰めた。
「やっぱりか……」
「やっぱり?」
「ああ、最近よく起きるんだよ。この町でな。犯人は未だに分からねえが、お上はなんか心当たりがあるみてえだ。俺らには教えてくれねえが」
「そうですか」
(お上は心当たりがあるみてえだ、ってことはセレナなら知ってる可能性があるってことか。しかも心当たりがあるにも関わらず未だ犯人を捕まえていない……いや、捕まえられない?)
「まあ、他にもなんかあったら教えてもらいたい。今は一つでも情報が欲しい状況だからな」
「分かりました」
「気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
警吏兵が去っていくのを見ながら緋夜は笑みを消した。
「なんか引っかかるもんでもあったのか?」
「まあね。ここじゃ人が多いから中に戻ろう」
「ああ」
緋夜とガイはそのまま部屋に戻り、念のため遮音結界を張ることに。
「んで?」
「さっき警吏の人が『上はなんか心当たりある』って言ってたこと」
「それが?」
「うん。心当たりがあるにも関わらずどうして捕まっていないのかなって思って。証拠集めに時間がかかってるっていうのもあるのかもしれないけど、何か引っかかって……ね。こう思ったの。『捕まえない』じゃなくて『捕まえられない』かもしれない、って」
「何?」
「この騒動を仕組んだのが、自分達と同じ貴族かもしれない……ってことだよ。自分達より高位もしくは低位の場合でも城での発言力が大きかったりした場合、簡単には手を出せなくなるから」
「……確かにそうだな。ここは商業地域としてかなり潤っている。それを面白くねえと感じる輩がいてもおかしかねえ、か」
「うん。それかここの領主様に個人的な恨みがあるってこともあるだろうね。まあ、それ以外の選択肢もあるにはあるけど相手貴族だよ? しかも侯爵家。普通に考えて喧嘩売ったら終わりでしょ。それに町で話聞く限り領主様は町の人や商人達に慕われてるから手を出せば商人達の怒りを買いかねない。時と場合によっては立場逆転、なんてこともあるだろうし」
貴族は商人を通してドレスや宝飾品などを購入するため、商人に何かあれば物流は滞り貴族は大打撃を受けかねないのだ。よって緋夜としてはそんな商人達で潤っている町に手を出すことはあまり考えられない。……余程の馬鹿でない限りは、だが。
「それはあるだろうが……どうすんだ?」
「本来は関わりたくない、というか完全に無視するんだけど……セレナが関わってるかもしれないし、実際私達も被害を被ったからね。それだけで腰を上げるには十分だよ」
「セレナに手ぇ貸すのか?」
「はい? なんで手貸すってなるの? 私達が勝手に動くだけなのに」
「あ? ……ハーン、なるほどな」
緋夜の思惑を理解したガイが笑みを浮かべた。
「お前も大概だな」
「セレナ達に配慮しただけだよ」
「そういうことにしておくぜ」
「やだな。本心だよ」
会話をする二人は実に楽しそうだった。
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翌日、緋夜とガイはセレナに会うため、予定を聞こうと警吏兵の元を訪れていた。
「すみません」
「なんだ?」
「昨日の件で少々お話があるのですが」
「昨日っつうと……ああ、あれか。情報提供をしてくれるのか?」
「いえ、そうではなくて」
「? 違うのか?」
「はい。実はですね」
「失礼、邪魔するぞ」
声とともに入ってきたのはセレナだった。セレナは緋夜と目が合うと目を輝かせた。
「ヒヨとガイじゃないか! まさかこんなところで会うとは思わなかったぞ」
「セレナ!」
気軽に呼び合う二人に警吏兵がポカンとしている。
「今日はどうしたの?」
「いやな、昨日また起こったと聞いて詳しい状況が知りたくてな。少し寄らせてもらったんだ。緋夜達こそをこんなところでどうしたんだ?」
「あー、実はね……」
緋夜が昨日の出来事を話すとセレナが拳を握り、黙りこんだ。そして……
「そうかそうか……お前達が……よくわかった……」
「セレナ?」
途端に様子が変わったセレナからドス黒いオーラが出ているのはきっと気のせいではないだろう。緋夜は漂う不穏な気配に思わずガイの服を掴んだ。
「安心しろヒヨ。この私が必ず奴らを牢にぶち込んでやるからな。なに、何も心配はいらないさ……」
顔を上げたセレナは大変にいい笑顔だった。心配するな、とは無理である。
(きっと、相手は生き延びることができそうもない、けど私達のため怒ってくれているのは嬉しいな)
しかし、緋夜としてはこのままセレナにやらせるつもりはない。
「セレナ、盛り上がっているところ悪いんだけど一ついいかな」
ピタリとセレナの怒気が止んだ。
「なんだ?」
「ここは人が多すぎて話ができないからどこか別の場所に行こうか」
警吏の人も迷惑だろうし、と言えばセレナはあっさりと頷いた。
「そうだな、移動しよう。だがその前に話が聞きたい。しばし待ってもらえるか?」
「勿論だよ」
セレナが警吏と話す間、緋夜はガイの隣で肉を食べていた。
「付き合わせてごめん」
「別に。俺も邪魔されんのは嫌いだ」
「そう。……はい」
「ん」
緋夜から肉を受け取りガイも頬張る。
「それにしてもセレナ、少し痩せたかな」
「知らね。けど、ちょっかい出されるせいでイラついてんじゃねえの」
「ああ……確かに。ちょこちょこ刺されるのはイライラするよね」
「貴族故だろうよ」
「社交界だけが厄介なわけではないからね。貴族は常に他家の動向に気を配っているから、トラブルが起これば容赦なく突かれる」
「面倒なもんだ」
「仕方ないよ。それが貴族社会だから」
「……ふん」
肉を頬張りながら話しているとセレナが戻ってきた。
「待たせたな。行こう」
緋夜達はセレナに続いて外を出た。
「折角だ。このまま私の家に来い」
「……はい?」
「私の家ならば外に情報が漏れる恐れはない。緋夜達が話したいことは機密だろう?」
どうやらセレナは緋夜達が話したい内容に気付いてるようだ。
「心配するな。緋夜達は私の客なのだから」
「……なら、招待されないといけないね」
「そうこなくては」
二人は笑い合い、双方合意の上でセレナの自宅、クリフォード侯爵邸へと向かった。




