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27話 ダンジョンの『最下層』

緋夜に言われた言葉にガイは若干驚いた。このダンジョンは潜ったことはあるが、ここが最下層だ。そのことに間違いはない。だが、緋夜がわざわざどう思う、と聞いてきた。ということはそれが意味するものは。


「つまりここより下があるってことか?」

「どうだろう。だけど最後の魔物を倒した時一瞬だけど何かが変わった気がしたんだ。特に何かが変わったわけじゃない。でも確実に『何か』は変わったと思う。調べてみない? 何もなければそれでいいけど」


緋夜がそういうとガイは何かを考える素振りを見せたが、やがて一つ頷いた。


「初めて潜ったお前が言うならなんかあんだろ。ダメ元で調べてみるか」

「ありがとう。ダンジョンの仕掛けって、魔物を倒す、仕掛けを動かす、謎を解くのどれかで扉を開くことが定番だよね」

「一応な。だが……」


あたりを見てもそれらしきものは見当たらない。何かが浮かび上がることも今のところない。


(違和感は床から感じた。ってことは、床に何かあるのかな)


 緋夜は床に手をついて違和感がないか探り始めた。特に違和感は感じられない。


(なら、違和感を与えてみようか)


「ガイ、ちょっと下がってて。床に魔力を流してみる」

「あ?」

「違和感がないから違和感を与えて、この部屋の反応を見てみたい」

「分かった」


 ガイが壁際まで移動したのを確認すると、緋夜は自身の魔力を床に流した。床一面を魔力で満たす。


(うーん……何も反応なしか……?)


 均等に流し込んだはずの魔力が一部分明らかに少なくなった。その場所に魔力を流しこんでみるが他の場所と均等にはならない。その場所を見つめて笑みを浮かべた。


「ガイ、見つかった」

「どこだ」


 緋夜はそこの部分に触れる。


「この部分だけ魔力を込めても他の場所と均等にならなかった。何かあると思う」

「見たところ普通の床だがな。ちょっと退いてろ」


 緋夜は言われた通りに避けて、ガイは緋夜が示した部分を片足で踏み込んだ。


「おい、この状態でなんかやってみろ」

「? 分かった」


 緋夜は魔力を一点に溜めてガイが足を置いている部分に一気に流し込んだ。太陽光を鏡に集めて紙を燃やすのと似たようなものだと思えばいい。加えて緋夜の魔力は無限だ。それだけの魔力を一箇所に込める。


――ピシッ


「「!」」


 何かがひび割れる音がした。ガイはその部分を片足で踏み込む。すると、踏み込んだ部分が砕けると同時に床一面に一瞬魔法陣が浮かび上がり。


「嘘……」

「まじかよ……」


何もなかったはずの床から人が二人通れる程度の通路が現れた。のはいいのだが……



「これ……這っていくの?」

「普通に滑って行きゃいいんじゃねえの」

「まあそうなんだけどさ、狭いよ」

「これで魔物が出たら終わりだな」

「こんなところで出られたら対処できないんだけど」


緋夜達が頭を抱えるのも無理はない。その通路は言ってしまえば暗闇の滑り台のようなものだ。幅はあるもののこれでは魔物が出てきた場合対処が難しい。


「……折角見つけたのに諦めたくはないし」

「……俺が先に行く。お前は後からついて来い」

「あ、その前に」

「あ?」


緋夜は自身とガイを魔力で包みこむと、二人の体が光りだす。


「おいこれ……」

「これならこの暗い中でも大丈夫だと思う」

「助かった」


そう言ってガイは緋夜の頭をポンと叩き、通路の中に入っていく。


「……いきなりだなぁ」


遅れるわけにはいかない、と緋夜もガイの後に続いて通路に入っていくと、凄まじい勢いで滑っていく。


「嘘でしょなにこれ!」

「くっ……!」


通路に入った緋夜達の体は驚異のスピードで滑り落ちていく。おまけに。


「なんで螺旋状になってんの~!」

「ふざけんてんだろマジで!」


緋夜達のの叫びも虚しく、速度は更に加速し、そして。


「「うわあっ!」」


どこかわからない空間に放り出された。幸い、下の何かが緩衝材となり、無傷だったが。


「なんだったの一体……」

「……おい、大丈夫か?」

「なんとか……それよりもここは一体……」

「さあな、けど」


ガイは周囲に視線を向けると、四方八方に太さがバラバラの糸のようなものが張り巡らされていた。緋夜達が落ちたのは糸の上らしい。


「すっごいところ」

「なんだここは」

「方々に糸みたいなのが張られてるけど……なんか繭の中みたい」

「繭?」

「うん、なんとなくだけど……」

「……もしここが繭の中なら……」


ギイイイィィィッッッ


「……なんの声?」

「……知らねえ」


ギイイイィィィッッッ


「「……」」


背後から聞こえてくる奇妙な声に二人揃って振り向くとそこには……


「ファイアーモス……だよな」

「でも……」

「「デカすぎだろ!!!!!」」


体長約十メートルを超える巨大な蛾が緋夜達を見ていた。通常のファイアーモスは体長はせいぜい五十センチ程度だが、これはその二十倍の大きさである。


「これ……大きいだけで弱点は一緒だよね?」

「だといいがな……」

「やってみよう」


ファイアーモスの弱点は氷だ。通常、火には水だが、この蛾は水が効かない。そのかわりに氷が効くのだ。


「ごめんね。倒すよ!」


そう言って緋夜は氷の刃を作り出し、ファイアーモス目掛けて放つ。当然抵抗してきたが、真っ先に羽を凍らせたので、すぐに飛べなくなった。


「よし、あとは……」


羽の攻撃を封じられたファイアーモスの攻撃手段は毒と糸。緋夜は先手必勝で残りの攻撃手段を封じ、氷の剣でファイアーモスの急所を貫いた。


「ギイイイイイィィッッッッッ!!!!!」


奇妙な声を上げながらファイアーモスは倒れる。動く様子はないので、完全に息は止まった筈だ。


「ふう……これでいいかな」

「ああ、氷効いてよかったな」

「うん。あの大きさだからもしかしたら効かないかとも思ったけど」

「とりあえずこれで先に……ん?」

「どうしたの?」


ガイは突然険しい表情になり、倒れているファイアーモスを睨みつけた。疑問に思った緋夜が振り向くのと同時にそれは起こる。


「……は?」

「ちっ……!」


倒れたはずのファイアーモスは周囲の糸を全て自身の体へとまとわりつかせた。


「離れろ!」

「っ!」


ガイは緋夜を抱き抱え、その場を離れ糸がなくなったことで見えた床に降り立つ。


「おいおい、なんだこりゃ」

「冗談でしょ……」


糸を吸収し自身の体を包み込んだ、先程までファイアーモスだったそれは、鱗を持ったタコ型の生物へと変貌していた。


「どうする、これ……」

「……久々に手応えありそうなの出てきたじゃねえか」

「……はい?」


魔物図鑑に載っていない未知の魔物を前に、表情と声が輝いたガイに、緋夜は視線を向ける。


「えーっと……じゃあガイが倒す?」

「ああ」

「分かった。私隅っこにいるね」

「ああ」


頷くや否や、狩りをする獰猛な獣の如き眼差しで、ガイはタコモドキに斬りかかって行った。



      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 凄まじい地響きの中、タコモドキとの戦闘を終えたガイは平然と緋夜の側へと戻ってきた。背後に視線を向けると触手は切断され、腹を裂かれたタコモドキが転がっている。


「お疲れ様。結構時間かかったんじゃない?」

「そうか? まあ、あの触手は厄介だったな。吸盤ひとつひとつから糸が出てきやがっていたからな」

「ああ……確かにね」

「で、どうすんだ? あれ持って帰るのか?」

「売れるんなら欲しい。鱗のついたタコなんて面白いし、糸も何かに使えるでしょ多分」

「分かった待ってろ」


そう言ってタコモドキのところへ行き、片手でタコの鱗を解体しだした。


(いや、腕力おかしいでしょ。なんで片手で剥げるのあれ)


ガイの身体的な規格外を呆然と眺めながら緋夜はこの空間のことを考えていた。

今まで誰も気づかなかったこの空間。宝箱は見当たらない。だが、タコモドキという大物がいた以上、何もなしとは思えない。情報が少なく分からないことが多い上、タコモドキの動きも不自然だった。動きが微妙に限定されていたような気がしていたのだ。まるで何かを守るように――

 緋夜はタコモドキの後ろに視線を向けた。よく目を凝らすと、緋夜の目に何かの模様が見えてきた。


(あれは……)


緋夜は立ち上がり、鱗を剥ぎ取っているガイの側に行き剥ぎ取った鱗をバッグにしまう。


「ガイ」

「あ? もう少し休んでろ」

「じゃなくて、あの模様」

「模様?」


ガイが緋夜の指差した壁を見ると、確かに奇怪な模様が浮かび上がっている。

緋夜はタコモドキに目を向けると頭の部分に水色の石が埋め込まれている。


「ガイ、この額の石取れる?」

「ああ」


 ガイが石に手をかけると石は額からあっさりと外れた。


「これでいいか」

「うんありがとう」


緋夜はガイから石を受け取るとガイと共に模様が描かれている壁に近づき、模様の一部が凹んでいる場所に石を埋め込むと、石はピッタリと凹みに埋まった。

すると、石が青白く光りだし模様に流れていく。やがて模様全体が光ると石の真ん中に線ができて、ゆっくりと割れていく。


「ガイ、これって……」

「ああ、この先に何かある」


そして外側に向かって扉のように左右に開いた。


「扉だったんだ」

「しかもタコモドキの額の石が鍵とはな」

「よっぽど知られたくないものでもあるのかな」

「さあな。行ってみるか?」

「ここまで来たからね。私達の特権でしょ」

「確かにな」


 二人は一つ深呼吸をすると、同時に扉の向こうへと歩き出した。

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