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26話 的中した予感

「政略結婚と言えば、セフィロスの第一王子とシネラの第二王女との婚約が白紙になったらしい」


 その言葉に緋夜は思わずグラスを落としそうになり、寸でのところでなんとか堪えた。事情を知っているガイも若干眉間に皺を寄せていた。


「……へえ。何か理由があるのかな。第一王子ってルドルフ様、だっけ?」


その後の展開を知らない緋夜は興味を惹かれ世間話に耳を傾ける。ガイはそんな緋夜を微妙な表情で見ていた。


「ああ。ルドルフ殿下で合っている。セフィロスで聖女召喚が行われたのは知っているか?」

「うん知っている」


(当事者だからね)


「その聖女召喚で巻き込まれて召喚された女性がいたらしいんだが、なんでも聖女ではないという理由で冷遇していたらしい。そのことに憤ったその女性が国を出たんだ」

「へえ。それで?」


セレナの話を聞いている緋夜は一連の出来事を思い出していた。


「それで、その責任を取るために聖女召喚を統括していたルドルフ様とその側近、あとは召喚を実際に行った魔導師長がその女性を探して謝罪をするまで国外追放扱いにしたんだ。民衆からも非難が上がったようだからな。それに伴い、婚姻までに見つけて謝罪できる保証はないし、シネラにとっても不利益が生じる、という理由で婚約を白紙にしたんだ」

「そうなんだ。でもそれってルドルフ様の自業自得じゃない?」

「そうだな。そう思う。普通は隠しておくものだが民衆が動いたことで隠そうにも隠せなくなったのだろうしな」


その言葉を聞きながら、緋夜はまあそうだろうなと納得する。隠すも何も本人が民衆にバラしたのだからどうしようもない。バラされたくなかったらそれ相応の対応をしておけばよかっただけなのだから。

ふと疑問を覚えセレナに問いかけた。


「そのルドルフ様って今どうしてるの?」

「側近と共にその女性と最後まで一緒にいた騎士のところへ行ったがその騎士は途中まではご一緒したものの行きたいところがあるからと言われ途中で別れた、と言っていたそうだ」


実際には彼の守護する砦まで一緒にいたのだが、確かに『途中で』というのは間違っていない。嘘は言っていないため、後で発覚しても問題にはならないだろう。魔法が使えたとしてもまだまだ素人に魔物が多数出るセフィロスとシネラの間に広がる森を抜けることは難しい。

もっとも、緋夜は本名を明かしていない。レオンハルト達には伝えたが、緋夜が城の人間をよく思っていないことは知っているので、迂闊に漏らすことはないだろう。


思考を中断し話を続ける。緋夜にとって重要なのはこの後なのだから。


「じゃあ、それを聞いたルドルフ様はどうしたの?」

「……国境を越えて、今シネラの王都にいるらしい」

「……そっか」


緋夜とガイは視線を合わせ、同時に鼻で笑った。


「どうした?」

「いえ。随分と」

「間抜けだ」


二人の見事な連携にセレナは思わず目を丸くするが、仲が良いのだ、と思うことにした。


「そうだな。これからどうする気やら」

「ところでその女性って名前何?」

「確か……セルビア・キサラギ、だったか」

「……へえ」


緋夜の口元に微笑が浮かぶ。彼らがたどり着くことはないだろう。何故ならセルビア・キサラギという人間は存在しないのだから。そこに気づくかどうか、しばしの間緋夜の娯楽が増えた。


「面白い話だね。ありがとう」

「いや、こっちこそ楽しかった。クリサンセマムにいる間、遊びに来るといい。父には話を通しておく。ヒヨ達ならいつでも歓迎だ。なんなら屋敷に滞在してもらって構わない」

「いや、流石にそれはまずいって」

「いくらなんでも無茶だな」

「宿代は浮くぞ」

「それ、貴族の人間が言っても説得力ない」

「そうか? それはすまない。だが冗談抜きで是非泊まって行って欲しい」

「ありがとう。もう宿はとっているから次来た時にでも」

「ああ」




 それからしばらく雑談した後会計を済ませて店を出てそれぞれ帰路についた。


「いい情報が手に入った」

「こっちに来て正解だったな。王都にいれば今頃捜索されていたぞ」

「だね。自分の勘に感謝だよ」

「奴らが王都を出るまでこっちにいるんだろ」

「うん。名前で探している間は大丈夫だろうけど、容姿や顔で探されたら見つかりそうだから」


ガイの言葉に無言の笑顔を浮かべて返事をした。万が一の場合は見た目を変えることはできるのでガイ共々、色彩やら見た目を変えてやり過ごすことは可能である。


「何にしても、私は会いたくないから」

「もし奴らと会った場合、許すのか?」

「どうだろうね。許しだけを乞うのであれば考えなくもないけど、もし戻って来いとか言ってきた場合は絶対に許さない」

「だろうな。流石に自分勝手すぎるだろ」

「捉え方が捻くれてるって自覚はあるけど可能性としてあるんだからしょうがないよね」

「まあ、こればかりはお前の問題だからな。好きにやれよ」

「元々そのつもりだよ」

「そうかよ」


緋夜の考えにあっさりと理解を示すガイに内心感謝しながら宿に帰った。


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


――翌日


 二人は朝から馬車に揺られていた。クリサンセマムにあるダンジョンの一つ『精霊の古城』を目指して。かつては精霊達が住んでいたがやがてどこかへと引っ越し、その住処だけが残された。やがて長い時間をかけて神聖な空気が汚染され魔物が巣食うようになった、らしい。真実は不明だが、この話を聞いた途端に緋夜は即決した。他のダンジョンは後日潜ることに。

 尚、緋夜とガイが馬車に乗った途端にその場にいた全員から視線をもらったのはいうまでもない。




 馬車を降りると城門らしきのもが建っていた。ダンジョンはパーティで区切られるらしい。前のパーティが一定階層まで行くと次のパーティが入れるようになっているという。それを聞いた緋夜が融通効きすぎと思ったのは無理もない。


「ここが『精霊の古城』……なんか光ってる。ところどころに魔石っぽいのあるんだけど取れないの?」

「無理だな。ダンジョンの中は宝以外のものは取れないようになっている」

「魔物は?」

「倒したら消える。一定時間過ぎると復活する」

「まあそうだよね。じゃなかったらシステム的にホイホイ入れないでしょ。不公平だし」

「ダンジョンに公平求めてどうすんだ」

「確かに」


――キン


二人で話してると何かの音が聞こえ、緋夜は立ち止まったその瞬間。


――ヒュン!

――ドガッ!

 

 壁に突き刺さったそれは、斧だった。どうやらさっきの音は罠の発動音だったらしい。


「ここは普通矢じゃないのかな」

「開口一番にそれかよ。しかも突っ込みどころおかしいだろ」

「いや、だってさ。斧って効率悪くない? 罠として」

「……お前の中のダンジョンってどうなってんだよ」

「単純な疑問なんだけどな」

「だが、止まってよかったな。じゃなきゃ今頃は斧に当たって死んでる」

「間違っていないけど、さらっと言わないでよ。怖いな」

「事実だ。まあ俺が死なさねえから安心しろ」

「頼もし~」

「茶化すな」


そんなやり取りをしながら二人は魔物を倒しながらどんどん下へと降りていく。このダンジョンは二十四階層までだそう。現在緋夜達は十七階層まで来ていた。


「転移があれば楽なのに」

「お前が初めてだからだろ。一度来たことがある人間なら転移が使えんだよ。ただし、初めて来たやつと一緒の場合は使えない」

「何その微妙なシステム」


面倒な、と思ったがこればかりは仕方ないと割り切り先へ進んだ。



      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 二人は二十三階層までやってきた。ここに来てからまだ二時間も経っていない。


「ダンジョンてこんなにサクサク進めるもんかな」

「普通は無理じゃねえの。お前が罠全部封じてくれるから楽だ」

「私はガイが魔物全部斬ってくれるので楽ですが」

「んじゃお互い様だな」

「なんか複雑なのは私だけ?」

「気のせいだ」


そうこう言いながらも最下層へたどり着いた二人は、いきなり目の前に現れたキメラをあっさり倒した。


「これで最後かな」

「ああ二十四階層だからな。ここでダンジョンは終わりだ。戻るか」

「うん。景色だけでも楽しかったし」

「よかったな」

「うん。じゃあ地上に……?」


 地上に帰ろうと言い出した緋夜は、一瞬違和感を感じて立ち止まり床を見た。変わったところは特にない。だが、あの違和感は何かある。


「どうした」

「……ガイ。このダンジョン本当にここが最下層なの?」

「ああ。そうだが」

「本当に?」

「なんだ、何かあるのか?」


 緋夜の問いかけにガイは訝しみの目を向ける。緋夜自身もガイを疑っているわけではない。ガイが言うのならばここは最下層で間違いないだろう。


――だが、もしも。

 

緋夜の感じる違和感にある可能性が浮かび上がり、ゆっくりとガイの方を向いて笑みを浮かべた。


「……ねえガイ。もし、もしもだよ? このダンジョンに本当の最下層が眠っているとしたら、どうする?」


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