18話 パーティ登録
その日、ギルド内はかつてないほど大騒ぎになった。理由は……
『漆黒一閃』がパーティを組んだ
からである。たった一人の冒険者がパーティを組んだ程度でてんやわんやの大騒ぎ。あちこちから多くの噂が飛び交い、一種のパニック状態になった。だが、彼が最強と、孤高と謳われるからこそ、それは大きな波紋を呼んだ。噂が噂を呼び、ある者はその事実に憤り、ある者は落胆し、またある者は彼が組んだ相手を恨み、ある者は納得した。
彼が組んだ相手の名はヒヨとても冒険者とは思えない容姿をしている。母親から受け継いだ艶やかな淡いプラチナブロンドの髪に白い肌、抜群のスタイル。父親から受け継いだ黒い瞳はどこか悪戯っ子のような雰囲気を持つ。二人が並んで歩いても一切の違和感はない。だからこそ、余計に人々は騒いでいる。
そんな大騒ぎの中、話題の中心であるはずの緋夜達はどこ吹く風とばかりにギルドにやってきていた。
扉を開けた途端一斉に向けられる視線をものの見事にスルーしてゼノンのところへ向かった。
「お、噂のパーティのご登場か」
「おはようゼノン」
「おいおい……びっくりするくらい普通だなヒヨ」
「視線には慣れてるからね」
「そうかよ。しかしまさかお前らがくっつくとはな」
「うるせえよ」
「そう、カッカすんなよ! 別に悪い意味じゃねえしな」
「ふん」
「んじゃまずはパーティ登録からだな。リーダーは……」
「こいつだ」
「嬢ちゃんか」
「ガイの方がいいんじゃないって言ったら嫌だって即答された」
「だろうな。んじゃリーダーは嬢ちゃんとして……パーティ名はどうすんだ?」
「……考えてなかったから、とりあえず保留で」
「あいよ。ガイ、嬢ちゃん、ギルドカード貸しな」
「ん」
「はい」
ゼノンに言われるままにギルドカードを出す。ゼノンが隣にあるボードの上にカードを置くとカードが光り出した。光が収まり、ゼノンがボードからカードを取った。
「ほれ、これでパーティ登録完了だ」
「ありがとう」
「ん」
緋夜達ははカードを受け取り、そのまま依頼ボードに向かった。
「どうしよっかな……ガイはなんか受けたい依頼ある?」
「リーダーはお前だろ好きに選べよ」
「もう……あ、これいいかも」
緋夜はEランクのボードから一つの依頼用紙を手に取った。
【依頼内容:ゴブリンの群れの討伐
ランク:E
場 所:アルスの洞窟
数:???
報 酬:群れの規模による
備 考:なし 】
「ゴブリンの群れの討伐か」
「うん。ゴブリンがどれだけいるか分からないって楽しそう」
「そんなふうに考えんのはお前くらいだぞ」
「ガイの場合は『雑魚つまんねえ』って言いそうだけどね」
「実際思ってる」
「だろうね」
そんな軽いやりとりをしつつ受付に持っていく。
「ゼノン、受付お願い」
「ああ……へー、パーティ結成初の依頼はゴブリン退治か。パーティランクはDだからDランクまでなら受けられるぞ」
「そうだけど、どれだけいるか分からないからちょうどいいでしょ」
「ハハッそうかもな」
カラカラと笑いながらも依頼受付をしたゼノンはチョイチョイと緋夜を手招きした。
「どうしたの?」
「いや、まあちょっと忠告しとこうと思ってな。嬢ちゃん、ガイが『漆黒一閃』って呼ばれてんのは知ってるか?」
『漆黒一閃』。それは緋夜が時々耳にしていた名前だ。当然その言葉がガイを示すものだと気づいるので緋夜は素直に頷く。
「いやな、最強って呼ばれる奴がパーティ組んだってことで前々からガイを勧誘していた連中や憧れている連中の中で嬢ちゃんに腹立てたり恨み抱いてる連中がいるんだ。ごく一部だがな。あとはガイのあの容姿と雰囲気に惚れている女共も嬢ちゃんを目の敵にしている。しばらくは気をつけた方がいい。出来るだけガイと行動しろ。いいな?」
「忠告どうも。でも気づいてるから大丈夫。そういう連中の対応は知ってるし」
「は?」
怪訝そうな顔をしているゼノンに緋夜は笑顔で返す。実際緋夜は自分に向けられる感情に気づいていた。昔から妬みや僻みは何度も受けているしいじめも一度や二度ではない。まあそんな連中は最後に相手の親込みでとんでもない目に遭ったのである意味伝説になっている。ちなみにこれらの件に関して緋夜は親の権力やコネは一切使用しておらず、叱られてもいない。相手の自業自得、の一言で済ませた。
「大丈夫だよ。なんかやってきても法に触れない仕返しは心得ているから」
まあそのせいで心が壊れても自業自得だよね、と実に清々しい笑顔で言い切った緋夜にゼノンはちょっと引いたが、本人がいいならいいか、と無理矢理切り替える。
「あ、うん。嬢ちゃんがいいならいいや」
「おい、話終わったんなら行くぞ」
「あ、それじゃ、ゼノン。あとでね!」
「お、おう! 頑張れよ」
ヒラヒラと手を振ってギルドを出た緋夜を見てゼノンは思わずため息をついた。普段の様子からは絶対に想像もつかない物騒な言葉をなんでもないように口にした緋夜は見た目で侮ると大変なことになるかもしれない。ゼノンは、緋夜にちょっかいを出す輩が出ないことを密かに願った。
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「さっき何言われたんだ?」
「ん~? 内緒」
「……言うつもりならお前の方から言っているか」
「そういうことです。それよりもアルスの洞窟って王都を出て西にある洞窟だよね?」
「ああ、そういう人に見つかりにくいところにゴブリンの巣があることが多い。まあ洞窟内だから他の魔物もいるかもしれないが」
「ならまとめて倒せばいいでしょ」
「だな。アルスまでは馬車が出る。それに乗るぞ」
「時間決まってるんだよね。間に合うかな」
「余裕だろ」
そうこう言いながら緋夜達は馬車乗り場にやってきた。緋夜達が到着するとこれからいろいろなところに行くであろう冒険者達が一斉に視線を向けた。
「やっぱり注目されるね。さすがガイ」
「俺だけじゃねえだろ」
「でもほとんどはガイに向いていると思うけど?」
「アホ! お前にも向いてるわ」
「アハハハハ!」
「笑ってんじゃねえぞ、ったく」
どこまでも対等な二人を見て周囲は驚愕した。あの『漆黒一閃』が誰かとここまで砕けた態度を取る姿を見たことがない。そして目の前の光景はどう見ても男女のそれではなく、どちらかと言えば同性の友人に対する態度だ。見目麗しい二人にも関わらず、一切の艶がない関係。
そんな冒険者達の視線をお遊び程度に話していると馬車がついた。
「先乗れよ」
「うん」
緋夜は馬車に乗り込み席に着く。表には出さないが内心ではちょっと興奮していた。何せ緋夜にとって初めての馬車なのだ。
「座席はないんだね」
「ああ、一人でも多く詰めるために取っ払ってんだよ」
「なるほど」
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目的地で降りた緋夜達はアルスの洞窟の入り口にやってきたのだが……。
「……うん、ゴブリンだけじゃないね。なんかいろいろいそうなんだけど」
「いるな。確実に」
「一番入り口の近くにいるのは……」
「レッドバットだな。天井を埋め尽くしてやがる」
「コウモリなら一瞬で全滅させられるよ」
「んじゃ任せるわ」
「はいはーい、ちょっと耳塞いでて」
ガイは緋夜に言われるままに耳を塞抱いだ。緋夜は一歩前に出て洞窟内に手をかざし、次の瞬間、凄まじい音があたりに響き何かが一斉に地面に叩きつけられる音がした。
「もういいよ」
「超音波か。よくやるな」
「じゃあ進もうか」
「おう」
緋夜とガイは一つ深呼吸をして、同時に洞窟内に駆け出した。




