17話 パーティ結成
話があると言われ、ガイと共に近くのバーに入った緋夜はガイに促されて席に着いた。個室なため、誰かに聞かれる心配はない。テーブルにはワインのボトルが置かれてる。
「それで、お話とは?」
「依頼は今日で終いだ」
緋夜はグラスを持っていた手を一瞬止め、ワインを飲み干した。
「……なるほど。ランクが上がったからもう自分の付き添いはいらないだろうと」
「……随分と落ち着いているな。もっと喚くと思ったが」
「私がそんな面倒な女に見えます?」
「いや全く。違う意味で面倒だがな」
「それは失礼」
「で? いいか」
「期限は確かに一ヶ月でしたが、問題はないでしょう。一ヶ月きっかりとは言っていませんでしたし」
「そうかよ」
「それでは報酬ですが」
「いらねえ」
「はい?」
「いらねえっつったんだ」
「……何故?」
緋夜の声が少し低くなったのは無意識だろう。緋夜は筋の通らないことが嫌いである。こちらから依頼した手前、謝礼なしというのは緋夜のポリシーに反する。
「私は道理が通らないのは嫌いなのですが、私が納得できるだけの理由はおありで?」
「お前が誰かに縛られんのが嫌いなように俺も他人に縛られるのは嫌いだ。誰となにをするも、俺がどんな選択をしようが誰にも文句は言わさねえ。もし文句を言う奴がいるんなら叩き斬る」
「物騒ですね」
「だから、俺が俺の意思で決めたことに口を挟むんなら」
直後、緋夜の喉元にガイの大剣が突きつけられる。遅れてやってきた突風に髪を煽られた緋夜はそれを瞬きもせずにじっとガイを見つめていた。……楽しそうに。
「お前であっても殺すぞ」
「……へえ?」
「だから」
ガイが唐突に緋夜の顎を掴んで引き寄せた。
「退屈させんなよ? ヒヨ・セリハラ」
獰猛な笑みを宿したガイの整った顔が緋夜の間近に迫り、顎を掴んでいる手に力が込められた。緋夜はガイの意思を即座に読み取り挑発的な笑みを浮かべて受け止め、やがてひどく楽しそうに口を開く。
「その言葉、そっくり返すよガイ。私を退屈させないで?」
「誰に言ってやがる」
「そっちこそ」
お互いに挑発し合いながらも楽しそうな笑みを浮かべた。
――この瞬間、後に世界最強と謳われる冒険者パーティが誕生した。だがそれはしばらく先の話である。
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二人は席に座り直してワインに口をつけた。
「さてと、それじゃ隠しごとはよくないよね」
「あ?」
「今から言うことに嘘はないよ。私の真実を話す。自分自身についても魔力についても全部」
「……分かった」
緋夜は自分の身の上を全てガイに話した。セフィロスの聖女召喚に巻き込まれたこと、魔力も属性もなかったため城の連中から冷遇されたこと、ダメ元で試したら全属性を使えるようになったこと、魔力が尽きたことがないこと、冷遇に耐えかねてセフィロスを飛び出したこと。何一つ偽ることなくガイに聞かせた。
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「……というわけでこの国に来たんだ」
「…………ハーン」
「驚かないの?」
「嘘にしちゃ支離滅裂だ」
「ごもっとも」
「まあ、お前がなんだろうが関係ねえよ、お前はお前だろ」
「ありがとう、ガイ」
「別に。上層部がイカれてるってだけでお前に非はねえだろ。堂々としろ。セフィロスに置き土産残してきたんだ。これでお前も自由だろうが」
あっさりと受け入れ、態度を一切変えることなく接してくるはガイに緋夜は自分の選択が間違っていなかったと確信した。この男は信用、いや信頼できる。できれば永く共にありたいものだ、と。
(幸運だな、この男に会えたのは。アイツらに感謝かな。絶対言ってやんないけど!)
そこで緋夜はふと、レオンハルトのことを思い出した。セフィロスで唯一緋夜に対して気遣いを向けてくれた人物。本当に自由になるにはセフィロスとの繋がりを完全に立つ必要がある。レオンハルトのことは尊敬できるし、いい人だとは思うが、城の連中がレオンハルトから緋夜に接触してくる可能性がある以上どうにかする必要がある。
(まあ、対策立てたところでどの道接触しそうだし、レオンハルトさんなら私の事を容易に教えたりはしないだろうけど。それに借りもあるしね)
緋夜は国境を越える際、レオンハルト達から銀貨二十枚を受け取っていた。レオンハルト達は大丈夫だと言いそうだが、緋夜的には借りは作りたくないので返しに行くことにした。
「ガイ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんだ」
「ここにくるまでに銀貨二十枚貰ったんだけど、返しに行きたいんだよね」
「ああ、いいぜ」
「ありがとう」
「なら早え方がいいだろ。明日にでも行くか?」
「そうする」
「じゃあ馬車で……」
「いや、馬車は必要ない」
「どうする気だ?」
「転移魔法があるから大丈夫」
「転移? できんのか……って全属性っつってたな……転移ができんなら今から行きゃいいだろが」
「あ、そっか」
「そっかじゃねえよ。店の奴は俺らが出るまで入って来ねえからさっさと行って帰ってくんぞ」
「了解」
緋夜とガイが立ち上がり、緋夜はそのまま転移魔法を使いレオンハルトのいるミルノーラ砦へ向かった。
「到着」
「……便利なもんだな」
「一度行ったことがある場所なら行けるみたいなんだよね。でも普段は歩きや馬車で移動する方が安全だと思う。人に見られるとまずいし」
「ああ、転移なんて使える人間なんぞほとんどいねえからな」
「……それ聞いた時はびっくりしたんだよね」
「お前が規格外なだけだ」
「ガイにだけには言われたくない」
「強調しやがってこの女」
緋夜の額を絶妙な加減で叩きながら砦に視線を向ける。
「さっさと済ませんぞ。無理なら俺が行く」
「……うん、ガイが行くのはまずいと思うから自分で行く。ガイはここで待っていて欲しい」
「……分かった」
緋夜は一つ頷いて砦に近づき、扉をノックした。
「誰だ」
「こんな時間にすみません、セルビアです。あの……」
「え!? キサラギ様ですか!? 本当に!?」
「は、はい」
「え!!? っちょ、まじで!? なんでっ!? って、ちょっと待っててください!! 団長~~~!!!!!」
バタン! ガタガタガタ!!!
豪快な音を立てながらレオンハルトを呼びに行った騎士に少々引きながら待っていると、すぐに大勢の足音が聞こえ。
『キサラギ様!』
レオンハルトを先頭に大勢の騎士たちが飛び出してきた。その雰囲気は以前と全く変わっていない。
「まさかもう一度お会いできるとは思っておりませんでした。お元気そうで何よりでございます」
「レオンハルトさん達も元気そうでよかったです。今日来たのは以前用立てて貰った銀貨二十枚を返しに来たんです」
「ああ……わざわざ返しにいらしたのですか? お気になさらずともよろしかったのですが」
「それでは私の気が済まないので。返させて。冒険者になったからお金は自分で稼げるようになりましたし。受け取ってください」
「冒険者? キサラギ様がですか?」
「はい、楽しくやっていますよ」
「へえ~キサラギ様が冒険者ねえ! まあいいんじゃないですか。好きにやれば! 折角この世界に来たんだからよ」
「その通りだぜキサラギ様! 俺ら全員キサラギ様が元気にやっていればそれだけでいいですから」
「思いっきり暴れちゃってくださいよ!」
「はい!」
口々に応援の言葉をかけてくる騎士達に優しさを感じながら、銀貨二十枚を手渡した。
「銀貨二十枚。受け取ってください」
「わざわざありがとうございますキサラギ様」
「緋夜」
「はい?」
「私の本名は芹原緋夜といいます」
「ヒヨ……様?」
「はい」
「え? でも本名って?」
「騙すようなことしてすみません。あの時は本名を言う気になれなくて」
「そうでしたか。ですがこうして明かしてくださってありがとうございます」
「いえ、あなた方には大変お世話になりましたから。せめてもの誠意です」
「ヒヨ様……」
「それでは私はそろそろ戻りますね。連れがいるので」
「はい。お元気で」
「レオンハルトさん達もね!」
「はい」
「元気でな!」
「また来てくださいね!」
あたたかい言葉をかけてくる騎士達に手を振りながら緋夜はガイのいる所に戻った。
「ガイ、ありがとう」
「随分と慕われてんのな」
「慕われてるとは違うと思うけど、まあいいや。戻ろう」
「もういいのか」
「うん。これで未練はないよ。まあ何かあってもうまく対処すると思う」
「そうかよ。んじゃとっとと帰んぞ」
「うん!」




