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16話 ランクが上がった

 到着した緋夜はその光景に息を呑んだ。巣はヘビの群れに襲われていた。全長は約三十センチ程度だが、次々とハチ達を喰っている。


「あれは……」

「あれがスモールバイパーだ。奴等は蛇のくせに群れで行動する。肉食で牙に毒。そして奴等の好物は、コガネバチだ」

「なるほど天敵ですか。でもちょうどよかったです。ヘビの依頼達成しておきましょう」

「……お前な」

「だってこのままじゃ蜂蜜取れませんよ」

「……ったく。だがどうするんだ。下手に魔法を使えばコガネバチも殺られるぞ」

「そんなヘマはしませんよ」


ようはヘビを巣から引き剥がせばなんの問題もない。引き剥がした後でそのまま仕留める。

 緋夜は氷を針状にしたものをヘビの口から尾へ一気に突き刺した。


「……血ぃ見るのは嫌じゃなかったのか?」

「いつそんなこと言いましたか。血を被りたくないだけです」

「……つまり、血で汚れたくないってことか」

「はい」

「抜いたら血出るだろ、あれ」

「出ませんよ」

「は?」

「突き刺さった瞬間に血管を全て凍らせました。後は別の場所で皮を剥がすだけです」

「ここでやりゃいいだろ」

「コガネバチの前でやったら警戒されて蜂蜜貰えなくなるかもしれないから」

「……本当によくやるなお前は」

「ありがとうございます」

「褒めてねえ」


クスクスと笑いながら中身が凍ったヘビをウエストバッグに納め、コガネバチに向き直る……が、モザイクが必要なレベルで悲惨なことになっていた。


(わ~グロ画像……派手にやったな、あのヘビ共)


緋夜は生き残っているハチ達に念のため買っておいたポーションをかけ、そこらに転がっているハチ(と思われる)の残骸は無駄に大きい巣の周りに丁寧に並べ埋めた。とはいってもほとんど原型を止めていないのがかなりあるが。


(ヘビって噛むっていうより呑み込むって感じだけど……明らかに噛みましたって状態になってる。大抵は絞め殺すか毒殺が大半なはずだけどな)


 一通りの作業を終えた緋夜のことをハチ達がじっと見つめていた。そして巣の中から一回り大きなハチが姿を見せた。


「なんか大きいのが出てきましたが」

「クリアコガネバチだな。コガネバチの上位種でランクはD。だが、巣の中にいることがほとんどだから飛んでるとこを見たことある奴は少ねえだろうな」

「ってことは」

「こいつがこの巣の女王だろう。自らお出ましとはな」

「折角出てきてくれたから話くらいしましょうか。幸い、さっき話したコガネバチは生き残ったみたいですし」


 緋夜は先程話したコガネバチに話しかけた。


「無事でよかったよ」

――マサカタスケルトハオモワナカッタ

「まあそうだろうね。其方が女王様かな」

――ソウダ、ニンゲン。オマエノコトヲホウ

  コクシタラハナシガアルト、オッシャッ

  タ

「あ、本当?」

――アア。ワレガツウヤクスル

「それには及ばないよ。こちらから」

――ワカッタ


 本当に聞き分けの良いハチだ、と思いながらもクリアコガネバチに話しかけた。


「はじめまして」

――ニンゲンデアリナガラナゼタスケタ

「理由なんかないよ。ただ助けたかっただけ」


 緋夜がそう言うと、ガイから嘘つけ、という視線が送られてきた。


――ソウカ。レイヲイウ

「いえ」

――オマエハミツガホシイトキイタ。ワケテ

  ヤル

「へ?」

――イクラホシイ?


「どうした」

 

 ポカンとした緋夜を見て不審に思ったのか、ガイが声をかけてきた。


「助けてくれた礼に蜂蜜くれると……」

「……冗談だろ芝居じゃねえんだぞ」

「同感です。随分とまああっさりと……いいのかな」

――カマワナイ、イクラホシイ


 緋夜は空間収納から二百五十ミリほど入りそうなボトルを二本取り出し、蓋を開けた。


「このボトル満たすくらいだけど……無理なら」

――ソノテイドナラバモンダイナイ

「あ、そう……なら、お願いします」


 緋夜がボトルを手渡すと巣の中に入っていった。どうやってボトルに蜂蜜を詰めるのだろうと思いながらクリアコガネバチが出てくるのを待った。


「まさか本当に成功させるとは……なんなんだお前」

「正直私も成功するとは思っていませんでした。できればいいな、程度だったのでちょっと……びっくり」

「……勝算なかったのか。それでこんなにうまくいくとはな」

「…………運が良かったって事で」

「……そう思う方がいいな」


 二人でこの状況に驚いている間にクリアコガネバチが巣から出てきた。その手と頭には黄金色に輝く蜂蜜がボトル一杯に入っていた。


「……早いな」

「……早いですね」


――コレデイイカ、ニンゲン

「え、あ、うん。ありがとう」

――キニスルナ。タダノレイダ

「うん。これからどうするの?」

――ナニモカワラナイ、ジュミョウマデ

「そう、あ」


緋夜はクリアコガネバチから受け取ったボトルをガイに渡すとどこかへと走っていき、戻ってきたその手には花が握られていた。その花を噛み殺され残骸と成り果てたコガネバチを埋めた土の上にそっと置く。


――ナニヲシテイル

「埋葬とお祈り」

――ナゼ

「ただの気まぐれ」


 そう言って笑うとクリアコガネバチはじっと緋夜を見つめた。どうしたのか、と思っているとクリアコガネバチが緋夜の手を差した。手を出せ、と言う事だろう。意図を汲み取った緋夜が手を出すとクリアコガネバチは黄金色の小さな塊を落とした。


「なにこれ」

――シルシ

「印?」

「……お前……」

「ガイさん、何か知っているんですか?」


 ガイは思い切りため息を吐き緋夜を若干睨んだ。


「……それは友魔石だ。魔物と一定以上の関わりを持つと魔物が気紛れに落とすんだよ。それを持っていると、友魔石を落とした魔物と同種の魔物に襲われることがなくなる。加えて互いに頼み事をすることも可能だ」


(なにその便利アイテム。これは小説とかには出てこなかった。この世界特有のものなのかな)


 現実は小説より奇なり、とはまさにこのことかと納得しそのまま話を聞く緋夜。


「だが利用しようとする奴らもごまんといるからな。魔物連中も滅多に渡すことはない」

「へー、でもいいの? そんな希少なもの」

――オマエハキライジャナイ、ソコノニンゲ

  ンモ

「ガイさんのことも嫌いじゃないそうですよ。良かったですね」

「なんだそりゃ。用が済んだんなら行くぞ」

「はい。じゃあまたね」

――マタ

 

 緋夜はコガネバチ達に手を振りながらコガネバチの巣を去っていった。



「無事友好を結べて良かった。蜂蜜も取れましたし」

「ったく、マジで交渉で手に入れるとはな」

「私も正直驚きました」

「そうかよ。さっきもらった友魔石、絶対人には見せんなよ」

「……見せませんよ。これはある意味諸刃の剣だから」

「ちゃんと分かってんならいい」

「人に利用されるのはごめん被りますから」

「そうかよ。んで、ヘビ皮はどうすんだ。もうだいぶ巣から離れたぞ」

「そうですね。この辺で剥ぎましょうか」

「スモールバイパーは牙が討伐の証になる。皮の前にそれを取れ」

「了解」


 

 緋夜はそう言ってウエストバッグからヘビ全部を取り出して口元の筋肉を緩めて牙を抜いた後、外側を火で炙り、頭の部分に線を入れて尾の部分から一気に引っ張った。既に皮と肉が分離されていたため、皮はするりときれいに剥ける。そのまましまい、ついでに友魔石もバッグの中へ。


「器用だな」

「この方が楽ですから」

「結局そこに行き着くなお前は」

「いいではないですか。あ、蜂蜜持たせたままでしたねすみません。ここにしまうので入れてください」

「ああ」


 ガイが蜂蜜ボトルを緋夜のバックにしまう。


「さてと、ギルドに戻りましょう」



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「おう、嬢ちゃん」


 ギルドに入るとゼノンが声をかけてきた。緋夜はそのままゼノンの元に行く。


「早いな。三つも依頼受けたって聞いたからもうちっとかかるかと思ったんだが」

「三つとも同じ場所だったからね。ちょっとびっくりしたこともあったけど依頼が終わったから」

「おう、確か嬢ちゃんの依頼はカクラ石の収集とスモールバイパーの討伐、後はコガネバチの蜂蜜採取、だったか」

「うん。じゃあとりあえず蜂蜜とヘビ皮と牙と、カクラ石」

「どれどれ…………確かに。依頼達成だ」


ゼノンが依頼品を鑑定し終えたあと何かを考え出した。


「どうしましたか?」

「ランクアップだ嬢ちゃん。今日からEランクな」

「……え? いいの? まだ一か月……」

「いいんだ。期間じゃなくてどんだけ依頼を受けたかが大事なんだ。嬢ちゃんほぼ毎日依頼受けてたろうが。てことでギルドカードを出せ。討伐記録とランクアップ同時にやってやる」

「あ、うん」


 緋夜はギルドカードを取り出し、ゼノンに渡した。ギルドカードを側のボードに置いて作業をするゼノンを見ながら緋夜はガイに声をかけた。


「私、大した依頼受けてないと思うのですが、こんなに早く上がっていいのですか?」

「いいんじゃねえの。低ランクの場合は割とすぐに上がるからな。それにお前は結構な頻度で依頼受けてたからランク上げられんのに問題はねえだろ。ランクが上がりゃ受けれる依頼も多くなる。稼ぐには丁度いいだろ」

「確かにそうですけど」

「貰えるもんは貰っとけ」

「あ、それは勿論です」

「変なとこで強欲だなお前」

「よく言われます」


 ガイと話していると作業を終えたらしいゼノンが緋夜に向き直った。


「おっし完了だ。おめでとう嬢ちゃん。ランクアップだ」

「ありがとう」

「なんかお祝いでもすんのか?」

「どうだろうね。まあ帰りがけになんか考えるよ。それじゃ」

「おう! またな」


 緋夜は手を振りながらガイと共にギルドを出た。




 ギルドからの帰り道、緋夜と並んで歩いていたガイはふと立ち止まった。


「ガイさん?」

「ちょっと付き合え。話がある」


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