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15話 三つの依頼

 緋夜達は朝一で冒険者ギルドに来ていた。ガイの言っていた通り依頼が多い。低ランクの依頼だけでもざっと五十程貼られている。


「本当に朝は依頼が多いなあ。どれにしよう?」

「好きなの選びゃいいだろ」

「受けてみたいのが多いんですよ。……そういえば規則の中に三つまでなら同時に受けられるとありましたね」

「ああ」

「それじゃあ……」


 緋夜は躊躇いなく三枚の依頼用紙を手に取った。


【依頼内容:スモールバイパーの討伐

  ランク:E~F

 場  所:リノの川原(中流)

    数:十五

 報  酬:銀貨十枚(追加報酬なし)

 備  考:皮求む         】


【依頼内容:コガネバチの蜂蜜採取

  ランク:E~F

 場  所:リノの川原(中流)

    数:ボトル二本分

 報  酬:銀貨五枚(追加報酬なし)

 備  考:特になし        】


【依頼内容:水のカクラ石の収集

  ランク:E~F

 場  所:リノの川原(中流)

    数:二十

 報  酬:銀貨五枚(追加報酬なし)

 備  考:特になし        】


「この三つにします。全部同じ場所だからまとめてやったほうがいいでしょう」

「……お前って……まあいい。選んだなら受付してこい」

「はい」


 緋夜が受付に向かうと既に長蛇の列になっていた。職員も忙しく走り回っている。この時間帯が一番大変そうだ。冒険者達だって誰も野宿などしたくないので、いつも日が昇ると同時に動き出す者達がほとんどだ。

 そうこうしているうち、列は進み緋夜の番になった。


「次の人」

「はい」


 緋夜が受付の女性職員に用紙を渡すと女性は緋夜を見て少し睨んだ。見ず知らずの人に睨まれる原因に全く心当たりのない緋夜はそのまま視線を無視した。


「受付お願いします」

「……はい」



 受付を終えガイの元に戻る間もずっと睨んでくる女性職員を緋夜は見事にスルーしてガイと共にギルドを出た。



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「わあ~綺麗な川! 透き通ってる」

 

 緋夜は依頼のためリノの川原に来ていた。少しひんやりとするが空気が澄んでいて綺麗な場所だ。こんなところに本当にヘビなどいるのか、と一瞬思った緋夜だが依頼があるのであればいるのだろう。


「で? どれからやるんだ?」

「そうですね。時間かかりそうなのは蜂蜜だから先にやりましょう。コガネバチっっていうのは……」

「全身が金で覆われている全長十センチのハチだ。ハチの魔物にしちゃ大人しいが毒は強力だ」

「……それは怒らせなければいいということですよね?」

「まあな」

「じゃあ、ハチと交渉できないかな」

「……はあ!?」


 緋夜の発言にガイは思わず声を上げた。魔物相手に交渉するなど正気を疑う。何を言ってんだこの馬鹿は。そもそも魔物から取れるものを取ってくる依頼は魔物との戦闘が前提である。倒した方が邪魔されずに取れる。間違っても交渉でどうにかなるものではないのだ。


「何考えてやがる。無理に決まってんだろ。上位ならともかく下位の魔物に言葉なんぞ通じねえ。倒した方が早いだろ」


 ごもっとも。緋夜も最初は倒すつもりだったが、大人しいと聞いた瞬間、交渉に変わった。そしてそれは実に緋夜らしい理由だった。

 即ち、


「殺さなければハチ達はこれからも蜂蜜を作り続けられるではないですか。交渉しておけばほしい時にいつでも手に入れられるかと」


というわけだ。ガイは緋夜の発言に思わず額に手を当てる。馬鹿だこの女は。いつでも蜂蜜とりたいから交渉するとは、アホと言わざるを得ない。何訳分かんねえこと考えてやがる。


「どう考えても倒す方が早いだろうが。そもそも従属魔法なんざ使えるやつ少ねえんだぞ」

「従属ではなく交渉です。コガネバチの討伐は依頼に含まれていませんしこちらからちょっかい出さなければ大人しいのなら殺す理由はありませんよ。人も魔物も」

「……お前の好きにしろ」

「もとよりそのつもりです」


 最早突っ込む方がアホらしくなってくる。ここまで来れば放置が一番、とガイは諦めた。本来であれば絶対にできないどころか発想すらないだろう魔物との交渉。その試みが吉と出るか凶と出るか、お手並み拝見である。


 そんな話をしているとガイが茂みの方を睨んだ。


「コガネバチだ」

「え?」

「羽音が聞こえる」


 耳を澄ますとたしかに羽音が聞こえそれは次第に大きくなる。


「くるぞ」


 茂みの方に視線を向けると黄色いハチが飛び出してきた。太陽光に反射して眩しいほど光っている。


「本当に全身金ピカ」


 コガネバチの名は伊達ではないらしい。


「夜だったら灯りになったかもしれませんね」

「アホなこと言ってんじゃねえ。どうすんだ?」

「まあ見ててください」


 緋夜はコガネバチの一匹に手を翳して目を閉じ、魔力を送り込むイメージをする。コガネバチの魔力をこちらに引っ張って来て、互いの意識を繋げ、頭の中に言葉を浮かべて魔力と共にコガネバチに流し込んだ。


――はじめまして

――ナニヲシタ、ニンゲン


(繋がった!)


 どうやら成功したようだ。


「ふう……」


――よかった。繋がったみたいだね

――イキナリマリョクナンゾナガシコンデナ

  ンノヨウダ


(ここまで繋げたならあとは普通に喋っても問題なさそう)


「驚かせてごめんなさい。私は緋夜。よろしくね」

――ワレラヲカリニキタノカ

「違うよ」

――ニンゲンノコトバナゾシンジラレルカ

「狩るつもりならわざわざ魔力流し込んで会話しようとしないよ」

――グッ……タシカニ、ダガ……

「信じられないならお仲間さんと相談して、大丈夫だったらこちらの話を聞いて欲しい」

――ワカッタ


(警戒してる割にはすっごく話が通じるんだけど……いきなり人間から話しかけられてパニックになってもおかしくないのに随分と順応の早いのね、コガネバチその一(仮))


 コガネバチその一(仮)は緋夜の言葉を仲間達に伝えたようで、他のハチ達はコガネバチその一(仮)の周りに集まった。


「おい」


 頭を軽く小突かれた緋夜が振り向くとガイがいた。


「あー……説明欲しい、ですよね」

「当たり前だ。お前何やったんだよ」

「こちらから魔力を流し込んで同時にコガネバチから魔力を吸収した後、魔力に言葉を乗せて意思疎通できるようにしました」

「ようはテレパシーか」

「まあ、そんな感じです。これで人間の言葉がわかるようになったはず。信用ならないならお仲間さんと相談して、よければ話聞いてと言いました」

「それであの状況か」

「みたいですね」


 ガイは呆れを隠そうともせずため息をついた。低級の魔物に意思疎通を与えてどうすんだこの馬鹿は。バレたらタダでは済まないだろう。少なくとも利用しようとする馬鹿が必ず出てくる。下手をすれば異端として殺される可能性だってあるのだ。わかっているのかこの女は。


「うーん、時間かかりそうだから先に水のカクラ石を集めよっかな。カクラ石とはどんな石なのです?」


 コロコロとすぐに話題が変わるのもすっかり慣れたものだ。


「六角形で真ん中が透明になっている石だ。属性によって色が異なる。今回の依頼は水のカクラ石だから色は深い青だ。大抵は水辺にある」

「わかりました」


 緋夜が早速探してみると、すぐに見つかった。まとまって転がっているようでざっと百程度はありそうだ。さてどうしたものかと思考を巡らす。依頼数は二十なので放置してもいのだが大量にあるので多めに取ればそれなりに小遣いの足しにもなるだろうと思い、拾える分は拾っておくことに。魔法で取ってもいいのだが、ガイに魔法のことは話していないため、一個ずつ拾ってはウエストバッグにしまうを繰り返していきそれなりの数を拾ったところで、


――オイ


頭に声が響いてきた。緋夜がコガネバチを見ると全てのコガネバチが緋夜達に視線を向けているので、どうやら話し合いは終わったらしい。


「あ、終わったの?」

――デナケレバコエナドカケン

「それはそうだ」

――オマエノコトナドシンヨウシナイガハナ

  シクライハキイテヤル

「わあ、ありがとう」

――サッサトハナセ


不機嫌そうにしながらも話を聞いてくれるというハチ達に緋夜はにっこりと笑ってお礼を言う。


「私、依頼でコガネバチの蜂蜜を集めるんだけど、貴方達の蜂蜜を分けてくれないかな」

――ナンダト

「もちろん貴方達の邪魔はしないし、何か要求があれば聞くよ。だから蜂蜜を分けて欲しい」

――……コッチデハキメラレナイ

「じゃあどうすればいいかな?」

――ワレラノジョウオウニジブンデハナセ

「分かった。できれば女王様のところに案内して欲しいんだけど」

――……ツイテコイ


(え、本当にいいの?)


「ありがとう」


 あっさり頷いたコガネバチその一(仮)に驚きながらも感謝を述べる。


「巣に案内してくれるそうです。行きましょう」

「何がどうしてそうなった」

「蜂蜜くれって頼んだら女王に話つけろ、と」

「……いろいろおかしいと思うのは俺だけか?」

「気にしたら負けです」

「……そうじゃねえとやってらんねえか」

「はい」

「頷くな元凶」


 ガイに小突かれながらもコガネバチ達について行った。


 ガイ曰く、コガネバチの巣事態は森の中にあり、樹齢四百年以上の木に巣を作る。コガネバチが住み着いた木は金色の葉が出るそうで、見つけるのには苦労しないらしい。コガネバチの蜂蜜は木の栄養分にもなるため木そのものにダメージはないという。

その話を聞いた緋夜があんな安価で依頼していいのかと思ったことはここだけの秘密である。


――モウスグツク

「うん、分かった」


 そう言って歩いていた緋夜はいきなりガイに腕を掴まれた。驚いてガイを見ると険しい顔で前方を睨んでいた。


「ガイさん、どうし……!」


問いかけようとした緋夜は前方から流れてくる異様な空気を感じた。コガネバチに視線を向けると凄まじい勢いで前方に飛んでいく。


「まさか、コガネバチの巣が襲われているの?」

「みてえだな、行くか?」

「はい!」


 緋夜達はハチ達を追って彼らの巣に向かった。

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