閑話 〜アリス編〜
前世は廃れた古武術流派の家に生まれた。
現代日本では使う事など、ほぼないであろう戦闘技術。
子供の私は疑問に思う事なく、それらを必死に教え込まれ、学んでいった。
そして私は女の子なのに、髪型もショートカットで女の子らしくなく、明るく活発的で男勝りな性格に育っていった。
男なんて大して強くもないし、軟弱な奴らだと思って高校生まで過ごした。
毎日鍛錬ばかりの中、密やかな楽しみは寝る前に読むラノベぐらいだったと思う。
そして大学生になり、間もない頃、事件は起こる。
友達が拐われているのを目撃した。
そこで誰かを呼べば良かったのかもしれない。けれど、私は助ける事で頭がいっぱいで、転がっていた木片片手に追いかけ、連れ込まれた倉庫に乗り込んだ……。
中には成人した男が10人程いた。
私は女の子を逃し、奮闘した。
そして……私は返り討ちに合う。
結果は顔は腫れ上がり、骨も折られ、床に這いつくばる。
どんなに訓練しても、結局男には力では勝てないし、体力も違う。数人ならなんとかなっただろうけど、数の暴力には勝てない。
そんな現実が私に突き刺さる。
私のやってきた事は無駄だったの?
そんな事を思っていると、男達は私に近付いて更に追い討ちをかけるように殴りつけようとした。
その時。
「ストップ! 警察と救急車呼んだけど?」
と外から来たらしき人が声をかける。
男達は一斉に男に殴りかかるが、あっという間に叩きのめす。
この男……見た目は細身で同い年ぐらいなのに只者じゃない。
「大丈夫? 救急車はもう少しで来ると思うから待っててね。じゃぁ、俺は面倒事嫌いだから帰るわ」
そう言うと男は去っていった。
既に面倒事に首突っ込んでるような気がしたが、言わないでおいた。
というか、身体中が痛くて言えなかった。
その後、パトカーと救急車が来て色々とあったが省略する。
後程、助けた友達から、逃げた先にあの人がいて助けを求めたと事情を聞いた。
それ以降、その男の人の事ばかり考えて、胸も苦しくなる。
その事を友人に相談すると、恋と言われた。
確かにと、納得出来る部分はあったが、まさか私がそんな漫画やラノベみたいな惚れ方するとは思っていなかった。
けど、私がいつも考えるのは助けてくれた男の人の事ばかり。
どうしたらいいのかな?
そうだっ!
髪の毛を伸ばそう。
化粧をしよう。
会ったら振り向いてもらえるように頑張ろう!
素材は悪くないみたいで、形になり始めると男の人の目を引くようになった。なぜか、女性に「お姉様」とか言われるようになったけど……。
そして会社員に就職して間もない頃。
休みの日に、助けてくれた男の人とコンビニで出会う。
それは本当に偶然だった。
自然と涙が出た。
それを見た、あの男の人はあの時と同じように
声をかけてくれる。
「大丈夫?」
その言葉に、私の溜まりに溜まった感情は爆発し、泣き叫んでしまった。
周りが何事かと騒ついていたが、そんな事は気にならなかった。
バツが悪そうな彼は近くの公園まで連れて行ってくれた。
落ち着いた頃に簡単な自己紹介をしてくれた。
昔助けてくれたお礼を言う。すると彼は「気にするな」と言ってくれた。
そして別れた振りをした私は、そのまま、彼を追跡する。
ストーカーと言われても私は気にしない。
同じチャンスは二度と来ない。そう思って行動しているからだ。チャンスは自分の手に握らなければ手に入らない。向こうからやってくるのはきっかけだけだ。
家まで把握した私は、その後も暇を見つけては追い回した。時には偶然を装って声をかけたりもした。
まぁ、全部彼にはバレてたみたいだけどね。
なんでそんな事をしているかと言うと……。
彼には既に彼女がいた。
とても幸せそうだった。邪魔はしたくないと思った。
それにそんな日常を送るだけでも私は幸せだった。
結婚するから招待状を送るって聞いた時、思わず耳を塞ぎたくなったし、なんで私に言うのかと思ったけど、彼に悪気はなかったようなので祝福の言葉を送った。
きっと、ストーカー行為が迷惑だったのかもしれない。
その後しばらくはストーカー行為も辞めて、彼を諦めるように頑張った。
いつまで経っても招待状は来ない。
1年ほどして来たのは結婚式の招待状ではなく訃報の報せだった。
婚約者の人も既に亡くなっており、精神的に限界だったと聞いた。
悲しかった……一番苦しい時期に彼を支えてあげれなかった事が。
心に穴が空いたような感じで葬式に参列した。
途中で、私服姿の女性がやってきて泣き叫んだりしていた。
彼は色んな人に愛されていたようで、その女性にも話を聞くと助けて貰ったことがあるそうだ。
それを聞いた私は凄く嬉しく感じた。
彼はずっと私を助けて来たような人生を歩んできたのだろう。
失って気付く事もあると言うが、私の場合は後悔ばかりだ。
そして、ふらふらと茫然自失の状態で帰宅途中、車に衝突された私は人生の幕が降りた。
その後に神様らしき人と会う。ラノベのテンプレだと思った。
その神様は交換条件で彼と会えるようにする変わりに恩恵を一つという提案をしてきた。私は即答でOKした。
異世界に転生するなら、どうせなら戦闘系がほしいと言うと、神様は近接特化の剣神という恩恵をくれた。
早く彼と会いたい……。
そして異世界に生まれ変わり、アリスという名前をもらった。
小さい頃から、誰にも見られていない事を確認して鍛錬した。
ある日、彼と出会った。
間違いない、前世の彼だ。
顔とかは全然違うけど、話し方やしぐさが前世の時の彼と被る時が度々あった。
ストーカーしてたのは伊達じゃない。確信めいた物が私にはあった。
この世界ではレオンという名前だった。彼も素振りをしている姿をよく見る。
成長と共に幼馴染のミアと仲良くなり、レオンにアプローチをかける。
この世界じゃ、一夫多妻なんて珍しくないらしいから遠慮なんていらない。
7歳の頃、ミアに危機が訪れたが、レオンは助けるために頑張った結果、ミアは助かった。
ミアは大事にされて羨ましい……そんな嫉妬の感情が私を襲う。まだまだ未熟だ。
そういえば、ミアと話をしていると葬式で私服を着ていた人だった事を知った。前世からの繋がりがあるのは私だけじゃなかったのだ。
レオンに見てほしい。
レオンに愛してほしい。
レオンと一緒にいたい。
前世も同じ気持ちだったのを思い出して苦笑した。
私はやっぱり変わらない。
ミアの事件から5年が経ち、その間も鍛錬に鍛錬を重ねて必殺技も開発した。
だが、またミアに危機が訪れる。
現世の親曰く、金欲しさに村絡みでミアを国に差し出すと言う。
どうやら、練習している姿を見られ、恩恵がバレていたようだ。
植物成長の恩恵を受けておいて飢餓から脱出したのに、金欲しさにミアを売った、こいつらはクズだと思った。
私は実行される前に、ミアをレオンに会う為と説得し、連れ出した。
その結果、レオンは悲しんだ。私が浅はかだった。
私の力も、国から派遣された人に対して勝つどころか全く、歯が立たなかった。
「アリス、俺は以前の時もちゃんと助けただろ? それにそんな顔をするな。ちゃんと、また会える」
戦線離脱する別れ際にレオンから安心させるための言葉をかけられる。
でも、心配だった。涙が止まらない。頑張って精一杯の笑顔をレオンに向けた後は、その場を後にする。
無力感に苛まれて、レオンの使い魔のカーバンクルにアナスタシアさんの所まで連れて行かれた。
そういえばレオンのお父さんはあの場にいなかったけど、どうなったんだろう?
生きてるといいんだけど。
アナスタシアさんと会って事情を話した後に、起きていたミアにも謝罪する。
「ふむ、ではレオが戻るまで待っておるかの」
「次そんな事をしたら許さないからね!」
アナスタシアさんはレオンの事を信じてるみたいだ。ミアは仕方ない面もあったのか、それ以上は言わない。
「アナさん、敵の男はかなり強かったよ。レオンでも厳しいと思う……近接に自信がある私でも擦り傷しかつけれなかった……」
「ふむ、お主はレオンの強さを知らんからそんな事を言えのであろう。レオンは死なんし、帰ってくるわい。近接戦闘をお主とレオがしてもレオが勝つぞ? というか、レオを今の所殺せる奴は思い当たらんの……」
レオンってそんなに強いの!?
私もまだまだか。修行しないと。
「アナスタシアさんが良ければ稽古をつけてほしい。少しでも強くなりたい……」
「私もお願いしますっ!!!」
ミアも私に便乗する。どうせ村にも帰れないんだし、自分の身ぐらい自分で守りたい。
「仕方ないの。だが話を聞いておる限り、その男はお主らが言う討伐ランクSは超えておるぞ? アリスでギリギリAぐらいかの。ミアはCがいいとこだの」
一応言質はとったけど、あの男に届くには生半可ではダメだ……。
レオン……早く帰って来てね。
────3日経ってもレオンは帰って来なかった。
1ヶ月経っても帰らない……。
レオン……会いたいよ……。
レオンの事ばかり考えてしまう。
アナさんも、ミアも、アイリスちゃんも会いたがってる……。
アイリスちゃんはあの後目が覚めて、パニックになって大変だった。全員で慰めて事なきを得たけど。
今では此処の生活にも慣れてきたのか、少しずつ戦う術を学んでいる。
レオンの恩恵に関する話をアナさんに聞いてるし、契約魔法が発動した事から死んではいないのはわかったけど(発動後に解除してたけど)
それなのに帰って来ないなんて絶対おかしい……。
帰れない何かがレオンの身に起こっているんじゃ……。
此処から出る事は間違いなくミアが危険だ。帰って来てくれる事を信じる事しか今は出来ない。
今出来る事をするしかない。
いつ帰ってきてもいいように。
今度こそ力になれるために。
愛してもらえるように。
私自身を磨き直す!!!
そして、アイリスちゃんに野菜を食べてもらうために街まで私だけで行く!
此処の食事は肉ばかりだから……。
────レオンのお母さんが眠る墓標で私は誓う……。
ちなみに街に行くついでに生まれ育った開拓村も偵察したけど、ミアがいないあの村はもう終わりだと思った。
昔のように覇気がなくなり、沈んだ表情で農作業や開拓をしている。
これからは不作の時期が訪れたりして、昔のように餓死者が出るぐらい苦労をするんだろう。
村を襲う脅威からも守れる人はもういない。私も近辺の魔物は狩りまくっていたから。
そのうち滅びに向かうだろう……。
さようなら、私の生まれ育った村。
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