召喚獣 【ハクマ挿絵あり】
目の前に魔法陣が現れ始める。
「レオっ! 下がれっ! すぐに迎撃態勢をとるのだっ!」
はっ? なんで??
「召喚魔法って、自分の眷属みたいなもんなんだろ? なんで迎撃するだよ?」
「馬鹿者っ! 普通は召喚時、魔力に指向性を持たせ、問いかけて行うものなのだ! 例えば『自分に力を貸してくれ』みたいな! 今みたいに適当にしたら、ランダムに何が召喚されるかわからんし、そもそも契約もしとらんから大概、戦闘になるっ! 召喚魔法はあくまで召喚しかせん」
「それ先に説明してほしかった……」
……って事は、俺に逆らうような化け物を召喚する可能性があると?
ヤバくね? でもアナいるし最悪大丈夫だと思いたい。
「先走ったのレオじゃろ!? 召喚魔法は2つに分類されておって、一つは契約した存在を召喚する。もう一つが契約してない存在の召喚。後者は今行使した奴で、契約する必要がある。そして、対話で協力か、もしくは戦闘で屈服させて、契約する流れになるのだがの……」
「それで?」
他にも何かあるの?
「その時は、術者以外は基本的に干渉できんっ! こればっかりは我にも無理だっ!」
ふむふむ、なるほど。アナの助力は期待できないと? それでアナ焦ってんのね。
どうしたもんか……魔法陣がめっちゃ光ってますよ?
「ちっ、気をつけるのだぞ!」
光が収まっていくと、俺とその魔法陣を中心に結界らしき物が構築し、同時にアナは結界から弾き飛ばされて、その外側で見守る。
「あいよっ!」
とりあえず意気の良い返事はしたが、何が出てくるやら……。
そして、光が収まった先にいたのは────
『貴様が呼び出したのか?』
そんな話し方とのギャップを感じるぐらい可愛らしい子供っぽい声で話しかける生き物がいた。
額には紅い宝石が埋まっており、色は白くて、毛並みも良い。兎のような長い耳、猫のような愛くるしい顔で大きさが50cmぐらいでフワフワ浮いている。
「あれは!? カーバンクルか!?」
うん、アナもそう言ってるし、宝石が額にあるから間違いないだろう。
さっきから微妙にアナの口調変わってるのが気になる……それだけヤバい生き物なのだろうか?
そんな事より────今は、もふもふが俺を呼んでいる。
『なっ、なにをする!?』
俺は即座に鎖を巻き付け、カーバンクルを引き寄せて抱き締め、無言であちこち弄りまくる。
『やっ、やめっ……』
暴れてるが関係無い。この耳のふさふさ感、背中の撫で心地、抱き締めた時の何とも言えないこの満足感。
これは、是非とも眷属にしたいっ!
そして数分間弄られまくったカーバンクルは目の前でぐったりしていた。
これ、契約していいんだろうか?
アナを見ると、呆れた顔をしていた。
とりあえず、逃げられる前にどうやって契約するか聞かなければっ!
「アナっ! 契約どうやるんだ!?」
「あ……あぁ、手をかざして、一言『我は汝と契約する』だけで良いぞ……」
「ありがとっ! 『我は汝と契約する』」
すると、魔法陣が淡い光になり、カーバンクルに向かって吸収される。そして俺と何か繋がりが出来るのを感じた。
おそらく、これが契約の儀式みたいな物なのだろう。
『……!?!? ……これは!? まさか……契約魔法!?』
契約時に気がついたカーバンクルは契約魔法を使われていた事に驚いていた。
「レオよ、名前をつけてやれ……まさか幻獣を呼び出した上に戦わずに契約するとは……呆れて物も言えん」
カーバンクルって幻獣なんだなっ! って事はかなり強いんじゃないのか!?
おっと、名前だったな!
「わかった、アナ。……そうだなぁ────名前ねぇ……毛並みが雪を連想させるな。よしっ、決めたっ! 『ハクマ』だっ!」
日本語の白魔からとった名前だ。確か災害に相当する雪って意味だったと思う。
こいつ、雄っぽいし丁度いい名前だと思う。幻獣って事は強さも災害級に匹敵すると俺は信じている……というか、アナが口調変わるぐらいだし、何か特殊な能力があると期待したい。
とりあえず、これだけは言えるっ!
「もふもふゲットだせっ!」
1人ではしゃいでいると、ハクマから話しかけられる。
『契約が済んだのでは仕方ない……主の名前は?』
「俺はレオンだっ! 向こうにいるのがアナスタシアだっ!」
『そっか、しばらく世話になるわ。親探しに来たらよろしく言っといてね?』
なんか、急にフランクな話し方に変わったんだが?!
「なんか、急に馴れ馴れしくなったな」
『だって、契約されちゃったらどうにもならないし? 最初は威厳ある方がいいって、親が言ってたっ!』
契約ってそんなに強制力あるの?? それより、ハクマの親からしたら、それ攫われた事になってね?
「世話になるのはいいんだけど……親がネックなんだが……」
『大丈夫、大丈夫。だって、親も昔に勇者の召喚獣やってたって言ってたし』
……それって、伝説的な生物じゃね? 俺襲われたらヤバくね?
「よしっ! 棚上げだっ! 無かったことにしよう。俺は何も聞いてないっ!」
『まぁ、あそこにいるお姉さんいたらなんとかなるよ。あのお姉さん、普通じゃなさそうだしね』
俺の救世主はアナスタシアだったか!? 羨望の目でアナを見る。
「いや、レオがなんとかするのが良いの。我は手は出さんぞ」
やはり、棚上げだな……。いつか来たら土下座でも何でもして許して貰おう。
それより、気になるのが。
「ハクマは何が出来るんだ??」
『う〜ん、幻獣だし? 色々? みたいな?』
イラッとする言葉遣いするな。
「具体的には? 真面目に答えないと、もふもふするからな」
『それは勘弁。魔法は水と氷属性がメインかな? 他も使えるけど得意じゃないね。後、僕がいると幸福を運ぶらしいよ?』
俺のもふもふは相当嫌だったらしい……ショックだ。
魔法は名前の理由とマッチしているな。見るのを楽しみにしておこう。
それに、幸福を運ぶらしい? って、なんで疑問形なんだよ!?
幸運運ぶなら俺も幸せになれるのかな? 今後の要検証だな。
「期待してるよ。俺幸せになりたいからな」
『ん? 主は不幸なのか? なら僕がいたら大丈夫さ。こんなキュートな僕がいるだけで幸福だろ?』
なに、この自画自賛っぷり……。まぁ可愛いのは確かなんだが、話し方が全てを台無しにしている感が否めない。
「いや、まぁそうなんだけどさ。──っと、アナ! そういえば、召喚魔法って基本的に召喚するんだったら送還すると何処に行くんだ?」
「もっともな疑問だの。だいたい元の場所に戻る事が多いの」
って事は……ハクマ、親と会ったらちゃんと言い訳しといてくれよ。
俺はハクマと目を合わせると、頷いてくれた。
『大丈夫、大丈夫。主の事ちゃんと説明しとくから』
おぉっ!? わかってくれたか!!! さすが相棒。吉報を待ってるぜっ!
『誘拐されたって言っておくね』
ハクマに親指(手を)を立てて、笑顔でそう言う────
引き攣った顔の俺はそのまま消え行くハクマを見送る────
光に包み込まれたハクマはその場から霧のように消えていった……。
ハクマを送還した後は────アナから反省会をさせられた。
確かに勝手に発動したのは悪いとは思っているが、後悔はないっ!
そんな気持ちが態度に出ていたのだろう────イラッとしたアナから風魔法で刻まれまくった。
アナさん怒らせると怖いです。
なお、回復は数秒で済むのだが、継続的に説教されながら攻撃されるので大変だった。
ぶっちゃけ、ずっと痛い。
それに、訓練とその攻撃が原因でハクマと会った時は服がボロボロでパンツ一丁と言っても過言ではなかった。
ハクマ……その事に突っ込まないなんて、いい奴だな。
こうして、ハクマとの初対面は全裸に近い形で終わった。
◆◇◆◇◆
ハクマとの召喚契約が済んだ事でアナからプレゼントをもらった。
それは、服だっ!
ほぼ全裸からグレードアップした。
服を簡易鑑定すると。
【死神の衣】
と出た。呪われてないか心配したが、鑑定した結果。大丈夫だった……しかも、かなり頑丈に出来ているようで、多少の魔法攻撃や物理攻撃は耐性があるそうだ。
他にも修復機能と自動で大きさも調整してくれるそうだ。なんか、この機能見てると──ラノベとかなら国宝級の防具じゃなかろうか?
かなり、ありがたい性能になっている。
アナから入手先を聞いたら、昔に行ったダンジョンで手に入れたと言っていた。
いつか俺も行ってみたいな。
そして、服を着替えた現在、アナの作ってくれた部屋のリビングでご飯を待っている。
好きな人の手料理が待ち遠しい。
新婚さんはこんな気持ちなんだろうか?
俺は待っている時間をアナが作ってくれた部屋を見ながらゆっくりする。
部屋がある場所はミノタウロスがいた所で、端っこの壁を掘った中に部屋を作り、出入り口に結界を張っているそうだ。
なんで、こんな説明をしているかと言うと。
現在テーブルに並んでいる料理がひたすらミノタウロスの肉を使った物ばかりなのだ。ミノタウロスに困らないから、やたらと肉料理が運ばれて来る。
そして────料理の見た目なのだが……。
肉を焼くだけの作業で隠し味に謎の物体を入れてたようで、緑色に変わった肉が出来たり、スライム状の物が出来上がったり、グロテスクなのが多い。
アナは絶望的に料理が壊滅しているのだろうか?
俺は心底不安に駆られる。
俺も男の端くれ。もちろん食べる────なんたってアナの手料理だしな。
爺ちゃんは女子の手料理は完食しなさいと言っていた。
けれども、この見た目はかなり勇気がいる……。
かつて、ここまで食べる事に躊躇いを覚えた事はあるだろうか?
結界に群がってるミノタウロスは「ブモォォォォォッ」と雄叫びを上げてるし、この中で食事する事もけっこう躊躇う要因の一つになっている。
しかし、ここは異世界だ。こういう肉料理もあるのかもしれない。この雄叫びも余興だと思おう!
母さんが作った肉料理は煮込んだり、焼いただけで味付けは質素な物だったので、実はこれが一般的なのかもしれない。
そうだ、これが異世界風都会料理なんだろう!
一応、アナに問い掛けてみる。
「アナさんや、このお肉達はそこの結界に群がってるミノタウロスだという事はよくわかるんだが────」
俺のセリフを途中で遮り、アナが発言する。
「我は料理をするのが久しぶりだの。レオのために愛情をたっぷり注いで作っておる。しばし、待っているが良い」
その目は真剣だった。そんなに俺の為に作ってくれるなんて、そんな嬉しい事は他にないだろう。
しかしだ! 重要なキーワードが今出た。
料理は久しぶり ────と!
その結果、俺を待っていたのは────
腹痛という継続ダメージだった。
拝啓 爺ちゃん トイレから出れそうにありません。