貴方が落としたのはどの聖女ですか?(溺愛ver)
「私の聖女」
『選択の泉』の上に現れた泉の精が馴染みのセリフで問いかける前に、耳を立てぶんぶん尻尾を振る勇者は蕩ける笑顔で聖女の手を取った。
泉の精の左右に並んでいた聖女と同じ顔で同じ服を着たクローンのようにそっくりな聖女たちは、選ばれた聖女を残してすぐにかき消えた。
『選択の泉』は、異世界を股に掛けるマッチングシステム。
王族勇者聖女など立場的にパートナーを変更しにくいはずなのに、あまりにも多い婚約破棄に心を痛めた神々が作ったシステムだ。
世界には自分と同じ顔をした人間が3人いるのだ。異世界や並行世界まで含めば、その数は相当数にのぼる。
希望すれば候補者が集められ、選択者が選択した相手の世界に行くことになる。そして空いた隙間に別の人間を喚ぶ事ができる。
選んだ相手が元と違っても、元からその人間だったと神々から思わせるようになっているので、誰を選んでも問題ない。
つまりパートナーに不満がある方が『選択の泉』に落ちるのだ。
「なんで私を選べるの! 前は匂いでわかったって言うから、今回は無理を言って、同じシャンプーやセッケンを渡して使ってもらってたのに!」
勇者は聖女の手をそっと口づけるように近づけた。
「こんなに良い匂いは君だけだよ」
全速で自分の手を取り戻した聖女は、泉の精に泣きついた。
「またお願いします!」
「かまいませんよ。ただ、こちらの方が諦めるとは到底」
最初、勇者は100人以上いた聖女の中から本物を選び抜いた。
明らかに似ていない聖女もいたと、聖女は候補者を自分によく似た聖女に絞ったが、それでも2回目50人近くいる中からも勇者は本物を選んだ。
「私だってあきらめません! こんなの私の世界じゃストーカーです!」
「聖女のことを愛しているだけなのに」
「私が会う相手をいちいち面接しておどすのが? 外出も制限して、どうしても仕方ない時は必ずつきそうのが?」
「ちゃんと勇者聖女として世界平和のために働いてるよ? 早く抱きつぶして私だけしか見えないようにしたいのに我慢してるし」
「当たり前よ! 私まだ13歳ですから!」
「さ、早く世界に平和を取り戻しに行こう? その後は……ね?」
「監禁はいやぁ」
「旅に出てもいいよ?」
「本当?」
にっこり頷く勇者に手を引かれて若い聖女は帰っていった。
世界が平和になった後も世直し旅をする2人は各国で褒め称えられた。
「勇者との旅、楽しい」
「ふふ良かった。ほどよく成長したし、そろそろいいよね?」