表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/160

第98話 検証しましょう?

 



 私が目を覚まして身体を起こすと、そこは王宮の貴賓室のようだった。恐らくだけど、シルヴィオ王子に割り当てられている、プライベート客室なのだろう。


 何だか視界が鮮明だな……と思いながら顔に触れると、付けていた仮面がいつの間にか外されていた。


 捕まった身でいうのもなんだが、ご令嬢を床に寝かせるのはいかがなものだろうか……



「おい。コイツ、何でもう目を覚ましてんだ?」


 ちゃんと魔法かけたんだろうなと、シルヴィオ王子が少し後ろに控えていたルネ様に問い掛ける。


「当たり前じゃないですか〜。ん〜……魔力量が多いから、あんまり効かなかったんですかねぇ」


「まぁまぁ、いいじゃありませんか王子。所詮この魔法陣の中じゃ、何も出来ないのですから」


「魔法陣……?」


 そう言われて、私が視線を下に向けると、床には黒い模様がビッシリと描かれた魔法陣が存在していた。


「折角ですから、貴方には特別に教えて差し上げますよ。この闇の魔法陣は、私が闇の禁忌魔法を基に作り上げたもので、この中にいる者は魔法を発動しても無効化します。尚且つ、魔法陣を所有している者が解除しない限り、脱出は不可能です」


 試してみても構いませんよ、と言われ、私は魔法陣の外へと手を伸ばす。が、見えない透明な膜のようなものに当たって、すぐに弾き返された。


 見えない檻の中に閉じ込められて、魔法も使えないなんて……流石にマズイのでは……?



 魔法陣。それから魔法の無力化。


 魔法陣を消すには、どうしたらいい?


 消せないなら、どうしたらいいんだ……?


 私の頭の中には、とある1つの仮説が浮かんでいた。他に思いつかないのなら、一か八か……やってみるしかないか。


 片手を後ろにそっと下げて、ドレスの裾を使ってさりげなく手を隠す。そして逆に、もう片方の腕は思い切り前に突き出して、手のひらに魔力を溜めた。


 よし、この魔法陣の中にいても、魔力は溜められる。それを確認すると、私はそのまま魔法を唱えた。



『跳ね飛ばせ 疾風の唸り(ハウル・オブ・ゲイル)



 勿論、魔法は発動せずに、魔力だけがふよふよと浮かび上がって、そのまま膜へと吸収されて消えてしまった。


「くだらんな」


「そんな初級の攻撃魔法、何の意味もありませんよ?」


 クスクスと笑われるが、元々この魔法は目眩しの為なので、別にどう思われようが構わない。


 私はショックを受けたかのように装って項垂れると、そっと後ろに下げていた手の人差し指に魔力を込める。そのまま人差し指だけを魔法陣の模様に触れさせて、ゆっくりと、少しずつ魔力を注ぎ始めた。


 後は、時間を稼ぐだけ。



「……私とシェリを、どうするおつもりですか」


 シルヴィオ王子は私を一瞥すると、口を開いた。


「何、別に光属性の希少な人間に、乱暴な事をする気なんて更々ない。少しばかり、シェリーナ嬢の記憶を弄らせてもらおうと思ってな」


「記憶を……?」


 そもそも精神干渉しようなんて考え、タチが悪すぎるんですけれど。


「俺は光属性持ちのシェリーナ嬢を自分の婚約者において、王位継承権を優位にしたい。ここにいる男は、自分の妹をエタリオルの王妃にさせたい。偶然にも利害が一致してな」


 クイッと親指で、ステファニー様のお兄様を指差した。


「こいつの闇魔法の研究は大したものでな。この1〜2年で、従来の闇の禁忌魔法に匹敵するレベルの新魔法を、いくつも生み出したぞ?」


「お褒めにあずかり光栄です。シルヴィオ王子をはじめとする、沢山の方々にご支援をいただいたおかげです」


「いくつもって事は……精神干渉系の他にも、禁忌魔法を作ったって事ですか?」


 レベッカ様の手に渡った闇の魔法石、今から行おうとしている記憶を改ざんさせる魔法。それからこの魔法を無力化する魔法陣。これだけでも充分なのに?


「そうだよアリスちゃん。もっと前から騒ぎになった闇魔法の事件、あったでしょ?」


「……っ魔獣出現……!」


 うん、と頷くルネ様を私はジッと見つめる。こうしてると、普段と変わらないんだけどな……


 そもそもルネ様に関して、私は何だかずっと違和感を覚えているのだが……正直この状況を打破する為に一杯一杯で、そこまで頭が働かないのである。


「あれには俺も驚いたぞ。お前、よく自国であんな危険な検証をやったな」


 呆れた様子でシルヴィオ王子が問いかけた。


「私の研究は、国を上げて取り組むべきだと思うのですよ。ご支援いただいているザクナ様(・・・・)からの助言もあって、魔獣出現の魔法陣は、それをアピールさせていただいたつもりなんですがねぇ」


 そう言ってこちらを見ると、うっすらと微笑んだ。


 この人、なんだ……?


 私の目には、その顔がヤケに不気味に映った。


「……おっと、喋りすぎてしまいましたね。本来なら、貴方は全く関係なかったのですが……色々と知ってしまった以上は、貴方の記憶も少々塗り替えさせていただかないとですね」



 そう言って、私とシェリの方へと一歩踏み出したところで、ちょうど人差し指から魔力が溢れ出てきた感覚がした。


 魔法陣の魔力が満タンになった合図だ。


「塗り替えたのは、こっちが先ですよっと……!」


 私はパンッと勢いよく、最後の仕上げに両手を魔法陣にかざす。


 すると、黒かった魔法陣の色が、一気に赤みがかったピンク色の、私の魔力の色へと変わった。


 よし、ビンゴだ……!


 魔法が発動出来なくても、魔力は使える。なら魔法陣ごと私の魔力に塗り替えてしまえば、この魔法陣の所有者は()になると仮定したのだ。


 つまり、私の魔力が無効から有効になったということ。


「な、何故……!? 私の魔法陣は完璧なはずなのに……!?」


 私は未だ眠っているシェリの前に立ち、手を銃の様に構えて、素早く土魔法を発動させる。


 狙うべき箇所(ポイント)は、一点のみだ。



『粉砕せよ 宝石の時戻しストーン・タイムリープ



 私の放った魔法は、呆然としていたステファニー様のお兄様の、首に下げていた黒い魔法石に直撃した。そして石はパキリと音を立てて砕け散り、それと同時に魔法陣も、消え去った。


「あ……あぁ……私の、私の魔法陣が……」


 そうぼやきながら、ガクッと膝から崩れ落ちる。


「研究は、魔法を受けた側がどのような行動に出るのか、きちんと検証しないと駄目ですよ?」


 まぁ今回は、その抜け道があったからこそ成せた技なんですけどね。


 私が自分とシェリに防御魔法を掛けたところで、シェリがようやく目を覚ました。


「アリス……?」


「シェリっ! よかった……痛い所とかない!?」


「えぇ……でもこれって、一体どういう状況なの?」



「……正当防衛、中?」


 困惑気味なシェリに、私もどう説明したものかと思いつつ、とりあえずえへっと笑うしかなかったのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ