第97話 信じたい友達
私とステファニー様は一度会場に戻り、サラにシェリの件を時間がない為、簡単に伝えた。
公爵家の令嬢が行方不明なんて大事が広まったら、ある事ない事を噂されてしまうかもしれない。それに、いなくなった事にこちらが気づいていると向こうに知られたら、どういった行動に出るのか……予測が出来ないから危険だ。
殿下やフォルト様への伝達はサラに任せて、私とステファニー様は、手掛かりになりそうな人物を探そうと、会場内をぐるっと見渡した。
「もう……何で今日に限って仮面舞踏会なの……!」
皆様々な仮面を被って顔を隠しているせいで、頭が混乱する。こんな時こそ冷静な判断をしなくちゃいけないのに。
私自身が、思っている以上に焦っているのかもしれない。
時間だけが、無慈悲に過ぎていこうとしていた。
「アリス様、ステファニー様」
不意に後ろから声を掛けられて、私はハッと振り返った。
「ラウル君」
「お2人とも、どうされたんですか? ……あれ、シェリーナ様は……まだ戻られてないんですね」
そう言いながら、会場をキョロキョロと見渡しているラウル君を見て、私はとある可能性に気が付いた。
「……ん? もしかしてラウル君って、この会場内に誰がいるかいないかが分かったりする……?」
「あ、はい。と言っても僕が知ってる人で、尚且つその人の仮面を覚えていればなんですけどね。メイドさんがおっしゃっていたじゃないですか、仮面のデザインは1つずつ違うから、同じ物は1つもないって」
僕、意外と記憶力はある方なんです、と笑った。
もしかして、ラウル君なら分かるかも……?
「……あのね、この会場をざっと見て、位の高い人限定で今この場にいない人って分かったりする……? 勿論、顔と名前を知ってる人だけで構わないんだけど……!」
「え、え? 位の高い人ですか?」
突然私に凄い剣幕で聞かれて、戸惑った様子だったが、うーんと……と、また会場内を見渡した。
「あ。そういえば、つい先程シルヴィオ王子が会場から出て行かれるのを見ましたよ?」
「……っ!? えっと、それは双子の……?」
ヒッ、と隣でステファニー様が、息を呑んだ音がした。
キョトンとした様子で、はい、と頷くラウル君である。
「飼育場の見学に来てくださった、フィリップ王子のご兄弟の方ですよね? シルヴィオ王子と直接お話した事はないですけど、有名な方ですし、遠目でご歓談しているのを見たので分かります」
私は一瞬、続ける言葉が見つからなかった。
よりによって、あの王子が関係してるかもしれないの……?
気が遠くなりそうになるのを、グッと堪える。ついさっき目撃したというのなら、まだ会場の近くにいるかもしれない。
「私、追いかけてみる。ステファニー様とラウル君は、サラ達に伝言を頼んでもいいかな。私がシルヴィオ王子を追いかけたって。多分それだけで伝わるはず」
「アリスティア様、お1人じゃ心配です……!」
私も……! と言うステファニー様を、私はゆっくり首を振って制止した。
「今、シェリがいない中で、更にステファニー様までいなくなったら、マズイと思うんです。それに、これ以上ご無理をされたら、体調が心配です」
現に、ステファニー様の顔色は、仮面越しでも伝わるくらい悪そうに見えた。
「でもっ……!」
反論するステファニー様を、私は真剣な表情で、言葉を被せて遮った。
「ステファニー様には、会場の方を託します。シェリがいない分も、夜会を円滑に回しておいていただきたいんです。それは、婚約者候補のステファニー様の立場でしか出来ない事ですから」
「ア、アリス様?」
「ラウル君、今、とにかく時間がなくて……詳しく説明出来なくてごめんね。サラか、殿下達……」
一瞬だけ、フォルト様の顔が私の頭を過ぎる。
「……なるべく早く皆を見つけて、伝言をお願い」
私達のただならぬ雰囲気を察してくれたのか、ラウル君は何で、としつこく問う事もなく、即座に頷いてくれた。
「分かりました、必ず伝えます……!」
「アリスティア様、無理しないでくださいね……!」
「はい。私が頼りにしてる方達は、必ず来てくれるって信じてますから」
私はそう言って微笑んで、会場を早足で後にしたのだった。
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会場を出て、私はとにかく人気のない方へと足を進めた。王子が1人で行動するなら、使用人や王宮騎士の方に見つかるのを避けようとすると思ったからだ。
こんな時は方向音痴だなんだ、四の五のいってられない。
「ッハァ……見つけた……! シルヴィオ王子ッ……!」
「……!? 何だ、お前?」
その考えは当たっていたようで、ようやく追いついた。私が後ろから声を掛けると、驚いた様子でこちらを振り返った。
この人を足止め出来れば、王子と合流待ちのステファニー様のお兄様は、一先ずシェリには何もしないはず……!
「……シェリは、どこ、ですか」
息を整えて、ジッと、真っ直ぐにシルヴィオ王子を見据えた。シルヴィオ王子は、私の一言であからさまに表情を変え、私を見る目がすごく冷ややかになる。
この王子は、やっぱり黒だ。
「……おい、面倒な事になったぞ。どうにかしろ」
そう言った途端、シルヴィオ王子のすぐ後ろから、仮面を付けた男が1人、突如現れた。
この人、今まで姿を消していた……?
つまりは、闇属性持ちの人間……なのだろうけれど、ニャーさん以外に闇属性の人が王宮にいるなんて、私は知らない。
後ろから見える長い金髪と、仮面の下から僅かに見える赤い瞳。
初めて会った気がしない、この雰囲気。
こんな時に、勘なんか冴えなくていいのに、私は気づいてしまった。
「……ルネ、さま?」
唖然としながら、思わず呟いた私の声が届いたのか、ルネ様は僅かに目を見張った。だけど、それも一瞬だった。私の防御魔法が追い付かない速さで、すぐに私に向かって闇魔法を唱えたのである。
『闇夜に唄え 黒い羊の夢』
何で、ここに居るはずのないルネ様が?
何で、闇魔法を使えるの?
聞きたい事は沢山あるのに、私はクラリと目眩の様なものを覚えながら、床に崩れ落ちる。そのまま自然と瞼が落ちてくる。
「……ごめんね、アリスちゃん」
どうして、ルネ様が謝るの?
薄れていく意識の中で僅かに聞こえたのは、その一言だけだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




