第92話 可愛いは正義
見学の時間的にも、ここが最後の見学場所となるだろう。私が案内したのは勿論、飼育場である。
「あれっ、アリス様? えっ、あっ、それに皆様もお揃いですか!?」
屋外広場のブースで、沢山のうさぎ達を自由に遊ばせていたラウル君が、驚いた表情で私達の元へと小走りでやってきた。
そうそうたるメンバーが突然やって来たら、そりゃ驚くよね。アポなしでごめんよ……
「お疲れ様! 急に来てごめんね。帝国のフィリップ王子も、学園の案内をしててご一緒なの。ちょっとお疲れ気味だから、是非ここで癒されてもらおうと思ったんだけど……」
「なるほど、それなら任せてくださいっ! どうぞ!」
動物の事となれば、殿下でも他国の王子でも気にならないようである。ラウル君はイキイキとした表情で、私達を広場の中へと案内してくれたのだった。
「今、ちょうどうさぎが広場にいるので、自由に抱っこしたり、撫でてあげてください〜!」
僕、オヤツの人参を持ってきますね、と室内飼育場へとパタパタと駆けて行った。
「可愛いな……」
「はい、王子もどうぞ」
サラからうさぎを手渡されて、ちょっと戸惑っている王子である。あれ?
「実際に動物を触った事があるのは、馬くらいしかないんだが……」
「うさぎは大人しいので、大丈夫ですよ。まずは頭や背中を優しく撫でてみてください。うさぎは体温も高いからポカポカで、とっても気持ちがいいんです」
オヤツの人参スティックを持って来てくれたラウル君が、躊躇いがちな王子に優しく声を掛けた。
それを聞いた王子は恐る恐る、うさぎの頭にゆっくりと手を乗せて、そっと撫でる。
「本当だ……あったかいな」
うさぎの、目を閉じて気持ちよさそうにしている様子を見て、ポツリと言葉を洩らした。
「人参も食べさせてあげてください。可愛さが更にアップします!」
ラウル君のおもてなしはバッチリなようだ。王子も癒されているご様子だし、少しの間だけでもゆっくり過ごしてもらおう。
広場にいたのがうさぎで、ちょうどよかったのかもしれないなぁ。動物に慣れてない人が、いきなりアルパカどうぞ〜とか言われても、ちょっとたじろぐだろうしね……
「久しぶりに動物に触ったかもしれないわ。可愛い」
ヨシヨシと、うさぎの頭を撫でるシェリを、殿下は隣で優しく見守っているご様子である。ここは別空間になってます。まぁ殿下も、王子とはまた違ったお疲れモードですもんね。
私はうさぎを抱っこして、テクテクとフォルト様の元へ歩み寄った。
「ん?」
「フォルト様も折角ですから、触ってみてください」
もふもふ、可愛いですよと笑う私の頭を、何を思ったのか、ポフポフと撫でるフォルト様である。
「……?」
ん? もふもふ、ポフポフ……?
訳が分からず、されるがままになっていた私だったが、ハッと再起動する。
「ち、違いますよ? もふもふはうさぎ……」
「可愛いものは愛でるべきだろう?」
そう呟くと、ほんの少しだけ笑って、私の腕の中にいるうさぎを覗き込む。そっと親指で、うさぎの頭をひと撫でしたのだった。
微笑むフォルト様とうさぎの絵面も、中々の目の保養だ。護衛ポジションだから控えているのかもだけど、遠慮しないで抱っことかしたらいいのに……
「わっ!? ちょ、ま、待ってくれっ!!!」
「……ん? 何か室内の方から、叫び声が聞こえてこないか?」
「様子を見に行かなくて平気なのか?」
殿下とフォルト様がいち早く異変に気づき、ラウル君にそう問い掛けた。
「あっ、大丈夫です! ここでは割とよくある事なので!」
いい笑顔で言い切るラウル君も、大分肝が据わってきたものである。
「すみませ〜んっ! 広場に出て行っちゃいました〜!!! 捕獲お願いしますぅ〜!!!」
何だかデジャヴな気がするぞ……?
私の勘は、バッチリ当たったようだ。
広場にシュパッと軽快に現れたのは、何時ぞやも脱走を図っていたリスザルである。キョロキョロとしていたが、私の姿を視界に入れると、素早くこちらに向かってきた。
一目散に私の所は駆けてくると、よじよじと足元から登ってくる。
「や、やっぱりまた君かぁ。元気そうだねぇ」
「キュ!」
まんまるの目をクリッとさせて小首を傾げる姿は、可愛くて叱る気も失せてしまうのだから、仕方がない。
「でも、飼育員さんを困らせちゃダメでしょう?」
「キュ〜……」
「君は頭が良さそうだから、飛び出す前に、飼育員さんに一声掛けれそうなんだけどなぁ……」
「キュッ!」
まるで「出来ます!」と、言わんばかりのいい返事である。
「えっ、アリス様、ついに会話まで出来るように……!? ぼ、僕にも教えてくださいっ!」
「いや、私が一方的に話しかけてるだけだよ……? この子がこっちの言葉を理解してくれてるみたいだから、ラウル君が話しかけても分かってくれる……はず。うん、多分」
私の肩にはリスザル、腕の中にはウサギ、と意図せずもふもふパラダイスになったのだった。そこにラウル君も加われば、ワイワイと更に賑やかになる。
「可愛いの供給過多だな。あの空間を見てるだけで癒されるよ」と、サラが笑った。
「動物は人の心が分かるというからな。彼女達の優しい性格が分かっているんだろう。おかげで私も、すっかり癒されたよ。このお礼はきちんとしないとな」
そう言って、フィリップ王子は穏やかな笑みを浮かべた。
喜んでいただけたなら、それだけで充分なのだけど、お礼とは何ぞや……?
私とラウル君は顔を見合わせたのだが、後日驚く事になるのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




