第91話 一触即発
まだ図書館での作業が残っているから、というミレーユと別れた私達は、次に室内実技場にやって来ていた。
「この学園は、本当に施設の1つ1つが大きいんだな……」
「見学だけじゃつまらん。折角エタリオルに来たんだ。俺たちも魔法模擬戦、行おうじゃないか」
ここでは終始ツンツンとしていたシルヴィオ様の方が、珍しく興奮していた。
この人も、もしかして戦闘狂なのかな……奇遇ですね、ウチにもいるんですよ戦闘狂。
「私達みたいな帝国の王族と、魔法模擬戦をやりたいなんて思ってくれる人は、中々いないと思うよ?」
苦笑いをしながら、フィリップ王子はそう話す。
確かに、私達からしたら恐れ多いし、殿下やフォルト様が王子達と戦ったら、話題性がありすぎるかも。余計な尾ひれがついた後には、変な噂になっているかもしれない。
「なんだよ。地位とか国に関係なく、やり合えそうな奴、いないのか……ん?」
周囲を見渡したシルヴィオ様と、バチッと目が合った。
ぴぇっ……
蛇に睨まれた蛙の如く、プルプルとしている私を一瞥すると、シルヴィオ様はフッと鼻で笑った。
「そこにいるチビは……弱くて相手にもならなそうだしな。安心しろ、お前は論外だ」
「はぁ……」
なぜに皆さん、私の事をちんくしゃとかチビとか言うんだ……!?
そもそもシルヴィオ様に関しては、今日が初対面なんですけど……他国の王子でも流石に失礼である。いや、まぁチビなのは本当だけども。
「お言葉ですが、アリスはさ……もご……」
「……さ?」
「さ、察しの通りっ、どんくさいんです私!」
恐らく3属性持ち、と言おうとしていたであろうシェリの口を押さえて、あははと笑って誤魔化した。
何で止めたのか、と言わんばかりの表情を浮かべて、ちょっと憤慨しているシェリをどうどう、と宥める。
そして何故か隣では、殿下がフォルト様をどうどう、と宥めていた。何でだろう……
「別に気にしてないし、大丈夫。怒ってくれてありがと。それよりもね? 帝国のお偉い方に、私の魔法で万が一があったらって考えたら……イヤダ、ムリ、コワイ」
シェリの顔を見ながら、小声で早口に呟くと、私は真顔で首を横に振ったのだった。
「そ、そう……? アリスがそう言うなら……」
「ふぅん……帝国の王子は、女は弱すぎて相手に出来ないと?」
あっ、こっちにも飛び火が!?
今度はサラの戦闘狂スイッチが入ってしまったようだ。
「あ? そういう訳じゃないが……何だ? お前は強いとでも?」
「試してみます?」
「あぁぁ、見えない火花が見える気がするぅ……」
フォルト様と殿下は、シルヴィオ様に対して好戦的だから、そのまま負かしてやれと言わんばかりの顔で、サラを止めようとしないし……ニャーさんは姿を現す訳にもいかないし……!
そう思いながら、ハラハラと見守っていた私とシェリだったが、スッとフィリップ王子が動いた。
「……シルヴィオ。父上から口酸っぱく言われていただろう? 派手な事をして、他国で迷惑をかけないようにと」
優しげな笑みを絶やさなかったフィリップ様だったが、スパンと厳しい声で言い切った。
シルヴィオ様は苦々しい表情を浮かべて、舌打ちした。
「……興が削がれた。俺は先に戻る」
シルヴィオ、とフィリップ王子が再度声を掛けるが、クルリと向きを変えると、そのままスタスタと出口へ向かわれたのだった。
王子様ってこんな自由でいいのか……?
あ、いや、王子様だからこそ、自分勝手でも許されるのか……?
護衛担当であるニャーさんの、壮大な溜息が聞こえてきそうで怖いです。
「すまない。案内してもらっておきながら、勝手な行動ばかりで……」
先程の厳しい表情とは打って変わって、今は困り顔のフィリップ王子。締める所はキチンと締める辺り、王家の厳格さがある。これぞギャップ萌えなのでは。
「私達は構わないが、帝国にいる時も普段からこういう感じなのか?」
「そうだな……成長していくにつれて、私達の性格はかなり真逆な感じにはなったね。王位継承権の事も、嫌でも知る事になったし……最近、帝国の貴族たちが騒いでいるのは、こちらでも既に耳にしているだろう?」
それは、まぁ……と、私達は肯定ともとれる返事を、曖昧にした。
「そもそも私達自身、対立するつもりは特段なくてね。今後については、少なくとも私は父上の意向に従おうと思っていたんだ。だが、どうしても私達を対立させたい輩がいるらしい」
双子の弟と対立しなきゃいけないなんて、辛いですよね……
「余計な事を囁く貴族もいるようでね。ある事ない事を吹き込まれて、シルヴィオは最近、少し感化されてしまっているみたいなんだ」
おかげでここ数ヶ月前からは、何だかギクシャクしてしまってね……と、ポツリと心の内を語ったフィリップ王子なのだった。
「あのっ、フィリップ様、動物はお好きですか?」
思いがけずしんみりとしてしまった空気を戻そうと、私はとある提案をしたのだった。
「え? あ、あぁ……」
「ならきっと、すごく癒されるであろう場所へとご案内します!」
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




