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第88話 お喋りな間諜にシブーストを添えて

 



 最後の最後で大騒ぎとなり、慌ただしく幕を閉じた実技試験。あれから1ヶ月程経ち、すっかり秋らしくなった今日この頃である。


 何気に溜まり場となりつつある保健室に、私は放課後になってから、お礼のケーキを持ってお邪魔したのだった。


 お礼の気持ちを込めたケーキは、結局シブーストにした。薄く一口サイズにカットしたリンゴをキャラメリゼし、タルト生地へふんだんに敷き詰める。その上から、トロリとした優しい甘さのシブーストクリームをかけ、表面に焼き目を付けて冷やしたら、完成だ。


 ショートケーキとか、デコレーションケーキにしようかとも考えたけど……流石に食べきれないし、逆に迷惑になるかなと思ってやめたのだった。



「アンタも律儀よねぇ。わざわざいいのに」


 私が改めてお礼を言うと、ちょっと呆れた様子のニコラ先生だったけれど、ケーキを見るや否や、ウキウキしながら紅茶を淹れに行く。どうやら喜んでくれているようだ。


「くぁ〜よく寝た……甘い匂いがすると思ったら、やっぱりあーさんか」


 ベッドの横のカーテンがシャッと開くと、伸びをしながらニャーさんが出てきた。


「えー……またお昼寝してたんですか……シェリは学園にいないですけど、護衛の方は大丈夫なんです?」


 急遽王家からの呼び出しがあったとの事で、シェリは今日1日、学園を休んでいるのだった。


「だいじょーぶ。今日は最強のユーグがシェリーナ嬢の側にいるからな」


 おっ、美味そうなケーキじゃん、と手を伸ばそうとしたころで、戻ってきたニコラ先生が、ペチリとその手を叩いた。


「こーれーは、アタシの為にって持ってきてくれたの。ガキンチョ猫にあげるなんて、誰も言ってないでしょ」


「だぁから俺は猫じゃねぇってば! 虎だって言ってんだろっ」


 シャーッと威嚇するニャーさんは、もはや猫そのものである……と心の中で思いつつも、どうどうと宥める私。


「まぁまぁ、ニャーさん。沢山あるから一切れくらいはくれますって」



 このあだ名がジワジワ浸透してんの、確実にあーさんのせいだけどな……とボヤくと、ニャーさんは私の隣にドカッと座ったのだった。




 ────────────────




「……えっ!? レベッカ様、正式に婚約者候補から外されたんですか?」


 ビックニュースを聞いた私は、ちょうど口に入れてしまったシブーストを慌てて食べ終えると、ニャーさんの言葉をそのまま繰り返した。


「そ。これでユーグの婚約者候補は、事実上シェリーナ嬢とフィゾー嬢の2人に絞られて、一騎打ちってわけ。んで、そろそろ候補者の中から内定者を決める段階に入ったらしいぜ。多分その関係で、呼び出しがかかったんだろーな」


 なるほど……それがシェリの急な休みに繋がるのか。


「そもそも内定者って、どうやって決定するんですかね? 勿論、殿下はシェリ一択だとは思いますが……」


 未来の王妃様だし、そう簡単に決められるものではない事は分かってるけど、もしかして何か審査とかをするのだろうか。


「それがよ、どうやら今度親善訪問に来るリバーヘン帝国の奴らの接待を、婚約者候補の2人もするんだと。外交の様子とかを見るんじゃね?」


「うわ〜、来賓の接待って絶対大変じゃないですか……しかも帝国語だろうし。ていうかステファニー様は、体調の方は大丈夫なのかな……」


 私は帝国語が苦手なので、お偉いさんの相手をするシェリとステファニー様、お疲れ様です……と、不憫に思ったのだった。



「最悪、フィゾー嬢は交流のメインになる、夜会だけでも参加出来れば充分だろ。大体、帝国の王子様方は、光属性持ちの才色兼備なシェリーナ嬢を一目見たいだけだと俺は思うね」


 シェリーナ嬢は国外でも有名人だからよ〜、と言いながらグイッとティーカップを傾けて、豪快に紅茶を飲むニャーさんである。


 頭に被ったフードが外れそうですけど、いいんですか間諜さん。


 そんな姿を横目でチラリと見て、私はふと思った事を口にした。


「何か毎回、最新のニュースを聞いちゃってる気がするんですけど、これってセーフなんですかね?」


 そう呟いた途端、隣でブハッと紅茶を吹き出す音がした。


「お行儀悪いですよ……」


 私はニャーさんにハンカチを手渡す。


「……いずれ公表される事だろうから、セーフでいいわよ、きっと。アンタってホント聞き上手よね……相槌上手ってやつなのかしら……もう特技にしてもいいんじゃない?」


 ちょっとウンザリした様子で先生に言われた私は、何とも言えない表情になった。意図的に聞き出してる訳じゃないんだもの。まぁ、前世の性格が引き継がれてる感じは否めないですけど。



 顔面紅茶まみれになったニャーさんは、受け取った私のハンカチで軽く口元を拭うと、プルプルと頭を振った。すると、紅茶がかかっていたであろうフードがあっという間に乾き、元通りになったのだった。……魔法石イリュージョンか。


「すごい。この布、魔法石付きなんですね」


「これでも王家直属の間諜だからな。支給品は高級品」


 ガキンチョ、としびれを切らした先生が、口を挟んだ。


「さっきから口が滑りすぎよ」


「チッ、分かってるよ。頭ん中では線引きしてるつもりだっつーの。それに、あーさんと喋ってると気が緩むんだから仕方ねーじゃん」


「それはそれ。この子もいい所の令嬢なんだから、余計な情報を持たせて、危険に晒されでもしたら大変でしょ。ただでさえ危険な事に巻き込まれ続けてるんだから」


「あー……まぁそれは確かに……」


 同情するかのような声色で、こっちを見ないでいただきたい。私も好き好んで、危険に飛び込んでいる訳では……ないです多分。


「令嬢っぽくないのも問題なのよね……」


 先生はマジマジと私を見ながら、ハァ〜と溜息をついた。


「あれ!? 最終的に私の問題になってる感じです……!?」



 何だか納得のいかない私なのだった。解せぬ。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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