第85話 傷口と種明かし
私の為に怒ってくれるのは嬉しいけれど、私にとってはレベッカ様の事よりシェリに心配をかけて、尚且つ怒られる事の方が大問題である……!
「そ、それはとりあえず置いておいてですねっ!? もっと重要な問題があるんです!」
「ん?」
怪訝そうな顔をしたフォルト様に、先程から考えていた心配事を相談する。
「……つまりアリスティアは、怪我した事をシェリに知られたくないんだな?」
そう言うと、すぐに風の加速魔法を自身の足にかけ始めた。
んん、何で加速魔法? と小首を傾げる私。
「そのハンカチ、施設に戻るまで当てておけ。向こうに着いたら、すぐにニコラの所に行くぞ。……何なら抱き抱えていこうか?」
「……抱きっ!? だだだ大丈夫ですっ! 魔力はまだまだ余裕でありますので!」
私もしゅぱっと素早く風の加速魔法を自分にかけたところで、サラとルネ様が私達の様子に気づき、こちらへとやってきた。
「アリス? また加速魔法を使ってどうしたんだ?」
「あ、サラ、ルネ様! ちょーっと先に施設に戻ってるね! 向こうですぐ皆と合流するからー!」
らーらーらー……とエコーがかかりつつ、来た道を駆け戻っていく私なのだった。
「……よく分からないけど、後で合流するからまぁいいか? アリスも元気そうだしな」
「そうだねぇ〜? ま、何かあっても氷の騎士様が一緒なら最強でしょ」
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一足先に合宿施設に戻った私とフォルト様は、施設内の救護室へと足を運んだ。
「失礼しますっ! ニコラ先生〜!」
私は先生の元へと、タタッと駆け込んだ。先生はもうすぐ出発の為か、持参した医療器具の片付けの最中だったようだ。
「あら、どうしたのよ? 頬っぺたにハンカチなんか当てちゃって」
「えーっと、うっかり怪我しちゃいまして……ってあれ? レベッカ様、ここに運ばれたんじゃないんですか?」
くるりと部屋全体を見渡すも、ベッドにレベッカ様の姿はなかった。
「魔力暴走と魔力枯渇をまとめて起こしたお嬢様? さっき診て、一応体調は問題なさそうだったけど……色々あったみたいだから、学園には先に個別で出発したみたいね」
もうすぐ私達もここから出発するし、ご令嬢を森に残すのもなんだからねぇ、とニコラ先生は付け足した。
「そうか。となると……目が覚め次第、学園で話を聞く事になるな」
「あの子、一体何をしたらあんな状態になるのよ。やっぱりまだまだ1年生は甘ちゃんよねぇ。……で? アンタはどの程度の怪我をしちゃったの?」
「あのですね……ここの切り傷なんですけど、テープとか何かで隠せたりしないでしょうか……?」
私はおずおずとハンカチを頬から離して、先生に診てもらう。
「血はもう止まってますし、私自身そんなに気にはならないんですけど、シェリに無茶をしないって約束した手前、傷がある事がバレるとちょっと……」
「……よくよく見たら、アンタもそこそこ魔力を消費してるじゃない」
「えっ!? 本当ですか? 元気も魔力も有り余るくらいなんですけど……」
自分の体感では魔力をそれほど消費してないと思っていたんだけどな……? まぁ普段よりかは確実に使ってますけども。
ふぅん……とニコラ先生は顎に指先をあてて、ほんの少し思案したかと思うと、続き扉を開けた。私達が不思議そうに扉を覗き込んでいると、先生に手招きをされた為、隣の部屋へと続けて入っていく。
そこは、窓のない小さな薬品倉庫だった。部屋の灯りを点けてパタンと扉を閉めると、先生は私の傷に触れるか触れないかのところに手を添えて、小さな声で呟いた。
『囁きたまえ 癒しの歌声』
キラキラとした効果とともに、私の傷口を温かな魔力が包んだかと思うと、同時に痛みもスゥッと消えていく。
……これって、シェリが前に殿下にかけた、光の治癒魔法と同じ?
「ほぇ……!? ニコラ先生って光ぞっ……」
勢いよく口を塞がれ、モゴモゴとする私。そんな私の目の前に、ズイッと顔を寄せた先生が、ニッコリと微笑んだ。目、目が笑ってないですぅ……
「はい、余計な事は言わな〜い」
「ふぁぃ」
「どうせアンタの怪我は、面倒な事に巻き込まれて出来たんでしょ? それなのにもし傷が残ったりでもしたら、アンタ散々じゃないの」
「ぷは。せ、先生、優しい……!」
塞がれていた口がやっと解放された私は、光魔法にも勿論驚いたが、先生の優しさに思わず口から感想が溢れた。とっても有り難すぎる……
「それから、これも貼っときなさい」
先生は小さな肌色のテープを、私の傷があったであろう頬にペタッと貼ってくれた。
「アンタの傷を直接見たのって、他に誰かいるの?」
「えと、多分フォルト様だけです。フォルト様が気づいてハンカチを当ててくれて、それからはずっとそのままだったので。あ、でもサラとルネ様も、私のその姿は見てると思うんですけど……」
ですよね? と、私が横にいるフォルト様を心配そうに見上げると、コクリと頷いてくれた。
「あの2人なら、余計な事をわざわざ言ったりはしないだろ」
先生は、まぁそれならどんな傷だったかは分からないし、大丈夫かしらね……と呟くと、私の頭をぽふぽふと撫でた。
「これで一応の誤魔化しがきくと思うわ。シェリーナちゃんには、虫に刺されたとか何とか言っておいて、塗布薬塗ったから大丈夫って事にしときなさい。2、3日は貼っておいて、その後外したらいいわ」
「シェリへの説明まで……! ありがとうございます!」
パァッと喜んだ私を見た先生は、ヤレヤレといった表情で私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「フォルトは元々知ってるからいいけど、アンタはうっかりさんだから釘刺しとくけどね、この事は他の人に言わないでよ? 細かい事はまた言えるようになった時に話すから、今は追及しないでちょうだいな」
「はい。貴重な魔法で治してくださり、ありがとうございました……!」
そうお礼を言いながら、神妙な面持ちで頷く私なのだった。
でも先生……撫でる力が強すぎなんですけど。
代償として髪の毛がぐしゃぐしゃになったのは、言うまでもない。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




