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第84話 そっと触れて

 


「ぇぇ……!? お、お2人とも、来るの早いですね!?」


 私は驚きながら、フォルト様とニャーさんを交互に見返した。


「アイツらはちゃんと送り届けてきたぜ? んでフォルトにあーさんの話をしたら、すげー怖い顔で早く案内しろって……あ、嘘です何でもねぇっす」


 慌てふためくニャーさんをチラリと一瞥したフォルト様は、ため息をつくと私の方に視線を戻した。


「もうすぐ騎士たちも来るから」


「はいっ! お2人は心配して、わざわざ急いで来てくれたんですよね。フォルト様、ニャーさん、ありがとうございます……!」


 騎士様の到着も間もなくだと聞いて、ようやくホッとした私なのだった。


「おー……ま、俺らの出番はなさそうだけどな」


 ニャーさんは、意気揚々と攻撃魔法を放つサラと、魔獣相手に容赦のないルネ様を見つめながら、ゲンナリとした様子である。


「アイツらは戦闘狂なの? 何なの?」


「いや〜あの2人、いいコンビですよねぇ」


 楽しげに魔法を連発する2人を見ながら、そんな事をボヤいていたのだけど……現状報告を全然していない事にはたと気が付いた。


 私はハイッと片手をピシッと伸ばして、挙手をする。


「えっと、報告します! レベッカ様が防御壁をくぐってしまい、森の奥へと侵入していました。近くに猪型の魔獣が1匹おり、レベッカ様は混乱からか、魔力暴走を起こしてしまっていたんですけど、今は魔力枯渇状態で眠っています。怪我はないです!」


 以上です! と元気よく答えた私だが、2人は何とも言えない表情でこちらを見ていた。あ、あれ?


「色々ツッコミどころ多いんだけどよ……とりあえず、あーさんがこの女の魔力暴走を止めたって事でいいんか?」


「えーと……止めたというか、レベッカ様の魔力が枯渇するまで、攻撃魔法を相殺してました。すぐに止められたらよかったんですけど、今考えると、かなり効率悪いですよね……」


 冷静に対応していたつもりだったけれど、レベッカ様を怪我させちゃいけないと思う気持ちから、遠回りな対処法を選んでしまった気が今更してきた。私はちょっぴりしゅんとなる。


 そんな私の発言を聞いてか、フォルト様は珍しく驚いた表情を浮かべた。そしてまた、マジマジと私を見つめるのである。


 私、今回はおかしな事してないですよ……?


「相殺って……同じだけ魔力をぶつけていたのか……? 体調は大丈夫か?」


「えっ、あ、それは全然問題ないです! 元気いっぱいです!」


「……アリスティアの魔力量が、人よりも多くてよかった」


「うぅ、すみません……」


 また心配をかけてしまったようで、更にへこむ私であった。



「おーい、お2人さん。これさ、俺が一旦王宮まで預かるわ」


 チョイチョイとニャーさんに突かれて、ニャーさんの手元を見ると、先程の壊れたブレスレットを布に包んだ状態で持っていた。


「直接じゃないとはいえ、持って大丈夫なんですか? これ、危険物なんですよね……?」


 さっき私も止められるまで、普通に触ろうとしてましたけども。


「おぅ。確認したら、とりあえずもう魔力は感じられねぇから大丈夫だと思う。念の為、俺が運ぶけどよ」


「なるほど」


 私はニャーさんの手元にあるブレスレットを恐る恐る覗き込んだ。つまりはこの割れた宝石って、魔法石だったのか。あれ、そう考えると……


 黒って……闇魔法の色じゃないか?


 しかもこれ、割れてしまっているけれど、見るからに高価な宝石だ。


「闇魔法の魔法石を、レベッカ様が持っていた……?」


 何でそんな物をわざわざつけてきていたんだろうか?


「その辺の事も、この女が起きたら聞いてみないとな」


 は〜、めんどくせぇ、とブツブツと言うニャーさん。あの、公爵令嬢であるレベッカ様の扱いが酷すぎません……?



 そうしている内に、私たちが来た道の方から、複数の足音が聞こえてきた。応援がやって来たようである。


 眠っているレベッカ様は、応援で来てくれた騎士様によって、担架で運ばれていく。向こうに戻ればニコラ先生もいるし、安心だ。


 猪の方はというと、騎士様が来た時点で既に戦闘不能になっていたので、特に騎士様の出番はなかった。満足げなサラと、汗一つかいていないルネ様、本当すごいですわ……


「あれ……? でもフォルト様。殿下の護衛でいつもお忙しいじゃないですか。よくこっちに参加する事ができましたね」


 私は不思議に思って、隣にいたフォルト様に問いかけた。


「舞踏会の日にアリスティアが変な話をされたって件を聞いてから、ユーグに言って日程は調整してもらっていたんだ」


 ニャーさん、フォルト様にも伝えてくれていたんだ。何だかんだ心配してくれて優しいな。


「無事に試験が終わればそれでいいから、俺が森に来てた事は黙っておくつもりだったんだが……何でお前は、いつも人の為にばかり動くんだ。見てるこっちはヒヤヒヤしてるんだぞ」


「ご、ごめんなさい。でも実は、ちょっと期待してたんです」


「期待?」


「試験には、特Aクラスの上級生も数名来ているって聞いた時、もしかしたらフォルト様もいるんじゃないかなーなんて」


 へへっと笑った私を見つめたフォルト様は、私の顔にかかった髪の毛をかき上げて、頬にそっと手を添えた。


「……傷が出来てる」


「え? あ、私ですか? 風魔法を受けた時かな……」


 さっきは夢中になっていたから、言われるまですっかり忘れてた。怪我していた事を思い出すと、ジンワリとした鈍い痛みが戻ってきた。


「あちゃー……でも切れてる所って、ちょっぴりですよね? 塗り薬か何かを塗っておけば大丈夫です!」


 あぁ、でもシェリに見られたら、また心配させちゃうよなぁ……と私が考えている内に、フォルト様はいつの間にか水魔法を唱え、ハンカチを濡らして私の頬にそっと当ててくれた。冷たくて気持ちいい。


「わ、ありがとうございます」


「あの女……自分は怪我もせず、アリスティアにだけ怪我を負わせて……」


 フォルト様の毒舌が耳元で聞こえたかと思うと、周囲がヒンヤリと冷気に包まれる。ぴぇ、お、怒ってらっしゃる!?


 でも、さっきからニャーさんもアウトでしたけど、その呼び方って不敬ですからねー!?


 

いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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