第81話 魔法実技試験 4
第5関門を突破した私達は、最後の罠がある地点へと歩みを進めていた。この調子で進めば、制限時間はそこそこ余った状態でゴール出来そうだ。
やっぱり魔法は勿論だけど、罠に対する判断力も試されているんだなぁ……としみじみ思う私である。
「残すはあと1つだねぇ」
自分の出番が早々に終わっているルネ様は、のほほんとした様子で話している。
「やっぱり最終関門だから、難しかったりするんでしょうか?」
「う〜ん、でもそれだとチーム内で不平等になっちゃうから、しないとは思うけど…………って、わー!? へ、蛇ー!?」
ラウル君と会話していた私は、慌てて足を止めた。何の障害物もない道に、突如ポツンと佇む蛇……めちゃめちゃシュールだし、不気味すぎる。
「やだ、あれって毒蛇じゃない……!?」
ミレーユの恐ろしい発言を聞き、思わずヒェッと身を寄せ合う私とシェリ。
確かに、黒い斑点模様がびっしりとあって、いかにも毒性が強そうな蛇である。しかも体長1m以上は余裕でありそうだ。こちらを見て、シャーッと威嚇している。
うわぁ……あんな禍々しい模様の蛇は、流石に近づきたくない。毒性の強そうな爬虫類はちょっと、いや無理、本当無理。私とシェリは、すっかりお手上げ状態である。
「これが最後の罠って事か? 私の相手がコイツだなんて、ちょうどいい順番だったな」
やる気満々のサラは、片手を前に突き出すと、即座に魔力を手のひらに纏う。火の攻撃魔法を唱えようと、口を開きかけた。
「あぁっ!? サラ様、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
ラウル君の慌てた様子の声を聞き、サラは驚いて魔力を止める。
「その模様の毒蛇って確か、魔法薬学の実験材料になる、貴重な素材だったと思うんです!」
あわよくば欲しいです……!
そう言わんばかりのキラキラした表情で、サラを見つめるラウル君である。
「ラウル、お前なぁ……」
やや呆れた様子のサラに、毒蛇を離れた所から観察し、少し考え込んでいたミレーユが声を掛けた。
「でもサラ、それがもしかしたら、この罠をクリアするポイントかもしれないわよ? それにこの毒蛇……多分だけど、背中からも毒を分泌する種類だった気がするわ。気をつけて」
「ひぇっ……噛まれても毒だし、近づいても毒って……」
恐れ慄いた私は、また更に一歩後ろへ下がろうとした。
……が、ポスッと頭が何かに当たり、振り向くと後ろにルネ様がいた。ニコニコと胡散臭い笑顔で、私の背中をさりげなく前に押している。
悪魔だ……悪魔がここにいるぞ……!
「アリスちゃ〜ん、防御魔法かけてるんだから、滅多な事がなければ大丈夫だってば〜」
「わ、分かってるけど、怖いものは怖いんだってば……! もう下がらないから、前に押さないでぇぇぇ」
私の必死の頼みに、ようやく満足したのか、パッと手を離したルネ様であった。
「てか、つまりはただ倒すだけじゃダメって事でオケ? 闇雲に攻撃魔法を使わないで、貴重な部位をキチンと避けて倒さないと、ゴールしても最終的には減点とかされそうだよねぇ〜」
「分かった。それならラウル、その素材っていうのは、どの辺りにあるか分かるか?」
「えと……貴重な素材は、胆嚢っていうんですけど、確か人でいうと、みぞおち辺りにあるはずです。蛇の腹部は恐らく、真ん中より少し下の辺りでしょうか」
「ふぅん。真ん中より下に素材、それから背中に毒……か。それなら丁度、試してみたい魔法があったんだよな」
サラはそう言ってニカッと笑うと、片手を前に突き出して、再び魔力を纏った。一瞬で魔力を纏い、前を見据える姿は、本当に男子顔負けのかっこよさである。
『炎の刃、研ぎ澄ませろ 灼熱切断』
ブォンッと高速の炎が蛇に向かって放たれ、ナイフの様に、ピンポイントで蛇の首を切り落とした。蛇が毒を放出する事も、魔法を避ける隙を与えない、すごい速さだ。防御魔法がなかったら、もしかしたら人でも避けるのは困難かもしれない。
ふむ、とサラは自分の手のひらをグーパーとさせながら、感覚を確かめる。
「この攻撃魔法なら、剣がなかった時の代わりにもなるだろ? 上級魔法だから紡ぎ言葉が長いし、コントロールを細かくしないといけないのが少し難点だけどな」
私を含めた皆は、ポカンと呆気に取られていた。
サラ……上級魔法をなんて事ないかの様に扱うのは、かっこよすぎますって……
本当に同じ魔法学園の1年生なのかと疑うレベルである。
こうして早々に倒す事が出来た毒蛇は、ラウル君が土魔法で加工した石を、即席のナイフ代わりにして解体し始める。
サラはともかくとして、まさかのミレーユも、興味津々でラウル君の手元を観察していた。
「蛇の解剖図は、本でなら見た事があるけれど、やっぱり直接実物を見ると違うわね。あ、ラウル様。水なら魔法で出せるから、必要な時に言ってちょうだいね」
「さすがミレーユ様ですねっ! ありがとうございます。えっと、背中は素手で触らないようにして、ここを裂いて……」
3人がワイワイと、胆嚢の取り出し作業を行なっているのを、私を含めた残りの3人が、恐る恐る遠目から眺めていた。
「ごめんなさい、皆に任せてしまって……間近でこんなに生々しいのは、ちょっと無理だわ……」
「俺もグロいのはちょっとね〜」
「適材適所ってやつだよ、シェリ、ルネ様。私達が出来る事は、周囲の安全チェックじゃないかな。一応ゴールまでは、何があるか分からないから気が抜けないし」
私は解剖している3人から、スッと目を逸らしながら言った。あぅ、ちょっとグロいのが視界に入ってしまった。
「アリスちゃんも蛇は苦手なんだね〜?」
ルネ様にクスクスと笑われて、私は口をへの字にした。
「だって、いかにも毒蛇って感じなんだもん……あの蛇は、まず見た目が無理だし……」
ぶつくさ言っていると、ラウル君の「取れましたー!」という元気な声が聞こえてきた。
「あー……えっと、ラウル様? それってうっかり潰したら大変な事になると思うから、よかったら私が預かるわ」
ミレーユはそう言いながら、そっとハンカチを手に広げた。それは確かにナイスな判断かもしれない。
「さてと。じゃあゴールまであと少し、気をつけながら進むとするか」
「うんっ!」
こうして私達は、その後も特に問題なく、無事ゴールまで辿り着けたのだった。
何が正解だったのかは分からないけれど、皆で協力して頑張った分、高得点が取れていたら嬉しいなぁ……
いつもありがとうございます(*´꒳`*)