第80話 魔法実技試験 3
「……今度は見上げてる首が痛くなる程、高い木だねぇ〜」
ルネ様がちょっとウンザリ気味に呟いた。確かに、巨大土壁に引き続き、今度は巨大樹、とくればそんなリアクションにもなるだろう。
「ここが多分中間地点で、尚且つ4つ目の試練だよね。でも、この木をどうしたらいいんだろう……?」
私は木を見上げて首を傾げた。高さはザッと見繕っても、20mくらいはありそうだ。
「ん? 木の枝に、何かぶら下がってないか?」
サラの言葉につられて目を凝らして見てみると、枝の先に、小さくて可愛らしいカゴがちょこんと引っかかっているのが、ギリギリ見えた。
うーん……木の枝ごと切り落として、カゴを落とすのが手取り早いとは思うけど、それは何か気が引けるんだよなぁ……
「んと、じゃあ今回は私がやってみるね?」
こういう時こそ、教えてもらった攻撃魔法の出番なのかもしれないけれど……木を傷つけずに、カゴを手に入れられるのなら、その方がいいと思うんだ。
私は片手を前に突き出して、広げた手のひらに魔力を込める。一瞬だけ目を閉じて、集中。言葉を紡いだ。
『創造 錬金鳥』
土魔法で生まれた錬金鳥を見つめて、私は心の中で問いかける。
お願い。私の代わりに、あの木の枝にかかっている小さなカゴを取ってきて?
私は木にかかっているカゴを頭の中で想像しながら、もう一度魔法を発動させた。魔法をかける対象は鳥に、そして今度は風魔法だ。
『風よ、導いて 幸せを運ぶ鳥』
これは魔法発動者が願い、思い描く物を、風の力を借りて手元に引き寄せる魔法だ。魔法を重ねる事で成り立つ応用魔法の1つなので、ちょっと難しいやつなんだけど……とりあえず成功したみたいでよかった。
鳥は風の力を纏って、高い木の頂点にフワッと難なく辿り着く。足を使って、カゴの取っ手部分を器用に掴むと、軽やかに私の元へと舞い戻ってきた。
「お手伝いしてくれて、ありがとう」
魔法で生み出した鳥に、私はお礼を伝えた。作り物の鳥だけど、やっぱり可愛いなぁ……と、思わず顔も緩む。
私の手のひらに乗った鳥は、魔法の発動時間が終わりを迎えると、キラキラと輝きながら消えていく。そうして私の手には、小さなカゴだけが残ったのだった。
「可愛いカゴね。アリス、中は何が入っているの?」
シェリに問いかけられ、私は指先でちょいちょいと、カゴの中身を確認する。中に入っていたのは、2つのアイテムだった。
「鍵の形をしたプレートだね。これが中間地点の証明って事なのかな……? それと、小さな紙が巻かれて入ってるね」
私は、紙を留めているリボンを解いて、クルクルと丸められた紙をめくった。
「えーっと、何々? 第5関門……この先で、指定された花を見つける事……?」
次の罠というか、ミッションがこれになるのか。紙には、小さな花が描かれている。更に、花の絵の横には【特徴:透明な花びらを持つ】と、説明が足されていた。
「透明な花びらの花……」
呟いた私の横から、ラウル君が紙を覗き込んだ。
「あ、これって確か、希少な花だったと思います。試験の為に、森にわざわざ植えたんですかね……」
生い茂った木々を抜けた先は、一面、花畑だった。様々な色や形をした花が、縦横無尽に咲いている。
「すごい! 圧巻ね……!」
シェリが驚きと嬉しさを滲ませながら、感想を洩らす。
「この中から、さっきの花を探すのか? 絵を見た感じ、花は小さそうだったし、莫大だな」
「探すにしても、制限時間に間に合うかが、ちょっと心配です……」
「それなら大丈夫よ。アリス、さっきの紙を貸してもらえるかしら?」
「ん? はい、どうぞ」
私はミレーユに、先程の花の絵が描かれた紙を手渡した。
「ありがとう。ここは私に任せて」
ミレーユは両手のひらに紙を乗せると、そのまま手のひらに魔力を纏い、言葉を紡いだ。
『願いを届けて 妖精の道標』
シャボン玉の様な形の光が、いくつか生み出されたかと思うと、フヨフヨと花畑を模索し始める。様子を見守っていると、少し経ったところで光の玉が、とある一点に集まった。
私達は、周りの花を踏まない様に注意しながら、花畑の中を進んでいく。光の玉が教えてくれた所には、白くて小さな花が咲いていた。
「これがその花? ん〜、確かに形は同じだけど……色が違くない?」と、ルネ様が不思議そうに見つめた。
「ルネ様、正解ですわ。この花で合っているけれど、正確には、まだ合っていないんです」
ミレーユは、しゃがんで花を指差したかと思うと、再び魔法を唱えた。
『滴れ 小雨雫』
発動した水魔法で、花に雫が落ちると、花びらが反応して透明になる。まるでガラスの花のように、見た目を変化させたのだった。
「なるほど。水に濡れる事で紙に描かれた本来の花の姿になるのか。ミレーユ、よく知ってたな」
「ふふ、ありがとうサラ」
ミレーユが、そう言って微笑むのとほぼ同時に、ポーンと音が流れた。
音の鳴る方を振り向くと、恐らく次の通路であろう箇所の、魔法のバリアが解除されたようだった。つまり、ミレーユの解答が正解という事で、次に進む許可が無事下りたのだろう。
よし、あと1つをクリアすればゴールだ……!
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




