第8話 (別視点)その後の男たち
ひとまずの謁見を終えて、アリス達は退出となり、ユーグとフォルトは政務室へ戻ってきた。政務室では、ユーグの側近であり補佐のエヴァン・ピアが雑務をこなしながら待っていた。ちなみにこのエヴァンも、ユーグとフォルトとは同い年で旧知の仲である。
「2人ともおかえり。謁見は無事終わったようだね?」
エヴァンは人の良さそうな優しい表情で2人を迎えた。落ち着いたこげ茶色の髪に緑色の目は優しい色合いで、人畜無害さを醸し出している。しかしながら現宰相のピア公爵の長男でもあり、次期宰相とも言われるほどの頭脳派で、見た目とは裏腹の切れ者なのだ。この3人が集うと、ご令嬢達の黄色い声が増すのは日常茶飯事である。
「そうだな。とりあえずシェリの光属性については仮定していた通り、王家からの正式発表。アリスティア嬢の4属性持ちは、本人の意向もあって3属性持ちに表面上することになった。ほんとアリスティア嬢って突然面白い事を言うよね? 普通の令嬢ならそんな高ステータスを手に入れたらさ、前面に出して目立ちたいと思うだろうけど、まさか隠したいなんて」
ユーグは思い出して、クスクスと笑った。
「へぇ、そうなんだ。貴族令嬢にしては珍しい分類じゃない? マーク侯爵家ってやっぱり変わってるなぁ。でもアリスティア嬢の身の安全を取るならそれも有りだねぇ。今のところ属性数について知ってるのは家族と王家、側近に神官長くらいだし、今ならまだ隠せるよ」
「……アリスティアは自分の安全より、シェリの心の負担を気にして、自分が側にいてサポートするんだと陛下に宣言してたぞ」
苦虫を噛み潰したような表情で、フォルトは事の顛末を話す。エヴァンはそれを聞いて目をまん丸くさせた。
「えっ!? アリスティア嬢って意外と男前だね!? 見た目小動物みたいな感じなのに」
きっとエヴァンの脳内には、小リスが浮かんだ事だろう。
「フォルト、お前も2人の事を頼むぞ。名目上は僕の側近騎士だけど、学園内ではそこに固執しなくてもいいから。僕にはエヴァンも影の護衛も付いてるし。まぁ、そもそも魔法で僕にかなうやつが学園にいるとは思えないけどね」
「言われなくとも。無論お前の護衛としても手は抜かないつもりだが。ユーグ、お前はシェリから目を離すなよ。今回の件で、シェリが婚約者候補から正式な婚約者に内定するのも、時間の問題だろう」
「シェリの事は任せて。全く……だとしたら氷の騎士は、一体誰を1番に守るつもりなんだろうね」
含み笑いをしたユーグをチラリと横目で見たが、フォルトはしれっと黙ったままを貫いていた。
「さてさて、それじゃ学園が始まる前に色々と準備をしておきますかね? お2人の可愛いご令嬢の為に」
エヴァンの提案にユーグが頷き、思案しながら話す。
「やっぱり同じ学年にも影とは別に、見える護衛がいた方がいいと思うんだが……男を近づけるのもちょっとなぁとも思うんだよな。でも背に腹は変えられないか……フォルト、誰か信頼できる優秀な騎士希望の子とか、噂で聞いた事ない?」
「……ナースズ辺境伯の長女は? 確か今回の検査で火属性のみの発現だったそうだが、魔力量が秀でていたとか」
エヴァンの脳内人物辞典がヒットしたようだ。
「ナースズ辺境伯の長女……あ〜、あそこの家ってたしか属性数とか気にしない実力主義で有名だよね。確か名前はサラ嬢だったかな? 女の子でも兄弟に混じって対等に剣を学んでるって聞いたし……相当の実力持ちなんじゃない?」
「それにこれは俺の勘だが、俺達が何も助言をしなくても、アリスティアはサラ嬢と友人になりそうな気がする。そしてシェリを守ろうと勧誘する気もする」
「え、フォルトそれほんと?」
エヴァンはその発言に驚いていたが、ユーグはピンときた様で、プハッと思わず吹き出した。
「そうか、アリスティア嬢もサラ嬢も普通の令嬢っぽくないからな。サポート役に徹する令嬢に、騎士を目指す令嬢か……シェリはいい友人に恵まれそうだな」
人の良いエヴァンも、この時ばかりは「ユーグもフォルトも無自覚に惚気ていやがるな」と思っているに違いなかった。
こうして男たちの会議は夜まで続いたのである。
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