第76話 深淵の森
今日から3日間に渡って、1年生は森での実技試験だ。とは言ってもクラス数も多い為、3日間全てが試験という訳ではない。
1日目がK.J.Iクラス、2日目がH.G.F.Eクラス、3日目がD.C.B.特Aクラス、というように日程が割り振られており、私達特Aクラスの試験は最終日の3日目なのだった。
つまり、クラスによっては既に実技試験を終え、私達最終日組とは入れ違いで、学園に戻っているのだ。終わり次第早く帰れるという点では、1日目の方がラッキーかもしれないなぁ。
でも何だか学園から離れて泊まりがけの課外授業って、ワクワクする。ちょっとした修学旅行気分を味わいつつある私なのだった。
試験前日の午後。私達は森の入口近くに建てられている、学園が保有する合宿施設に到着した。施設の玄関ホールには、部屋に荷物を置き終えた3日目の試験組のクラスが、続々と集まり始めていた。
尚、今日の予定は待ちに待ったチームメンバーの発表と、実技試験のルール説明。そして騎士団の魔獣討伐見学である。
メンバーは各クラスごとに紙で張り出されており、私はドキドキしつつも、えいっとチーム分けを見たのだった。
「……あれっ?」
そこには、シェリ、サラ、ミレーユ、ラウル君、ルネ様と私の、いつもの仲良しメンバーが、1つのチームになって書かれていた。
絶対バラバラになると思ってたのに……なぜに?
「アリス様っ、僕たち同じチームですよねっ……? 僕まさかそんな訳ないって、未だに疑ってるんですけど……」
ちょっと拍子抜けでポカンとしていると、横からラウル君に話しかけられて、私は、ハッとした。
「いや、ラウル君、私も。勿論嬉しいけど、いつものメンバーで固まっちゃってていいのかなぁ……?」
私達が困惑気味でチーム表を見つめていると、後ろから声が掛かった。
「お前ら6人はな、特Aクラス内でも能力がずば抜けている。そして更に、俺は致命的な問題に気がついた。お前らをバラバラにして他の奴らと混ぜると、逆にチームのパワーバランスが崩れるということにな」
うんうん、と1人頷くグレイ先生である。
「先生。つまり、バランスを考えて組んでいったら、私達が残ってしまった……という事ですか?」
いつのまにか近くにやってきたミレーユのストレートな質問に、先生はサッと目を逸らす。ミレーユの眼鏡がキラリと光ったような気がした。
あ、先生、さては図星なんだな……?
「まぁまぁ、ミレーユ。もし仮にそうだったとしても、私達にとっては嬉しいことじゃない」
「そうそう。いつもの面子なら、チームワークも心配いらないだろ?」
「ま、それもそうよね」
思いがけず助け舟となったシェリとサラの言葉に、ケロッと納得したミレーユなのだった。
「あれ~? 皆やっほ~、ちょうど集まってたんだねぇ。明日はよろしくぅ~」
手をヒラヒラさせながらルネ様も現れ、いつの間にやらチームメンバーが全員集合となったのだった。
ていうかこのチーム、私が言うのもなんですけどキャラ濃いな……?
「皆さん、そろそろオリエンテーションを始めます。チーム表を見終わった人は、クラス毎に整列を」
マルグリット先生の掛け声が聞こえ、私達は慌てて整列した。キチンと聞いておかないと、後々困るのは自分達ですもんね。
「明日は、9時から最初のチームが試験開始となります。昼休憩を1時間挟んで、終了予定時刻は17時。それから、チーム表は皆さんもう確認しましたね?」
先生は、私達を見渡して反応を確認した後、更に言葉を続けた。
「その表に順番も記載されていたと思いますが、試験のタイムスケジュールとして、20分毎に次のチームが時間差で出発するようになっています。又、各チーム制限時間は1時間と決まっていますので、時間をオーバーしないよう、気をつけるように」
はい、と一斉に返事をする私達。
マルグリット先生が横にはけると、次にグレイ先生が、私達の前に立った。
「俺からは、試験の基本ルールを説明するぞ。大きく分けて、3つだ」
グレイ先生は私達に向かって、指を3本立てて見せた。
「①、必ず防御魔法を自分自身にかけてから出発する事。保健医も来ているが、怪我のないよう各自注意しとけ。②、試験内容は至ってシンプルだ。事前に説明したと思うが、学園側が指定した試験用のルートを通って、中間地点で通行の証を手に入れ、ゴールに向かう事。③、ルート内には6箇所、学園側が仕掛けた罠がある。それをチームで協力し、魔法で回避する事。尚、1人1回は必ず魔法を使う事がこの試験の必須条件だ」
「その6箇所の地点には、教師、又は特Aクラスの上級生が、魔法チェックの為に貴方達からは見えない位置に待機しています。基本的に干渉しませんが、怪我でしたり何か緊急事態があれば、すぐに合図をするように」
マルグリット先生は、最後にそう付け足したのだった。
なるほど。誰がどんな魔法を使ったのか、チェックする試験監督が必要なのか。先生だけじゃ人が回らないから、上級生が借り出されているのかぁ……
「さて……ひとまず、説明はこんなところだな。まぁ口頭で伝えたところで、肝心の森の中に入ってみない事には、始まらないだろ。んじゃ、次はお待ちかねの魔獣討伐見学に行くぞ」
先生のその一声で、一気にホール内はガヤガヤと賑やかになった。
私たちは魔獣を直に見たことがあるから、きっとそれほどの衝撃はないだろうけれど……他の生徒達にとっては、教科書でしか知らない未知の生物と、初めての対面になる。
ましてや国境付近や、首都での魔獣出現も事件として起こったばかりだ。そりゃあ、いくら安全と言われていても、不安にもなりますよね……
ご令嬢の皆様、倒れちゃったりしないかな……と、ふとそんな心配が頭をよぎる私なのだった。
「アリス様……いよいよ魔獣を直に見る時が来ましたね。き、緊張しますっ……」
「……お、おぉう」
実は夏季休暇中に魔獣と対峙したんだ、と未だに暴露出来ていない私。ラウル君の言葉に、何とも煮え切らない返事をしたのだった。
王宮騎士を目指す男子学生達は「ついに騎士団の魔獣討伐が見れる!」と、別の意味でざわついていたようである。
サラもそうだけど、騎士志望の人達はさすがに熱量が違うよなぁ……
各々不安や緊張、高揚感に包まれながら、魔獣の生息する深淵の森へと足を踏み入れるのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




