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第75話 月夜に、ひとりごと

 



 私が保健室に入室すると、既に長ソファーで寛いでいたニャーさんが、よ、と軽く手を挙げた。


「なんでまた、ここ集合にしたんですか?」


「ここならニコラに防音石も借りられるっしょ? ソファーもあるし、話をするのにちょうどいい。まじ快適。ほれ、あーさんも座んな」


 チョイチョイと防音石をいじりながら、私にソファーを勧めるニャーさんである。


「ニコラ先生とは面識があったんですねぇ」


 私はニャーさんの向かい側のソファーに、ポスンと座った。



「そりゃあこんな我が物顔でソファーに座られて面識がなかったら、今頃職員室に不審者が出たって連絡してるわよ」


 お茶を運びながら、ニコラ先生は話を続けた。


「王族の間諜がいる事は、さすがに学園側としても周知してる事よぉ〜 他の教師も姿は見た事がないだろうけど、存在は知ってるはず。それにこのガキンチョ、隙あらば保健室のベッドに入り浸ってるし」


 ニャーさん、自由すぎます……


 ていうか私はともかくとして、シェリの護衛は是非とも真面目にやっていただきたいんですけど。


「あの、ニャーさん。ニコラ先生の前では姿を見せても大丈夫なのって、何か意味があったりします?」


「あーさんは、ニコラがユーグやフォルト達と昔から面識があるって知ってるんだろ? イコール、俺とも面識アリって事よ」


 私はなるほど、と頷いた。


「まぁわざわざ保健室まで来て、折り入って話したかったのは、舞踏会の終盤に近づいてきたあの女の事なんだけど」


「え? あの女って……ステファニー様ですか?」


「おぅ。体調悪そうだったじゃん? なのに何でわざわざ舞踏会に出向いたのかと、あーさんに変な事を吹き込んだのかが、ちと気になってよ」


「変な事って……別に先輩からの、気まぐれアドバイスってだけじゃないんですかね」



 う〜ん……とニャーさんは唸りながら、首を捻った。


「最初はそう思ったけどよ、ただのアドバイスにしてはヤケに意味深じゃね? まー、身体が弱いっつーのは、どうやら本当みたいだな。フィゾー家にも定期的に医師が問診に来てるし。それに、この家自体これといった問題のある派閥って感じではなさそうなんだよな。家族構成も、父、母、兄の4人で、家族仲も特段悪くなさそうでよぉ……」


「色んな角度からステファニー様を調査してるんですね。すごい。間諜っぽい」


「……ぽいじゃなくて、俺、間諜だからな?」


「まぁお貴族様は、表面上取り繕ってても、お腹の中では何考えてるか、分かったもんじゃないものねぇ。簡単には内情は分からないと思うわよ?」


 そう言うと、フゥ〜と紅茶を飲んで一息つくニコラ先生である。



「あーさんさ、あの時どんな会話してたかって覚えてるか?」


「えっと、ステファニー様は確か、舞踏会に来た理由は『どうしてもお会いしたい方がいて』って話してましたっけか……」


「会いたい奴?」


「はい。私がステファニー様は婚約者候補だしなと思って、殿下ですか?って尋ねたら『もう済んだので大丈夫です』って、首を横に振っていました」


 殿下に会えたのかな、それとも殿下じゃない人に会ったのかな……? どっちとも取れる感じだったとは思うけれど、それこそ殿下に聞けばすぐ分かる事かも。


「ふぅん、もう目的の人とは会った後だったのね。それじゃあ結局、誰に会っていたのかは分からないわねぇ」


「チッ、単純にユーグに会ってたのなら解決すんのに、ユーグじゃないとなると特定できねぇから謎が深まるだけじゃねぇか」


 確かに。自分の体調よりも、その人に会う事を優先したって事ですもんね。


 ……もしかして、禁断の恋でもしてるのかな、ステファニー様。


 ……いやいや、殿下の婚約者候補なのに、流石にそれはマズイか。



「……この子、こんなぽやぽやで大丈夫かしら……今更心配になってきたわ」


 私は脳内であれこれ考えてはセルフツッコミをしていたのだが、ニコラ先生は憐れんだ表情で私を見ながらそんな風にボヤいていたらしい。


 ニャーさんは、ハァ〜っと大きな溜息をついて、私をじっと見つめてきた。


「とりあえずだな、あーさん。森にいる間は、団体行動をしっかり取れよ? 1人で知らん所をフラフラしようもんなら、確実に迷子になるからな」


「そーよ? アタシも救護係で森には一緒に行くけど、怪我でもしたら大変なんだから」


「は、はぁい……気をつけます……?」


 向かい側に座る2人の、割と真剣な様子に圧倒されつつも、返事をする私なのだった。


 えぇ……そんなに私、頼りないかなぁ……迷子については否めませんけど。



「この子のチームメンバーって、誰なのかしら? 担任が上手い事組み合わせていればいいんだけど……」


 その点に関しては、グレイ先生のさじ加減(気まぐれ)なんですよ、ニコラ先生……




 ────────────────




 すっかり夜になり、夕食や入浴を済ませた私は、机に向かっていた。結局ニャーさんと会ってからは夕方まで保健室にいたので、寮に戻ってからやるつもりだった勉強を、寝る前に少しやっておこう。



 ふむ、と私は一考する。とりあえず私が出来る事といえば、試験を無事クリアする事と、森にいる間は気を抜かずにいる事……かな。


「となると、自分の使える魔法を確認しておくのと、出来たら新しいのも覚えておいた方がいい……よね」


 ペラペラと教科書をめくりながら、紡ぎ言葉や魔法古語が、間違えずに暗記出来ているかどうかを確認する。うん、大丈夫そう。


 今日は更にニャーさんから、火の攻撃魔法も教えてもらったので、攻撃系はもう充分だろう。攻撃魔法……なるべく使いたくないけれど、使わざるを得ない場面があるかもしれないから、仕方ない。


 そもそも私は、ちょっとした便利な魔法だったり、綺麗な効果のある魔法が好きなので、レパートリーはどちらかというと、そっち寄りなのだった。サラは私と真逆だろうな……



 ん〜、と軽く伸びをして、机の近くの窓のカーテンを少しだけ開けると、月明かりが差し込んできた。机上の灯石ランプの光だけだった部屋の中は、月の光でほんのりと明るくなる。



「今夜は満月かぁ……」


 机に肘をつきながら、私はボンヤリと思いを馳せる。


 無事に実技試験が終わりますように。



 私はそっと月を見上げて、心の中でそう祈ったのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)


次回から森での実技試験編、スタートです。

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