第7話 サポート役に回りたい
「出来る事ならば、4属性持ちという事はひとまず隠したいのですが……」
ふむ、と陛下は顎に手を当てて、こちらを見つめた。
「それは構わんのだが、隠しておくと学園で支障をきたさないか?」
「学園では3属性という事にして、水属性だけを隠そうかと思うのです。水魔法ならシェリと一緒に、個人的に勉強出来るかなとも勝手に思っていて……」
「なるほどな。それでアリスティア嬢の危険も減るならば、その方が得策か……」
「ありがとうございます。私自身も、目立つ事は得意ではないので、4属性持ちを隠せるのは有り難いことですし……」
私は、陛下の目を真っ直ぐ見つめて、続けてこう言った。
「私はシェリの側で、シェリの心を守る側に徹したいと思ったんです」
我ながら侯爵令嬢らしからぬ事を言っている自覚はあるし、情けない顔をしていると思うが、ここが正念場だ。
シェリは小さな頃からの大事な親友で、まだ殿下の婚約者候補といえど、もう決まったのも当然だと思う。そうなってくるとシェリは未来の王妃だ。私はシェリのような、心の澄んだ人を王妃に推薦したい。私の人を見る目は、間違っていないはず。
「突然希少な属性を発現して、もし自分がその立場だったらって考えたんです。私自身も4属性持ちという事が分かってから、シェリに相談して気持ちを共有してもらえた事で、すごくホッとしました。だから、側に気を許せる人がいて、気兼ねなく相談したり、弱音を吐いたりできたら、少しは気が休まるかなって思ったんです」
そこまで一気に話すと、私はふぅ、と息を吐いた。
「……それに、どうしても必要に迫られた時には、水魔法を切り札として使えるように、きちんと勉強も頑張ります。私が水魔法を使えないはずなのに突然使えたら、ビックリして敵の足止め位にはなるかなって思うので……」
何だかんだと理由をつけてはいるけれど、とにかく私は意図せず特殊属性を持つ事になってしまった、親友の身が心配なだけなのだ。
ならいつも一緒にいる私が、切り札を持っていた方がいいはず。
まぁ3属性持ちってだけでも、充分牽制にはなると思うけどなぁ……
それ以前に使いこなせるか分かりませんけれどね、と困ったように笑う私を、皆は驚いた顔をして見ていた。
「アリス……! 貴方の安全の為に属性を隠すのは賛成だけれど、私を守るなんて……」
私は青ざめた表情のシェリに向かって、フルフルと首を横に振る。
「そんなに深刻そうにしないで? シェリは知ってるでしょう、私が運動音痴だって事。本当に危ない時は魔法習いたての私なんて役に立てないんだから、護衛の方に守ってもらいたい所存です! でも学園内で私がシェリの側にいる事は、誰も不思議がらないでしょう? だから、私はシェリの心をサポートしたいって思ったの。私は無条件でシェリと一緒に学園生活が送れるし、いい事しかないよ?」
だから、何でも相談してね!とシェリに笑顔を向ける。
シェリは泣きそうな、困ってるけれど嬉しいような……そんな複雑な表情をしていた。
「アアアリスゥゥゥ!!! 父様は感動したぞぉぉぉ!!!」
「んぐぇ」
父様、涙流しながらアタックしてこないでください。抱きしめられて苦しひ。
「でもね、父様はアリスの身が1番心配だから。アリスのその心構えは素晴らしいけれど、きちんとシェリーナ嬢と一緒に、優秀な王宮の護衛に守って貰いなさい。間違っても危ない事はしちゃダメだよ? 昔からアリスはふいに突拍子もない事をするから」
ねっ? といい笑顔で問いかける父様に、陛下は苦笑いである。
「アリスティア嬢、お主のその心意気はよく理解した。友の為に魔法を学ぶ事を頑張るのも、自身の成長にきっと繋がる事だろう。だが、無理は禁物だぞ?」
「はいっ!」
モソモソと父様の腕からひょっこり顔を出し、パァッと笑顔で返事をした。その後ようやく父様から離脱できた。ふぅ。
私にとっては、自分の為より大事な人の為だと思えば、頑張る意欲も更に湧いてくるものだ。うむ、魔法の勉強も頑張りますとも!
「シェリちゃん、アリスちゃん」
王妃のオルガ様とはお茶会仲間なので、とてもフレンドリーである。ちなみに私たちの母様とも仲が良い。
「2人とも、突然不安な事が増えて大変よね。何かあればすぐに相談してちょうだい。ユーグも、2人の事は学園でキチンと気にかけてあげてね?」
「勿論です。学年が違うのが少し辛いところですが、なるべく側にいれるように努力します」
そう言って微笑む美形殿下のキラキラ王子様スマイルは、凄まじい攻撃力である。まぁシェリに対してはいつも150%の大盤振る舞いなのだが。
殿下は毛先にほんの少しくせのある猫っ毛の黒髪に輝く金目は陛下と全く同じ色を持っていて、王家の遺伝を感じさせる。王子様スマイルは基本作り物なのだが、大半のご令嬢はそれに当てられてポーッとしてしまうのだがら、殿下は人たらしだ。尚且つ、それを分かってやっているのだから、私はあざとい王子様だと内心思っている。
よもや、これが言わんやロールキャベツ男子なのだろうか。