第69話 貴方の瞳は、藍色
声のする方向を振り返ると、白い王宮魔法騎士服に身を包んだフォルト様が、すぐそこまでやって来ていた。
夜会というか行事の警備スタイルだからか、普段の騎士服とはデザインも違い、服にも少し装飾が施されている。い、いつにも増してかっこいいな……
「こんばんは、お疲れ様で……」
「キャッ、フォルト様っ!? お姿をお見かけしないと思っていたんですのよっ? お仕事をされてらして?」
私の言葉に被せながら、レベッカ様がこちらにズカズカとやって来た。その勢いに圧倒されていた私を、スッとさりげなく、フォルト様が後ろに庇ってくれる。
「……貴方に名前で呼ばれる事を、許可した覚えはないが」
フォルト様は、氷の眼差しでレベッカ様を一瞥すると、一言だけ発した。
ひぃっ……レベッカ様の問いかけをフルで無視して、尚且つ火に油を注いでいる……!
「わぁ〜、氷の騎士様なのに、水じゃなくて油注いでるね〜」
私の斜め後ろで、呑気に爆弾発言をかますルネ様である。私ですら心の中に留めていたのに、口に出すなんて強者だな……!
「……っ! 嫌ですわ、そんなつれない事おっしゃらないで? それより、今夜のドレスは青にしましたの。どうかしら……」
レベッカ様は、チラチラと上目遣いでフォルト様を見ながら、これ見よがしにドレスをたなびかせる。
「あ、なるほど。だから今日は青のドレスだったんだ」
レベッカ様の言わんとする事は、恐らくフォルト様の瞳の色にドレスを合わせたんですよ、ということだろう。
「この子、殿下と氷の騎士様を同時進行で狙ってるって事? 二兎追うものは一兎も得ずって話知らないの?」
うぇぇ、俺そんな無謀な事しなーい……と、ルネ様は顔をしかめる。
「そこまではどうだろう……? でも今まで赤のドレスばっかり着てたって噂だから、見た目が変わっていいんじゃない? ほら、イメチェン的な」
「そーお? 俺的には赤でも青でも、あんまりこの子の印象変わんないよ? アリスちゃん」
「ルネ様はさっきから、公爵令嬢に対する言葉じゃなくなってきてるよ……!?」
不敬罪に注意ですよ……と思いながら、ルネ様をたしなめる。
「え〜爵位でいったら俺、あの子と対等なのにぃ〜」
「……!?」
こんなところで、初耳な情報をサラッと告げるルネ様を、私は目をまんまるくしながら凝視した。な、なんだって!?
「え、ちょ、ってことはルネ様って、帝国の公爵家の人なのっ!? 全然気にしてなかった……もう少し早くに教えてよ……」
「いやいや、クラスの人は皆、普通に知ってると思うけど? アリスちゃん程、人の爵位を気にしない人って、この貴族世界で中々いないよねぇ」
ぐぅ……そう言われると何とも言えない私である。何ならミレーユの爵位だって、キチンと覚えてない……かもしれない。
フォルト様を盾にして、後ろでコソコソと、なんだかんだ言いたい事を話す私たちであった。
ふむ、と私は気を取り直して、フォルト様の背中からちょこっとだけ顔を覗かせると、レベッカ様のドレスの色をもう一度眺めた。
鮮やかで綺麗な青色。……でも何か、しっくり来ないんだよなぁ。
「フォルト様の瞳の色は、ただの青色じゃなくて、もっと透き通った藍色だと思う……」
ポツリと呟くと、ギロッとレベッカ様が私を見据える。わー、地獄耳ですねー!?
「あらあら? 青色にしなかったのを今更後悔なさっていらっしゃるの? マークさんのドレスは、よくあるラベンダー色ですものねぇ」
ウフフ、と口元に手を添えて、意地悪く笑うレベッカ様である。
なるほど、この前私にドレスの色を聞いてきたのは、私が青色を取らないように牽制しようとしてたのか。ようやく納得がいきました。
「確かに、フォルト様みたいな藍色もいいですよね。でも私、これはシェリの瞳の色にそっくりで綺麗だから、すごく気に入ってるんです」
今回のドレスは本当にお気に入りなので、これは私の本心だ。えへ、とレベッカ様に向かって微笑んだ。
フォルト様は、すぐ後ろにいた私を視線に捉えると、私のドレスを見つめて、ふぅんと呟く。
「このドレス、シェリとデザインもお揃いなんだろう? よく似合ってる」
「ありがとうございます。シェリはピンク色でいつもと違う雰囲気なんですけど、すっごく可愛いんですよ!」
私達の会話を、引き攣った笑みを浮かべたまま聞いていたレベッカ様に、フォルト様はこう切り出した。
「先程の会話は何となく聞こえていたが、そんなにアリスティアのダンスの腕前が気になるなら、そこで見てるといい」
クイッと手を引かれ、その反動で足が前に進む。自然と私がフォルト様の横に立つと、フォルト様は私の腰に手を添えた。
「ほぇっ?」
な、何が起きているんだ……!?
腰、というかこんなの、恋人の距離感になっちゃうんじゃないですかね……!?
私は慌てながらも、ちょっと距離を取らねば、と思い腰を引こうとした。が、フォルト様にホールドされて、そのままの距離感で見下ろされる。ぴぇっと思わず固まる私。
「……俺と踊るのは不満か?」
「い、いいえっ!? 滅相もないです! 喜んで!」
「よし、いくぞ」
ちょうど曲が終わったところで、入れ替わりのタイミングになったのを確認し、フォルト様は私の腰を抱いたまま、ダンスホールにエスコートしたのだった。
尚、私はその間、澄ました顔を取り繕っていたが、内心はドキドキである。
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「どうした?」
「す、すみません。エヴァン様と踊った時より、なんだか緊張しちゃって」
ダンスホールに立っていざ踊り始めたが、いつもより自分の心臓の音がうるさい。さっき踊った時とは比べ物にならないくらい、緊張しているのが自分でもよく分かった。
そんな私を見つめて、ふ、と小さく笑うと、グイッと私の手を引いて、曲に合わせて突然ターンさせた。フワッとドレスが花のように舞う。
「わ、わ!? フォルト様っ? ビックリしたんですけどっ……」
私はムムッとフォルト様を恨めしげに見上げて、小声で呟く。
「驚けば、少しは緊張も解けるだろ? アリスティアらしく、いつも通りでいいんだ。夜会なんて煩わしいと思っていたが……お前と踊れるなら、夜会の参加も悪くない」
そう言って、フォルト様は藍色の瞳を細めて、優しく微笑んだ。
尚、私の後ろで、レアなフォルト様の微笑みを直視したご令嬢達が、次々と気を失っていたようである。
「っ、はい! 私もフォルト様と踊れて楽しいですっ」
フォルト様の言葉と微笑みにつられて、私はパァッと笑顔になった。
そうだよね、折角なら楽しまなきゃ損だ。
「そうだ、ダンスが終わったら、フォルト様もご飯食べましょう? オススメを紹介します!」
「アリスティアのオススメなら間違いなさそうだな」
緊張はほぐれたけれど、よく分からない胸の高鳴りは残したまま、私はフォルト様と楽しい時間を過ごすのだった。
「なるほどなぁ。氷の騎士様の氷を溶かすのは、花の妖精だったんだなぁ……」
「氷の騎士様の微笑みなんて、何年ぶりに見たか分からないわ……舞踏会に参加してよかった……」
そう思い思いに呟きながら、私達の仲睦まじい様子を見た人々は、惚れ惚れとダンスに見入っていたのであった。
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2月の投稿曜日について、小説情報にて記載させていただきました。活動報告にも記事をあげておりますので、よろしくお願いいたします(*´꒳`*)




