第67話 舞踏会の妖精
「あれ?」
私は瞬きをして、入場してきたシェリのドレスを見返した。
「え……? このドレスって、シェリと色違いっ!?」
シェリのドレスは、ほとんど私と同じデザインで、色がほんのりと赤みのあるピンク色だった。よくよく考えたら、私がラベンダーでシェリがピンクって、お互いの目の色じゃないか。
「いいわねぇ〜シェリちゃんも結局ピンクにしたのね。アリスとちょうど対になっている感じが、尚更可愛いわ〜」
そう母様が呑気に話している横で、私は何とかご令嬢スマイルを保ちつつも、心の中は早くシェリと話したい気持ちでいっぱいなのだった。
招待された貴族全員の入場も済み、陛下のご挨拶をもって、舞踏会は無事開幕した。
尚、この舞踏会を開催するにあたり、首都魔獣出現の一件も加味されていて、今まで以上に王宮警備は手厚くなっているそうだ。魔法師の方も来ているとの話もあり、さすが王宮である。
「アリス!」
シェリがニコニコとしながら、こちらに歩いてきた。
「シェリ! ドレスの事知ってたの? 私、何にも知らなくて、すごいビックリしたんだけど」
「もう。アリスったら、普段からドレスの事は全然気にしないものね。私は母様から聞いていたわよ?」
どうやら母様とナディアナ様(シェリの母様)が、同じタイミングでドレスを作るなら、お揃いのデザインにしようと提案し始めたらしい。母様とデイジーの意味深な発言が、ようやく腑に落ちた私なのだった。
「ね、でも色はピンクでよかったの? 殿下の色を入れた方がよかったんじゃない?」
私はコソコソとシェリに小声で問い掛けた。
「私はいいのよ。この色、アリスの瞳の色にそっくりでしょう? 今まであんまり試した事のない色だったけれど、すごく気に入ってるの。それに……今日はあの方もいらしてるし、なるべく火種は撒きたくなくて」
「おぅ……」
あの方ってレベッカ様の事だよね。
もう1人の婚約者候補の方は病弱との噂で、あまりお見かけしない方だしね……
そんな話をしている内に、ダンス用の音楽が流れ始め、会場の中心となっているダンスホールに少しずつ人が集まり始めた。
「こんばんは、シェリ、アリスティア嬢」
夏仕様の正装に身を包んだ殿下とエヴァン様が、私たちの所へ歩み寄ってきた。私とシェリはお辞儀をして、挨拶を返す。
「こうして2人が並んでいると、本当に花の妖精みたいだねぇ。フォルトも早く見たがってると思うよ」
エヴァン様はそう言いながら、感心したように私たちの格好を眺めた。
「そういえばフォルト様って、今日は殿下のお側にいらっしゃらないんですね?」
「王宮警備が増えたという話をさっきしたろう? その関係で、ちょくちょく現場に駆り出されちゃってね。交代制だから、また後で会場に戻って来たら、その時には会えると思うが……」と、私の疑問に殿下が答えてくれた。
なるほど、フォルト様も大変だなぁ……せめて美味しい料理をチェックしておいて、戻って来た時にオススメしてあげよう。
私がビュッフェを見つめながら、そんな事を考えている内に、殿下はやっぱり最初のダンスのパートナーにシェリを選んだ様子であった。
それは勿論、当然の流れだとは思うけれど、そんな2人の様子を見て、レベッカ様はどんな表情をしてるんだろうか……そう考えると、恐ろしくて顔を見れない私である。
「火種はたしかに撒きたくないだろうけど、シェリの場合は火そのもの(殿下)が自らやってくるからなぁ……」
殿下にエスコートされて、ダンスホールへ向かうシェリに笑顔で手を振り、私はそう小さく呟いたのだった。
2人を見送ったあと、周りから何となくチラチラと視線を感じる。何なら隣にいるエヴァン様からも、遠慮がちな視線を感じるのだ。
あ、分かります、分かりますとも。
お前は踊らないのか、何なら踊れるのかって事ですよね?
実際のところ、舞踏会といえど必ずしも全員が踊らなくてはいけない、というルールはない。基本的には男性の方から女性を誘い、OKを貰ったらダンスへ、という流れになるのである。
今までの私はというと、誘われる前にそそくさと帰っていたのがほとんどで。誘われても何かと理由をつけて、お断りしてたんだよね。
そんな事を繰り返していたら、そりゃ私のダンスの腕前なんて、誰も知らないに等しいだろうなぁ……もしかしたら、どうしようもない位に下手だと思われている可能性大だ。
「……えーと、エヴァン様? 私のダンスについて既に変な噂があるかもしれませんが、私、人並みには踊れます。大丈夫です。滅多なことがない限り、足は踏みません」
私が真顔でそう説明すると、エヴァン様はブフッと軽く吹き出した。
「……っ失礼しました。では本日は、ダンスにお誘いしても?」
そう言って、おどけながらエヴァン様が手を差し出してきた。私も今年で15歳だし、この世界では大人の仲間入りだ。子どもだからという理由はもう通用しないだろうしね。
「はい、よろしくお願いいたします」
差し出してくれた手を取って、それまでの脳内葛藤は何処へやら、なんて事はないかのように、私はダンスホールに立ったのだった。
ゆったりとした曲調のワルツが始まった。エヴァン様のリードに身を委ねて、私はふわりふわりとドレスの裾を揺らす。ターンの時は足取りを軽く、舞うように心がける。
1つ1つの所作を丁寧に、柔らかく行うのが私のダンスのモットーだ。ガチガチにポーズを決めるより、自然体が1番だと思うから。
会場内では、至るところからほぅ……と感嘆のため息が漏れる。
私はご令嬢の微笑みを崩す事なく、ターンをする。殿下とシェリのダンスに華を添えられたら、今日のダンスミッションは、クリアといっても過言ではない……!
……驚くことなかれ。方向音痴で鈍臭い私だけど、ダンスはそこそこ得意分野なのである。
まぁ、段々疲れてくると元々の鈍臭さが出てくるという問題点が、実はあるのだけども。なので終盤では足を踏み外さないように注意が必要なのは、ここだけの話である。
曲が緩やかに終わりを迎え、私とエヴァン様は、お互いに向かい合ってお辞儀をする。
周囲からは、溢れんばかりの拍手が鳴り響いた。やっぱり殿下やエヴァン様、シェリが踊ると、会場は盛り上がるよね、と1人頷く私である。
「アリスティア嬢は、これからキチンと毎回夜会で踊った方がいいと思うよ? 皆の目の保養の為にもね」
エヴァン様は周囲をチラッと見回すと、困った様に笑いながらそう話したのだった。
「えと……? これから精進します……?」
「あ、でもフォルトが来るまでは、上手く断っておいた方がいいかも。ていうか、フォルトを差し置いてアリスティア嬢と踊っちゃった僕、大丈夫かな……」
「? じゃあ私は、ひとまず戻ってくるフォルト様を待ちつつ、ビュッフェに勤しんできますっ」
私はエヴァン様のアドバイスに疑問を浮かべつつも、返事をしたのだった。
とりあえず……王宮ビュッフェ、楽しみだ……!
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




