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第66話 変身

 



「久しぶりの舞踏会……腕がなりますっ……!」


「デイジー? 控えめでいいの、控えめで。謙虚に。私、あわよくば壁の花になりたいんだから」


 そう告げると、ジトーと恨めしい顔で見つめられる。な、なにさ……


「アリスお嬢様が壁の花になってしまったら、逆に目立って仕方ないと思うんですけれど……」


「うぐ……」


 そう言われると辛い。私もなんだかんだ、腐っても候爵令嬢なもので。ささっと帰るにしても、挨拶回りとか、やるべき事はやらないとな。久しぶりのご令嬢スタイル、キチンと出来るんだろうか……


 あれこれ考えている私をよそに、パンッと手を叩き、デイジーが他のメイドにも声をかける。


「さっ! 時間がないので、そろそろお嬢様を磨き上げますよ!」


「「「はいっ!!!」」」


「ひょわぁぁぁぁ…………」


 あれよあれよという間に、バスルームへ連行された私なのであった。




 ────────────────




 身体中磨き上げられた私は、既に満身創痍でございます……


 そこに追い討ちをかけるかの如く、コルセットでウエストを絞られて、もう瀕死状態である。


「デ、デイジー。あんまり締めすぎないでね? 私、舞踏会のビュッフェを楽しみに、乗り切ろうと思ってるからっ、こ、これだけは譲れないっ……!」


 そんな切実な私の訴えに、ちょっと不服そうな顔をしたデイジーであったが、少しだけコルセットを緩めてくれた。



 今年の夏のドレスは、話に聞いていた通り、淡いラベンダー色の涼しげな装いだった。


 袖のないタイプだが、薄いレース編みとシフォンを組み合わせたドレスとセットになっている手袋が、二の腕の半分程までを隠している。手袋は薄手なので、全然暑くないのだから驚きだ。ドレス自体はシンプルなAラインの形で、胸元から腹部まで、同系色の小花のモチーフが沢山付いている。


 ドレスの裾には、小さなスワロフスキーを沢山ちりばめて、縫いとめられており、私がその場でクルクル回ると、光の加減でキラキラと光って見えた。


 おぉ、派手すぎず、かつ可愛くて落ち着いた感じのデザインだ。私も思わず、自然と顔が綻ぶ。


「今回はデイジーがドレスの色を決めてくれたんだよね。可愛いのを選んでくれてありがとう」


「奥様と戦った甲斐がありました……! とてもよくお似合いです」


 毎回毎回、戦をしなくてもいいと思うのだけどね? 母様は自分のドレスに力を入れればいいのに……と、何とも言えない表情にもなるものである。



「そうだ。ねぇねぇ、レベッカ様のドレスの色の情報って、今回入ってきてる?」


「ルグダン公爵家のレベッカ様ですか? あの方はいつも赤を好まれてるご様子でしたけれど……」


 デイジーは頬に手を当てて、思い返しながらそう話す。


「そっか。じゃあ今回も赤なのかな?」


「えぇ、恐らくはそうかなと……ただ、あの方は殿下の婚約者候補でもありますから、どこかに殿下のお色を入れてくるかもしれませんね」


 ほうほう、殿下の色となると髪の色の黒か、瞳の色の金か。黒のドレスはちょっと難しいから、差し色として持ってくる感じかなぁ……


「さ、アリスお嬢様。髪を結いますよ」


「はーい。……あ、シェリにどんなドレスにしたのか聞くの、すっかり忘れてた」


 鏡台の前に座った私がそう思い出して呟くと、鏡越しで見たデイジーは、何故か満面の笑みであった。思わずビクッとなる私。


「ウフフフフ。それはそれは、王宮に行ったらのお楽しみですね。ウフフ……」


「こ、怖いんですけど……?」


 何だろう、その含みのある微笑み……




 ────────────────




 今日の舞踏会は王宮主催、尚且つ行事という名目で、家族総出で参加する事になっている。


 なので、母様のエスコートは父様。私のエスコートはクリス兄様がしてくれているのだ。


 爵位の低い順に入場なので、マーク侯爵家は後ろから数えた方が早い。つまりは名前を呼ばれるまで、少し時間があるので、馬車で待機しているのだった。


「さて、そろそろ侯爵家の入場が始まるから、皆行くぞ」


 よーし、ご令嬢モード頑張りますか……!


 私はそんな意気込みを顔には出さずに、スッと姿勢を正して、軽く微笑みを作って馬車を降りたのだった。



 私達一家が王宮の会場内に入場すると、一気に周囲からザワっと声が上がり、沢山の視線を感じる。


「おぉ……見ろよ、マーク侯爵家だ」


「ここの家も迫力があるよな。美形揃いだし」


「まぁ、アリスティア様もご参加されるって本当だったのね」


「今日のアリスティア様のドレスを見て? 妖精みたいに可愛らしいわ……! マーク侯爵家の宝と言われているだけの事があるわよね」


 会場内では、そんな言葉がヒソヒソと交わされていて、ちょっと照れる。ご令嬢モードに集中している私は聞こえていないフリをするのだけども。


 王家の方々への挨拶が済み、私達一家は会場内の空いている歓談ブースにひとまず落ち着く。



「くっ……皆さんの反応を見る限り、アリスのドレスはやっぱりこの色で正解だったかもしれないわ……」


 母様は前を向きながら、微笑んだ表情を変える事なく、声だけは悔しそうに小声で呟いた。


 ……すごい技ですね、母様。


「そ、そうかな? まぁこのドレスは確かに可愛いけど……」


 私は小首を傾げて、ドレスの裾をふんわりと揺らす。


「そうよぉ。それに、もうそろそろシェリちゃんの入場じゃない? は〜楽しみね〜」


「母様もデイジーも、何か意味深な発言するよね? シェリが一体どうしたの……」



 そう私が呟いた時、会場案内の騎士様の「カルセルク公爵家のご入場です」と、いう声が響いたのだった。


 

いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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