第65話 魔法薬学 夏の特別編
「よーし、頑張ってやってみますっ!」
重たい雰囲気の(先生の周りだけである)研究室を一掃するかのように、ラウル君は声高らかに、笑顔で宣言した。
私も髪の毛が邪魔にならないように簡単にポニーテールにして気合いを入れる。
まずは、ハーブを精油にする作業だ。
水蒸気蒸留法でやるとなると、ハーブが沢山必要になるので、今回は漬け込み式にしよう。乾燥させたハーブや花を、植物油と一緒に熱した後、半日〜1日程漬け込んでおく方法である。
漬け込み式は、普通にやると時間がかかってしまうというデメリットがあるが、そこは魔法の出番だ。
上手に自分の属性魔法を使って時間を短縮させ、通常通りの性能のある物を作るのが、今回の試験のポイントでもあるのです。
自分が持っていない属性の魔法が必要になる箇所は、学園の魔法石を利用する。それもレポートの作成手順のところで、記載漏れしないように気をつけないとなんだよなぁ……
それと私の場合は、うっかり水魔法を発動させないように、細心の注意を払おう。そうしよう。
私はさっと洗ったカモミールとベルガモットの水分をなるべく拭きとり、小さくカットする。それらを布を敷いた台の上に、それぞれ重ならないように並べた。乾燥はハーブたちの水分を、程良いところで止めないとな……形状を保てないほど乾燥させてしまうのはNGだ。
『優しく包んで 速乾花』
風魔法でただ風を起こしても、ハーブが飛んでいってしまうので、ハーブのみに対象を絞って乾燥の魔法をかけた。
ふむ……このくらいの魔力なら、カモミールは1回の魔法で充分そうかな?
「メモメモっと……」
結果は忘れずに記録しておかないとね……!
私はその後、ベルガモットにも同様に乾燥の魔法を掛けて、油とともにコトコト熱する段階へ進んだ。
ここでも魔法の出番である。本来なら1時間程グツグツさせないとなのだが、次は火魔法を使う。
『時間短縮 弱火に保って』
「ちょっと煮込みが足りてないかな?」
もう一度魔法をかけたら、ちょうどよくなった。それをそのままビンに移したら、蓋をしてっと……
「先生、煮込み作業まで終わりましたっ!」
「僕も練り込むところまで終わりました〜!」
どれどれ、と先生が私たちの手元を覗き込む。
「2人とも手際がいいですね。じゃあこの保管庫に入れて、製品を寝かせて安定させましょう。マークさんのは、ハーブ精油が完成したら、あとは溶かした蝋に混ぜて完成ですね。ポトリー君は保管庫から出したら、専用の缶に入れて封をすればおしまいです」
私のは本来なら半日程漬け込み時間がかかるのだが、この学園には、ハイテクな魔法石の実験器具が本当に多い。この保管庫に入れると時間経過がとても早く、発酵させるのにも便利なのだ。
「休暇中は何してた?」
使わない容器などを洗って片付けながら、私はラウル君に問いかけた。
「僕は大方、家の手伝いをしてました。あとは課題も出来るところまでは、進めておいたりですかね?」
「えぇぇ……偉すぎる。ラウル君って意外としっかり者だよね……」
「えへへ。アリス様は何して過ごされてたんですか?」
「サラとミレーユと一緒に、シェリの家にお泊まりに行ったり、首都を案内してたんだけど、その時ま……」
そう言いかけて、ピタッと止まる私。
……皆で魔獣を捕獲した件を、ラウル君に話してもいいのか……?
ハテナマークを浮かべているラウル君をチラッと見て、私は言いかけた言葉を飲み込んだ。ていうか、ローラン先生もいらっしゃるし、どのみち今は無理か……
ごめんよ、ラウル君。シェリ達にも話していいか聞いてから、きちんと報告するね……
「ま、魔法石に追々出来たらいいなって話になって、お揃いで天然石の付いたバレッタを買ったんだっ」
「わ〜! それ素敵ですね!」
よしよし、上手くかわせたぞ……
そもそもこの情報を知ったところで、いい事なんて今のところ何もないしね。危険な事件に、迂闊に友達を巻き込んじゃいかんのです。言うて、もうシェリたちは巻き込まれてますけど、まぁそれは私のせいではないしな……
「そういえば貴族の方って、長期休暇の際は、何かイベントみたいな事をされてるんですか?」
「んー、お茶会とか夜会とか、色んな家で開いてるよ。好きな人が自由に開催してる感じかなぁ。それと、もう少しすると王宮で、恒例行事の夏の舞踏会があるんだ」
そう話しながら私は、先日のレベッカ様とのあれこれを思い出した。
「あちゃー……レベッカ様にドレスの色、伺っとけばよかったか……」
「え? ドレスの色にも、何か決まりがあるんですか?」
「まずは主催の方と色が被るのはダメだねぇ。あと高位貴族の方、えっと……位でいうと公爵家ね? そこと被るのもちょっと怖いかも。公爵家と被っちゃダメっていうルールはないんだけど、暗黙のルールみたいなところがあるの」と、私はドレスの色問題について話す。
「はわぁ……聞いてるだけでも大変そうです……」
「色だって限りがあるんだから、私はデザインが違うなら、別に被っても全然気にならないと思うんだけど……」
全く貴族女性社会というものは、恐ろしいものだ。フゥ、と溜め息も思わず漏れる。
「アリス様みたいな考えを持つ人が増えるといいですね!」
うん、私みたいなゆるふわ頭脳が増えると、ドレスの事とか考えなさすぎて、逆に問題になるから要注意だけどね……!
15分程で完成した精油を、保管庫から取り出し、溶かした蝋の中に数滴垂らす。飾り用に少し残しておいたカモミールの花と、ベルガモットの果実の皮と葉を蝋の中に一緒に入れて、火をつける箇所になる芯の部分を固定させる。あとは魔法石を使用して、冷却させればアロマキャンドルの完成だ。
ラウル君も塗布薬を詰めた缶に封をして、無事完成したようだった。
「うん、2人とも成分的にも問題なさそうですね。作った物は、是非持ち帰って使ってみてください」
お疲れ様でした、と先生が労いの言葉をかけてくれる。
「「ありがとうございました!」」
夏の魔法薬学特別編は、これにて終了となったのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




