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第63話 THE 御令嬢

 



 殿下の執務室から退室した私は、テクテクと王宮の来客フロアに移動し、客室に向かって歩いていた。


 その時、何となく見た事のある令嬢の姿が、向かい側から歩いてくるのが視界に入った。側には王宮騎士様を2人従えて、自分の家かのように王宮内を堂々と歩いている。


 ちなみに私は殿下の執務室からの帰りだったので、特にどなたも連れていない。フォルト様はそのまま殿下とエヴァン様に捕まり、執務の手伝いをする事になったのである。



 令嬢も私と目が合い、ようやく気づいたようだった。


「あら、マークさんじゃない」



 あぁ……まさかこの方に、こんな所でバッタリ会うとは。


 私に声を掛けてきたのは、殿下の婚約者候補の1人であるレベッカ・ルグダン公爵令嬢だ。金髪で毛先を縦ロール巻きにした髪型に、強めのつり目美人で、THE 令嬢といった感じである。


 でもこの方、殿下の婚約者候補だけど、フォルト様にも割とグイグイアピールしてるのを学園でも見かけた事があるんだよね。イケメンに目がないのかなぁ……


「レベッカ様、ご機嫌よう」


 私は貴族社会に下克上をしている訳ではないので、郷に入れば郷に従え、ということでペコリと淑女の礼をする。


「ご機嫌よう。(わたくし)、先程まで殿下と2人きりのお茶会でしたの。貴方は王宮に何しにいらして?」



 会って早々に、殿下と仲良しアピールをされるとは。私は思わず目が点になった。


 ……あれ?


 という事は、殿下のメンタル削ったのってもしかしてレベッカ様だったりするのか……?


 でも中々鋭い所を突いてくるなぁ。まぁ、事情を知らない人から何か聞かれたらこう答えるようにと、もう予習済みなのだけども。


「父に急な用事がありまして、たまたま来ていました」


 そう言って、愛想笑いで誤魔化す私である。


 何日も泊まってるなんて、私が殿下と何かある訳ではないけど口が裂けても言えない。シェリが帰り際に言わんとしていた事が、身に染みて分かった気がする。



 ふぅん、といった表情のレベッカ様に、ジロジロと上から下まで見定められる。


「噂で聞きましたけれど、今度の夏の王宮舞踏会に参加されるんですって? あんまり社交界でお見かけしませんけれど、ダンスは踊れるのかしら?」


「あぁ、そうですねぇ……」


 これまであんまり社交の場に進んで出る事はなかったから、レベッカ様が(皮肉だろうけど)そう聞いてくるのもまぁ分かる。


 前世の記憶を思い出す前から、もう庶民的な性格は形成されていたんだなぁ……としみじみ思った私なのだった。


「まぁ、大丈夫……だと思いたいです」


 そもそも絶対出なきゃいけない夜会は、参加してもすぐ帰っていたから、あんまり目撃されていないのだろう。それにダンスなんて、最後に人前で踊ったのは、いつだったっけ……


 でも何で私が参加する事が噂になっているんだろうか。


 むしろレベッカ様のそっちの発言に気を取られた私は、小首を傾げてフワッと曖昧に答えたのだった。



「……? マークさん、ちなみに貴方何色のドレスを着る予定でして?」


「えーっと、何色かはちょっと覚えてないですね……」


「は?」


 言いたくないとかじゃなくて、本気で覚えてないんだよね。何パターンか試着したけれど、結局何色のやつにしたんだろう? 母様とデイジーの議論が白熱してた事だけは覚えてるけれども……


 私の気の抜けた返事に嫌気がさしたのか、嫌味を言うのに疲れたのだろうか。レベッカ様はこれ見よがしに溜め息をついた。


「ま、何かあって恥をかくのは貴方ですから、別に構いませんけれど」


 そう決め台詞を言うと、ツンッとして去って行ったのだった。


 騎士様は申し訳なさそうな表情で、私に礼をとってから、レベッカ様の後をついて行かれた。



 ポツンと廊下で(たたず)む私、いとシュールなりけり。


 うぅん……レベッカ様も見た目は美人なんだけど、こう、シェリとは根本が違うんだよなぁ……


 私だってバカじゃないので、レベッカ様から嫌味を言われているのは百も承知だ。そもそも今までに、他のご令嬢からのそういった妬みがなかった訳でもないし。ただ、いちいち相手にしてもキリがないので、程よいスルースキルを身につけているのである。


 前世日本人はメンタルが強いんだぞ……


 殿下の婚約者候補なのだから、私まで目の敵にしなくてもいいのに……まぁ、フォルト様の事も狙ってるっぽいから、よく一緒にいる私の事も気に入らないのかな。


「あ〜……そう考えるとあの御三方(殿下、フォルト様、エヴァン様)と一緒にいる所を見られなくてよかったかも……」



 さて、レベッカ様はさておき、明日は家に帰るし荷物をまとめないとな。


 私は気を取り直して、フンフンフンと足取り軽く客室へと向かったのだった。



「おぉ、あーさんのメンタル強ぇな……」


 たまたま事の顛末を見ていたニャーさんは、呆気に取られた様子で、そう呟いていたのだった。




 ────────────────




「母様。私って夏のドレス、結局どの色になったんだっけ?」



 翌日マーク家に帰ってきた私は、ドレスの件を母様に尋ねてみた。


「アリスがドレスの事を気にするなんて珍しいじゃない。母様は今年こそ、青がいいと思ったのよ? でもデイジーが今回は譲らなくてね……淡いラベンダー色になったわ」


 まぁ涼しげでいいと思うけれど、と言いながら口を尖らせる母様である。


「そっか、ラベンダーね。でも母様の提案した青ってさ、普段着ない色だからちょっと私にとっては冒険色じゃない?」


「ふふ。アリスだってもう15歳になるんだから。深みのある青色も似合うわよ、きっと」



 ニコニコと母様に勧められ、そうかなぁと不思議に思った私なのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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