第62話 風魔法と迂闊な私
久しぶりの日曜投稿です。
「私の想像以上に、風の攻撃魔法って強かったんですね」
ほぇぇ……と、私は風の軌道を見つめて、感心しっぱなしである。
「風は目に見えない分、他の属性よりも魔法イメージが少し難しいが、洗練させれば威力は火や水よりも強いと思う」
なるほど、イメージが大切になってくるのか……
私はフォルト様と位置を交代して、前に立つ。魔法古語に疾風が使われているんだもん、つまりは、速く激しく吹く風って事だよね。
私はやっぱり怖いので、威力は抑え目にし、逆にスピード感を意識して、魔法を発動させる。
疾走感を大切に……!
『跳ね飛ばせ 疾風の唸り』
ヒュンッと真っ直ぐに、私の巻き起こした風が丸太へと向かった。丸太は宙に浮き、防御壁にぶつかると、スコンッと音を立てて倒れた。
よしよし。イメージ通りに出来たぞ。
フォルト様のような強さはないものの、初めて発動させた割には、まぁまぁの出来だろう。
「ふぅん……アリスティアはやっぱり想像力があるな。案外、風魔法が1番向いてるんじゃないか?」
フォルト様からお褒めの言葉をいただきました。
「ありがとうございます」
「この魔法は攻撃魔法でもあり、且つ相手を寄せ付けないといった点でも、自分の身を守る防御魔法にもなりうるから、練習しとくといい」
はいっ! と、元気に返事をする私なのだった。
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「最後に切り刻むか」
練習時間も終わりに近づいた頃、フォルト様が丸太をチラッと見て、何やら物騒な事を言い出した。
「き、切り刻むっ……」
「自分でやるのはまだ怖いんだろ? 今日はこういう魔法あるんだと思って、見ておくといい」
私はフォルト様の言葉に、コクンと頷いた。何事も経験って言いますしね……!
『刹那の如く、切り刻め 風の刃』
この魔法、前文の紡ぎ言葉の方が比重の大きい魔法なんだ。発動させるの、難しいんだろうな……
シュンシュンッと何回か音が鳴ったと思うと、丸太にはあっという間に、複数の切り傷が付いていたのだった。
「か、かまいたちだ、これ……」
なんだか既視感のある魔法だなぁと思っていた私は、ピンときてポツリと呟いた。これが俗に言う、かまいたちなんですね。
「かま……?」
フォルト様は訝しげな表情で、首を軽く傾げる。
「えと、こういう見えない風が刃となって、鎌で切ったような切り傷になる現象の事を、そう言うと思うんですけど……」
待てよ……?
私はそこまで説明して、はたと気がついた。かまいたちって言葉は、もしかしてこの世界にはないというか、存在しないのかな?
元々、日本だか中国かの、妖怪の怪奇現象からきてるんだっけか……となると、私が知ってるのはマズイんじゃないか……?
「ど、どこかの書物で読んだ気がしますけど、うろ覚えなので不確かですっ!」
そう、かまいたちの知識も元々(前世の)本で知った事だから、嘘は付いてないのだ。私は顔に出やすいタイプなもので、下手に嘘はつけないし、すぐバレるから結局意味がないし。
「……アリスティアは、たまに博識になるよな」
「いえいえ。それを言うなら、ミレーユの方が博識ですよ? 何でも知ってますもん」
そんな話をしていると、コンコンと扉のノック音が聞こえた。
「僕だけど、入っても大丈夫?」と声がし、フォルト様が扉を開けると、エヴァン様が立っていたのだった。
「2人とも、魔法の特訓は終わったかな? ユーグがアリスティア嬢の事を呼んでるんだけど」
「はい、大丈夫です」
殿下からの呼び出しと聞いて、ひぇっと背筋が伸びる。
「ふふ、なんて事はないよ。帰宅していいよって話だから心配しないでね」
緊張した私に、エヴァン様は笑って、そう教えてくれたのだった。
ついに帰宅命令が下るのか……! 王宮滞在も勿論快適だったけれど、やっぱり我が家が1番だから嬉しいなぁ。
「やぁ、アリスティア嬢」
殿下の執務室に入室すると、ソファーに座って肘をつき、珍しくグッタリとした様子の殿下がいた。
「ご機嫌よう、殿下……ってなんだかお疲れですね?」
「あぁ、ちょっと野暮用が僕のメンタルをガリガリと削いできてね……」
そう言って、ハァ……とため息をついた殿下である。
殿下のメンタルを削るなんて、すごい野暮用もあるものだなぁと、変なところで感心してしまう私なのだった。
「簡潔に言うと、アリスティア嬢の魔法の調査関係は大方終える事が出来たんだ。したがって、君が望むならば明日にでもすぐ帰宅してもらっても構わないし、王宮からマーク家に使いを出して、迎えを依頼しよう。此度は長く滞在させてしまって悪かったね」
「いえっ、とんでもないです。私は不自由なく快適な滞在をさせていただきました! ありがとうございました」
私は慌てて淑女の礼をとり、ペコリと頭を下げたのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)