第60話 帰り道=寄り道
騎士様の案内で、研究所までの道のりをテクテク歩く。一度屋外に出るけれど、王宮敷地内での移動なので、距離はあっても体感ではそんなに歩いたな、とは感じないものである。
「自分はこのまま待機していましょうか?」
研究所に無事に着くと、騎士様が気を利かせて提案してくださる。
「そうですね……でもどのくらい時間がかかるか分からないので……」
うう〜ん……と悩んでいると、アリスと声が掛かった。やって来たクリス兄様に状況を簡単に説明をする。
「そっか。今日はそんなに時間がかからない予定だけど、帰りも護衛をしてもらった方がいいと思うよ。そうだな……1時間後、またここに迎えを頼んでもいいかい?」
そうクリス兄様が告げると、騎士様がすぐに一歩後ろに下がり、「はっ」と騎士の礼をとった。
「よろしくね。じゃあ行こうかアリス」
「うん。騎士様、案内ありがとうございました」
騎士様と別れた私達は、研究所の玄関ホールを抜けてクリス兄様の個人研究室に辿り着いた。私は勧められたソファーにちょこんと座って、クリス兄様に問い掛ける。
「朝、父様には詳しく伺わなかったけれど、今日は新魔法関連での呼び出しだよね? 何か問題点があったりした?」
「うん、実はそうなんだ。何度も来させて申し訳ないね。報告書の作成中に、確認箇所がまたいくつか出てきたから、追加で聞き取りをさせてもらいたくて」
ごめんね、と申し訳なさそうに話すクリス兄様。
「全然っ! そもそも、私がしでかした事なんだから、キチンと協力するよ!」
「助かるよ。ちなみにアリスの新魔法は、もう既に他の人も問題なく使える事が実証されたから、安全性もクリアしたんだ。すごい早いでしょ? 他の研究員が斬新な魔法だって興味津々でね、皆が沢山協力してくれたから報告書も早く上がりそうだ」
おぅ、それはよかった……のだろうか?
まぁ研究がスムーズにいくなら、それはそれでいいか。
その後はキッチリ1時間弱ほど、クリス兄様の質問に答えて、聞き取りを終えたのだった。今日の任務、無事完了である。
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「お迎えありがとうございます……って、あれ? 先程の騎士様は交代されたんですね?」
玄関ホールで待機してくれていた騎士様は、先程の若い方ではなく、今度はナイスミドルなおじ様だった。ガタイがいいけれど、物腰のやわらかそうな、優しい感じが滲み出ている。
「アイツは午後訓練の時間と運悪く重なりましてな。私が代わりにやって来た次第であります。アリスティア様に余計な虫が付かないように、キチンと護衛させていただきますよ」
ハッハッハと軽快に笑うおじ様に、私は余計な虫って何だろう……と、頭にハテナを浮かべたのだった。
帰り道である、王宮庭園の横の小道を歩いていると、小さな白い日傘が2本、クルクルと忙しなく動いているのが目に入った。
「「あっ! アリスちゃまです!」」
向こうも私を見つけてくれた様で、そう言いながら手を振ってくれている。
「こんにちは、レティアーヌ様、リリアーヌ様」
私は2人の元に歩み寄ってそう挨拶した。
「こんにちはです! アリスちゃまもお散歩ですか?」
「お散歩、一緒にしましょう!」
お誘いを受けてもいいものか、チラリと護衛の方を見つめると、ニコニコ顔で頷いてくれたので、ちょっとだけなら寄り道しても大丈夫だろう。王女様たちにキャッキャと手を引かれ、私はそのまま散歩に合流する事となったのだった。
「わぁ……これはアガパンサスですね」
「「綺麗ですー!」」
私達3人は、庭園に咲いた沢山のアガパンサスに目を留めた。爽やかな淡い紫色の花が咲き誇っており、夏にピッタリの、とても涼しげな花である。前にシェリとこの花を見た時に、花言葉を教えてくれたっけ。
「たしか、《恋の訪れ》……?」
「おや。お嬢様、アガパンサスの花言葉をよくご存知ですねぇ」
すぐ近くで作業をされていた庭師の方が、少し驚いた様子で、私を振り返った。
「いえ、私自身は全然詳しくないんです。友人がよく教えてくれるので」
私は慌てて顔の前で、パタパタと手を横に振った。
「そうでしたか。物知りなご友人なんですなぁ」
そうニコニコと話され、私もシェリが褒められて嬉しくなり、つられて微笑んだ。
「はい。とても自慢の友人なんです」
私が庭師の方とハーブの話などを話していると、王女様達がクイクイ、とドレスの裾を軽く引っ張った。んん?
「あのですね? 私たち、前からアリスちゃまにお願いしたかった事があるのです……」
もじもじとしながら小声で話し、日傘を持つ指をしきりにクルクルと動かす、レティアーヌ様とリリアーヌ様である。
「お願いですか? 私が叶えられる事なら……」
2人はお互いに見つめ合うと、意を決したように頷いた。
「レティって呼んでほしいのです!」
「私はリリィって呼んでほしいのです!」
そう、勢いよく言い切ったのだった。
か、可愛いぃぃ……!!!
私は衝撃的な可愛さのあまり、顔を赤らめて、バッと両手で口元を覆った。こんな可愛いお願いを断れる人がいたら、教えていただきたい……!
勿論、側に控えていた騎士様やメイドさん、庭師さんも皆、王女様たちの可愛さにやられていましたとも。
「「アリスちゃま? やっぱりダメですか……?」」
心配そうに問いかける声に、ハッと我に返った私は、慌てて2人の前にしゃがみ込んだ。
「公の場では難しいですけれど、こうしてお会いした時は、是非呼ばせていただきますね? レティ様、リリィ様」
「はーい! 嬉しいですー!」
「わーい! ありがとうなのですー!」
私の返事に大喜びの2人は、ぴょんっと足取り軽く、ステップを踏みながら駆けていくのだった。それを追いかけるメイドさんも、心なしか楽しそうである。
小さな花の妖精が、クルクルと踊りながら喜んでいるように見えた、夏の王宮庭園だった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




