第6話 王宮での謁見
急な呼び出しとなった為、カルセルク家でメイクと髪型を少しだけ手直ししてもらう。本来なら正装に着替える必要があるが、陛下から急な事なので身軽な訪問着で構わないとのお言葉をいただいたらしい。なので、このままお茶会スタイルのドレスで馬車に乗り込む事となった。
久し振りに訪れた王宮は、相変わらず立派でキラキラしていた。華美すぎない上品な装飾品や、埃などなく光沢のある床や壁、天井は高いし、そして何と言っても広大なのである。私が1人で歩いたら、絶対に迷子になると断言できる。
フォルト様とシェリ、私の3人は城の騎士様たちの案内で、謁見の間へと足を運ぶ。
「カルセルク公爵家ご子息フォルト・カルセルク様、カルセルク公爵家ご令嬢、並びにマーク侯爵家ご令嬢のご到着でございます」
騎士様がよく響く声でそう告げると、扉の向こうで陛下の合図があったようで、内側から扉が開かれた。
「失礼いたします」
王座の近くまでゆっくりと進み、フォルト様を先頭に、私とシェリはその後ろに並んでピッとお辞儀をする。この体勢、意外と筋肉を使うのだ……
「なに、3人とも顔を上げなさい。今日は公の場ではないのだから、そんなに堅苦しくせんでよいぞ」
「ご配慮、感謝いたします」
ふっと顔を上げると王座に座る陛下が微笑んでいた。人払いを済ませ、この場には後から入室した私たち3人の他にはエドワード陛下、王妃のオルガ様、ユーグ殿下、宰相のピア公爵、カルセルク家当主でフォルト様とシェリのお父様の現外務大臣フキロ公爵、それから父様しか居なかった。
「それにしても、アリスティア嬢は久しいな。少し見ない内に綺麗になって」
ナイスミドルの陛下に、社交辞令でも褒めてもらえると嬉しいものだ。緊張も何処へやら、ついついニコニコしてしまうから私も現金なものである。
「陛下、アリスは生まれたときから可愛いです」
父様の親バカ発言で、私の顔が一瞬でスンッと真顔に戻る。お願いだから父様はちょっと黙っていてほしい。生温ーい何とも言えない空気が部屋に漂っていた。
「……ええとだな、此度の神殿での検査結果について、カルセルク家とマーク家から報告を受けた。シェリーナ嬢は特殊属性の光と基礎属性の水の2つの発現があった。アリスティア嬢は基礎属性4つの発現があったというが……2人とも、これは誠のことであるか?」
「「はい、陛下」」
私たちは揃って頷いた。
「今年は光属性持ちに、4属性持ちが現れるとは……凄い年だな……」
ほぅ、と陛下は感嘆のため息をもらす。
「しかしながら陛下、手放しには喜べません。光属性や4属性持ちは希少故に、外部から狙われる危険もあり得ます。シェリーナ嬢は殿下の婚約者候補に名を連ねておりますし、アリスティア嬢も侯爵家の宝と言われたご令嬢。学園でも身の安全を確保しないと、安心して魔法を学べないかと」
宰相のピア公爵が、心配そうに陛下へ進言してくださる。数十年前に隣国との戦争を終えた我が王国は、現在隣国と条約を結んでから友好的な関係を保っているが、そのわだかまりが完全に溶け切ったとは、中々言えないのが現状だ。
どの国も希少価値のある特殊属性持ちや複数属性持ちを是非とも自国に、と思っているだろう。
うむ、と厳かに陛下は頷く。
「勿論2人の身の安全が第一だ。王家としても2人を事実上の保護下に置くことを決めた。特にシェリーナ嬢の光属性については、国としても隠す事は得策とは言えん。秘匿にしても情報は漏れるだろうし、学園で学ぶにも不便だろう。こればっかりはシェリーナ嬢には申し訳ないが、王家から公表という形を取ろうと思うが……」
「私は陛下の提案に異論はございません。保護下に置いていただけるならば、とても有難い事でございます。光を上手く使いこなせるかは分かりませんが……学園で学び、光の治癒魔法を使えるように日々励みたいと思っております」
シェリはそう言って微笑んだ。フキロ公爵とフォルト様もその姿を見て、頷いていた。
「さすがはカルセルク公爵家の娘だな。とても頼もしいが、ユーグの事も頼ってくれて構わんのだからな? シェリーナ嬢はそれ以前に王妃教育もあるのだから、くれぐれも無理はせんように」
「はい。ありがとうございます」
「さて、アリスティア嬢についてだが、こちらは公表はどうしたものかと、ちと悩み所でな……」と、陛下が少し困ったような表情で私を見つめた。
んん? 公表一択かと思っていたけれど、しなくても済むのかな……?
それなら……何より目立ちたくないし……
「陛下、恐れながら申し上げます……」
私はおずおずと伺いを立てたのである。