第58話 王宮で働く人々
私たちは来た道を戻り、通路から無事抜け出した。ニャーさんは通路を開けた時と同様に、本を抜いた所に指を差し込んで、チョイチョイと何かをしている。すると再び本棚が動き出し、元の位置に戻ったのだった。
まさか本棚の裏に通路があるなんて、誰も思わないだろうなぁ……これ、どういうシステムなんだろうか。
「この通路、誰でも使える訳じゃないからな? 他の奴が同じ本を抜いて、たとえ俺と同じ事をしたとしても、作動しないモンだから」
私の興味津々な視線に気がついたらしく、説明をしてくれた。
「おぉぅ……やっぱり私、貴重な体験をしたんですねぇ……」
「そ。あーさんなら別に言いふらしたりしないだろうし、連れてったら面白そーだったから。この事は内緒にしとけよ〜? バレたら怒られんの俺だし」
ニャハハと笑うと、ぼちぼちユーグの部屋に戻っとくかなと、部屋の壁掛け時計を見ながら呟くニャーさん。
「俺、王宮内ではユーグたち以外の前で、あんまり姿出さねぇようにしてっからさ。あーさんとはここで別れるわ。寄り道せずに部屋戻れよー」
ヒラヒラ〜っと、手を振るニャーさん。
「あ、はい。ではまた〜」
もはやこれが寄り道だったのでは……?
そう思いながらも、瞬く間に目の前から消えたニャーさんに、もう見ていないだろうけれど私も手を振り返したのだった。
「……あまりにも自然すぎて、今まで疑問に思わなかったけど……ニャーさんって何であんな一瞬で姿を消せるんだろ?」
間諜って皆そういうものなのかな……と考えながら、私は部屋に戻ったのだった。濃い1日だったなぁ……
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ところ変わって、少し時間は遡り……ここは王宮の裏方。
王宮で働く人々は普段、静々と通常業務をこなしている。しかし裏にまわれば意外と、噂話に花を咲かせているものである。
今日も今日とて、話題が途切れる事はない。お昼のピークが過ぎ去った厨房では、メイド数名と料理人達がお昼休憩も兼ねつつ、お喋りで盛り上がっていた。
「なぁなぁ、昨日からアリスティア様が滞在されてるって本当なのか? 俺昨日休みだったから、まだお見かけしてないんだけど」
料理人が、ソワソワした様子で、その場にいる人たちに尋ねた。
「本当よ。昨日、お部屋の対応をさせていただいたもの」
ふふん、とメイドの1人が誇らしげに語る。
「え〜いいな〜 私もアリスティア様のお部屋担当になりたかった〜」
「しかもシェリーナ様もご一緒のお部屋なんでしょう? 可愛らしさと美しさの供給過多……やだ、楽園じゃない……」
「アリスティア様って、高位貴族なのに物腰柔らかくていいよなぁ……料理人の俺らにも、美味しかったですって声掛けてくださるし。その辺にいる高飛車なご令嬢とかとは、えらい違いだよ」
「お2人が滞在してるとなると、騎士様方も何かにつけて護衛をしたがってるんじゃないか?」
「そこは大丈夫よぅ。ほら、殿下と氷の騎士様がいらっしゃるから〜」
あ〜、なるほど……とその場にいた人たちは、一様に頷いたのだった。
「あと、もうすぐ帰られてしまうらしいけれど、ナースズ家のサラ様もいらっしゃってるでしょう? 急遽ミレーユ様とお部屋を一緒にってお話で、慌てて支度したけれど……あの方、王宮騎士様よりもかっこいいかもしれないわ……」
ほぅ……とメイドは顔をほんのりと赤らめた。
「あの4人、学園でも仲がよろしいそうよ。今日はアリスティア様とシェリーナ様が、4人でお揃いのアクセサリーを買ったと私にも見せてくださって……あ、ダメ。思い出したら尊すぎて辛い」
「そうよね、もはや全員推せるわ」
そう言いながら、顔を手で覆ったメイドの肩をポンと叩いて慰めたのだった。
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同時刻。場所は変わって、ここは王宮の正門前である。
正門前には王宮騎士達が常に立ち、警備や来客対応にあたっていた。今はお昼過ぎという事もあり、来客も途絶えた、比較的穏やかな時間帯だ。
「突然昨日から、王宮がいつも以上に華やかになったよな〜……」
「ほんと、目の保養……」
若手の王宮騎士達は、目線は門の外に向けながらも、お互いにそう呟いた。
「てかさ、今滞在中のご令嬢のレベルが高いよな。サラ様、は……美人云々よりもまず、俺らと同じくらい強すぎるっていう評判は、まじで笑えん。帝国からの留学生のミレーユ様は、清楚系の真面目美人だし」
「眼鏡美人もいいよなぁ〜 シェリーナ様は言わずもがな、女神を具現化したかの様な美少女だもんな。そして何てったって……」
「「アリスティア様だよな」」
王宮騎士達は声を揃えて言うと、うんうんと頷く。
「なんていうか、こう……守ってあげたくなるよな。気さくな感じもあるのに、キチンとご令嬢らしさもあって……そこがまたいい」
「あの方、健気な感じで可愛いもんなぁ。前に陛下へ謁見に来た時に案内したけど、間近で見ても可愛かったぞ?」
俺、また案内役とか喜んでするわ、とボヤく。
「それかなり羨ましいんだが。というか、次があったらお前は他の騎士に譲れよ? まだ暫くは王宮に滞在されるのか?」
「さぁ、どうだろうな……是非ともいてほしいが……」
俺たちの暑苦しい夏の訓練や勤務の中での、癒やしだもんな……
騎士たちはそうボヤきながら、フゥ……とため息をつくと、また仕事に集中するのであった。
謎に王宮での評判がグングンと上がっていた事を、アリスは知らない。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




