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第56話 秘密の道を抜けて

 



 私はこの話題から逃れるように、ローラン先生に話を振った。


「あのっ! 先生? 魔獣調査の方は順調なのでしょうか?」


「はい。研究所の方にもご協力いただいて、ひとまず報告する事案がまとまった所なんです。ただ、その結果を報告しに、急遽このまま王宮へ向かう事になりましてね」


「ひぇ、お疲れ様です……でしたら一緒に王宮へ戻りませんか? 私達もそろそろ戻る予定だったんです」


「ローラン先生のご迷惑でなければ、王宮まで護衛させていただきます」と、フォルト様も頷いた。


「ご一緒してもよいのなら是非。王宮は何度訪問しても迷ってしまうので、正直ありがたいです。カルセルク君も、ご丁寧にありがとうございます」



 私達が王宮に戻ると、他の王宮騎士様が慌ただしく現れ、フォルト様とローラン先生に報告会の場所や時間などを説明している様子であった。


 急遽決まった事だからか、本当に大変そうだなぁ……と、そんな姿を少し離れて眺める私。


「アリスティア。報告会にユーグも出るみたいで、俺にも出席の指示が出た。1人で部屋まで戻れるか? 誰か護衛を付けてもいいんだが……」


 近くにいる王宮騎士様たちを見渡して、何だか冷えた視線を送るフォルト様である。そんなフォルト様の気配を感じて、サッと目線を逸らす王宮騎士様たち。なんだろう、この謎の攻防戦……


「大丈夫です。さすがにお借りしてる客室までは、1人で迷わず行けるようになりましたっ!」


 ね? と私が話すと、フォルト様は納得してくれたのか、くれぐれも気をつけるようと私に念を押して、ローラン先生と共に報告会へと向かわれたのだった。


 この厳重な警備のある王宮内で、気をつける事なんてあったかな……


「この後、どうしようかなぁ……」


 2人と別れてから、テクテクと廊下を歩く私。せっかくの王宮滞在だし、許可を貰って王宮図書館に行くのもいいなぁ。あ、課題で使える資料とかないかな……などと思案していた時だった。



「ひょ?」


 キィッと突然開いた横の扉から、誰かにグイッと腕を引っ張られる。あっという間に部屋に連れ込まれ、私の後ろでパタン……と扉が閉まったのだった。何ならカチャッと内鍵も閉められた。


「よ」


 呆気に取られた私の目の前にいたのは、少し前に研究所で別れたニャーさんである。呑気に片手を上げて挨拶された。


「ニャ、ニャーさんっ!? 引っ張るならせめて一声っ……! すっごいビックリしましたよ……」


「おっと、悪りぃ悪りぃ。ちょうどいいタイミングで見かけたもんだから、ついうっかり」


 パッと、掴んでいた私の腕を離す。


「さっきキミと一緒にいた学園の先生やらとフォルトはさ、魔獣についての報告会に行ったんだろ? それって多分お偉いさんも含めて、大会議室でやるやつだと思うんだよな〜 暇してんならさ、それ俺と聞きに行かん?」



 ……はい?


「いやいや、ニャーさん。私みたいなただの学生で、且つそこら辺にいるような令嬢が、聞いていい話じゃないですよね?」


 そんなお茶に行く感じで、軽く誘わないでいただきたい。


「そもそもその肩書き、キミに当てはまってるとは到底思えねぇけど? でもさぁ、あの事件に関わった身としては、気になる話なんじゃねぇの?」


「う……まぁ、気にならないと言ったら、嘘になりますけど……」


「ほーらな! んじゃ時間ねぇから、早くこっち来い」



 よっと本棚の本を一冊取り出して、その本が置かれていた所にニャーさんが指を入れた。すると本棚がスーッと音もなく横にスライドし、人が1人ようやく通れるくらいの通路が現れたのである。ニャーさんは、慣れた様子でその通路に入っていく。


「へっ? え? こ、ここですか!?」


 混乱真っ只中の私だったが、置いてくぞと言わんばかりに振り向かれ、慌てて通路に足を踏み入れた。えーい、女は度胸だっ……!


「……ていうか、どうやって報告会の様子を見るつもりなんですか? もしバレたら恐ろしいんですけども……」


「察しが悪りぃなぁ。バレない為の、この通路なんだって。ほら、ちゃんと着いてこないと迷うから気ぃつけろよ?」


 ちょ、全然答えになってないです、ニャーさん。


「あと前から思ってたんですけど、ニャーさんって私の事、ずっとキミって呼んでますよね? 何でなんですか?」


「あ〜、ちゃんと意味はあるんだぜ? 一応俺、間諜だからさぁ、結構危ない所にも行くわけ。だから個人の名前は、なるべく外では呼ばないように気ぃつけてんのよ。キミもいいとこのご令嬢だろー? 俺と関わりがあるって思われるのもどうかなって思っての配慮よ、配慮」


 なるほど、ニャーさんなりの配慮だったのか。でも、もうそれなりに関わってるから、あんまり意味がない気もしているんですがね……?


「あ、ユーグとかフォルト、エヴァンは王族関連枠で特別だけどな? あとシェリーナ嬢もほぼ王族確定みたいなもんだし、割と普通に呼んでるわ。そーだ、キミは俺の事、全然名前で呼ばないから大丈夫だと思うけど、俺の本名は口外しないようによろしく頼むぜ?」


「分かりました、今後もニャーさんと呼ぶようにしますね!」


 グッと私は両手を握りこぶしにして、ムンッと前にかざした。


「あ、じゃあ私にも、あだ名を付けたらどうでしょう?」


「あだ名ぁ〜?」


「だってキミじゃ、他にも周りに人が居た時、誰に対して言ってるのか分からないじゃないですか」


「まぁそう言われるとなぁ……んじゃどうすっか、アリスティアって名前だから……」


 う〜ん、と唸りながら暫く悩んでいたが、ニカッと笑ったニャーさんは声高らかに宣言した。


「オッケー、決まった! 今日からあーさんって呼ぶわ!」


「えぇぇ……? ていうか、完全にニャーさんってあだ名から真似しただけじゃないですか」


「あぁ? 俺が言いやすければいいんだよ。あーさんも勝手に俺の名前決めたじゃねぇか。はい、決定。よろしくあーさん」


「うぐ……分かりましたよ。よろしくお願いしますぅ……」



 令嬢らしからぬあだ名の付いた私は、ニャーさんと共に狭い通路を進み、少しすると行き止まりに辿り着いた。


 そこには扉があり、開けてみると人が1〜2人ギリギリ入れるくらいの、小さくて薄暗い空間があった。少し高い位置に窓枠の様なものがあり、そこから微かに光が漏れ出している。


 ニャーさんに、その窓枠の中を覗いてみろとジェスチャーされ、私は少しだけ背伸びをして、ぴょこっと顔を出した。


 そんな私の目に映ったのは、ローラン先生、陛下や殿下、フォルト様やエヴァン様は勿論、王宮の大臣職の方々(何なら父様もいる)が絶賛お集まり中の、大会議室内だったのである。


「なんっ……!?」


 私は混乱しつつも、見られたらマズイのではと思い、急いで頭を下げる。


「あ、これ大会議室側から見ると、ただの絵画になってんの。俺らの姿は見えてないし、声も小声ならよっぽど大丈夫って、マジすごくね?」


「!?」


 思わず叫びそうになった私は、間一髪のところで口を押さえた。な、何だってーーー!?


 つまり私とニャーさんは現状、謎の通路を抜けて、謎の小部屋に辿り着き、絵画自体がマジックミラーみたいになっている所から大会議室の様子を覗き見ている、という事である。いや、情報過多…………


 というか、これ俗に言う、王家の裏口ルートなのでは……?


 私はまた1つ、王家の知ってはいけない秘密を知ってしまった気がしてならなかったのだが、今ここで大声を出す訳にはいかず、ニャーさんをジトッと恨めしく見た。


「さっきから言ってんじゃん、バレなきゃいーんだって」


 そう言って、ニヤッと口角を上げたのだった。


 この人、本当に学習しないなぁ……


 殿下に怒られる未来が見えなくもない私は、何とも言えない表情になる。


 怒られる時は私を巻き込まないで下さい、とこっそり心の中で思う私なのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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