第54話 新魔法、トライアゲイン
「アイツ、このままだと自分の属性を当てられると察して逃げたな」
逃げ去った扉の向こうを見つめながら、フォルト様がため息をついた。
「いくら何でも当てられないのに……ニャーさんって意外と怖がりなんですねぇ……」
そんな会話をしながら窓に視線を向けると、差し込んだ陽の光が目に入った。あ、そういえばあの時は、私が魔法を使う前に、サラが太陽の魔法で先に太陽光を強化してくれていたんだっけ……
……ん?
なら、同じシチュエーションでやってみる価値はあるのかも?
「あの、どなたかと一緒に火魔法を使って、もう一度だけ試させてもらえないでしょうか?」
そう切り出して、私は自分が思う見解を皆に説明した。
今いる中で火属性持ちの人……きょろっと辺りを見渡す。
そもそもサラとミレーユは、王女様方のご指名でお茶会に参加中の為、不在である。ちなみに私とシェリも誘われたのだが、この確認案件があったので、申し訳ないが今回はごめんなさいをしている。
シェリとフォルト様は火属性持ちじゃないしなぁ。エヴァン様は、土属性って聞いた事があるし……
あれ? そうなると、もしかして残るのって……ギギギと、私は壊れたロボットかの如く、ぎこちなく後ろを振り向いた。
「今は僕しか居なさそうだね」
「ワァ、ホントデスネェ……」
殿下直々の補助を頼むとか、ほんとおこがましくて、すみません……
「サラ嬢が使ったのは、どんな太陽の魔法なんだっけ?」
「ええっとですね……本物の太陽光を擬似化して、光を生み出して、更にその光を強くする魔法です。んと、サラは何て唱えてたかな……」
「なるほどね。それなら、これじゃないかな?」
殿下は私の拙い説明でも、すぐにピンと来たようで、窓の近くへと向かった。太陽に向かって手をかざすと、魔法を唱えた。
『煌めき強化 太陽光を模造せよ』
パッと殿下の手から、太陽光に似せた、眩しい陽の光が放たれる。
さすが殿下、1回で成功させるとは……私も見習って、しっかりこなさないと……
私は放たれた太陽光の位置と、反射の関係を考えて、防御壁に当たるように自分の立ち位置を変更する。
ここで合ってる、はず……よし、集中。
的があれば狙いは定められるでしょ、私。
集中する為に一度閉じていた目をパッと開けて、前を見据えた。
『標的、狙いを定めよ 太陽光の奇術!』
パァッと私の手のひらから、魔獣の時と同様に鏡が出現した。殿下の放つ光を線状に伸ばして反射させ、それは無事に防御壁の一点へと跳ね返った。
「ようやく成功しました……!」
私はホッと胸を撫で下ろした。よくやったな、と言わんばかりに、フォルト様も頭をポフポフと撫でてくれた。
「アリス、すごいわ! あの時と全く同じね!」
「これが新しい太陽の魔法なんだね。すごい……発想が斬新……」
エヴァン様はメモを取りつつ、とても興味深そうに考察されている。
まぁ、斬新ですよね。だって前世の知識から引っ張ってきましたから……ありがとう理科の授業。
「ユーグが唱えた太陽の魔法と、魔法古語のイントネーションが少し似ているんだな」
「確かにフォルトの言う通りだな。模造と奇術か……アリスティア嬢は、元々その意味も汲んでいたのかい?」
「いえ、サラの魔法と似せようとは特に思ってませんでした。本当にパッとイメージして出てきた単語を、即座に使っただけなので……」
「うーん……専門の研究者に聞かないと、詳しくは分からないけれど、恐らく先に模造の魔法が発動していないと、アリスティア嬢の奇術の魔法は使えない、っていう制限がかかっているんじゃないかな?」と、エヴァン様は自身の考察を述べる。
「そうだな。それに、アリスティア嬢が使った魔法は、成功するとそこそこの魔力量を消費しているのが分かった。僕の放った魔法も、元々上級魔法だ。アリスティア嬢の新魔法も、この魔法と対になると仮定するならば、きっと分類は上級魔法に当てはまるだろうな」
魔法が成功する事も分かったし、エタリオル魔法研究開発機構にも研究を依頼するか……と殿下が話していると、扉の外にいた護衛の王宮騎士様から声が掛かった。
「クリストフ・マーク様がいらっしゃっております」
「あ、僕が呼んだんだ。アリスティア嬢の事だし、機構に所属している優秀な魔法研究者でもあるからね」
なるほど。エヴァン様、いつも有難いご配慮、感謝です。
「失礼致します」
クリス兄様、と私はててっと駆け寄った。
「アリス、昨日は大変だったな。事情は聞いたけど、皆すごく心配してたんだぞ? まぁ、父上が特にな……」
そう言いながら、フッと遠い目をしていた。
「あぁ……父様には、さっき公務中に抜け出したみたいで王宮内で会ったよ。会うなり散々大丈夫か、痛いところはないかって質問攻めにあったんだ……」と、私も思わず遠い目をした。
「それよりも、私がまた可笑しな事をしたせいで、皆に時間をもらってるのが申し訳なくて……クリス兄様も、お仕事忙しいのにごめんね」
「気にしなくて大丈夫。これも兄様の仕事の一環だからね。殿下、アリスの新魔法は発動可能だったのでしょうか?」
「結論から言うと発動は可能だった。まずは、エヴァンがメモを取ってくれているから、それに目を通してもらえるかい?」
「分かりました」
兄様は頷くとエヴァン様から書類を受け取り、一読する。段々と文字を追っている目が、驚きの表情へと変わっていった。
「2つの魔法で対になるという可能性がある……? そもそも太陽の魔法は種類が少ないという特徴があったが……相乗効果なのか、はたまた研究を繰り返せば独立した魔法にもなりえるのか……」
チラリと兄様が、私の方を向いた。
「……とにかく、新魔法は魔法認定の手続きを取った方がいいですね。アリス、忙しくて申し訳ないけれど、今度は僕の職場に出向いてもらう事になるよ」
クリス兄様の職場って事は……あの巨大な魔法研究所と噂の、エタリオル魔法研究開発機構……!?
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