第53話 お咎めはありますか?
翌日、私達は王宮の謁見の間に来ていた。
ここに来たのは、魔法発現の報告の時以来である。陛下にも久しぶりにお会いするなぁ……
「此度はアンジェリッカ通り広場にて発生した魔獣出現事件にて、魔法で迅速かつ的確な対応をし、被害なく防いだ事、誠に大義であった」
陛下のお言葉に、私達は深く礼をする。すぐに「顔を上げなさい」と優しく声を掛けられ、体勢を戻した。
「君達はまだ学生であり、未成年者だ。怖い思いもしていたであろうに、それでも立ち向かった事を私はとても誇りに思うぞ。君達の頑張りを無駄にせず、この事件を解決すべく、私も国民の為に最善を尽す事を約束しよう」
勿体なきお言葉、ありがとうございます、と私達は再び深く礼をしたのだった。
「あー、時にアリスティア嬢?」
「は、はいっ!」
突然陛下に話を振られて、私は慌てて返事をする。
「ユーグ達からアリスティア嬢の面白い話を色々と聞いておるが……それに関しての咎めなどはないから安心しなさい。むしろ慣れない魔法でよく頑張った、そう私は思っているからな」
「ありがとうございます……!」
お、怒られなかったー!!!
側にいたシェリやサラ、ミレーユも、今回の件で色々やらかした私の処遇を心配してくれていたようで、よかったといった表情で私と目を合わせてくれる。うぅ、皆、自分の事のように心配してくれてありがとう……
場が少し和んだところで、コンコンコン、と軽い小さなノック音が聞こえた。
「「失礼いたします!」」
元気で可愛らしい声が響き、扉から双子の王女様方と王妃のオルガ様が登場した。王女様方は、オルガ様の後について歩き、陛下の横に並ぶとニコッと笑った。
「レティアーヌ・エタリオル第1王女です!」
「リリアーヌ・エタリオル第2王女です!」
そう言い終えると、カーテシーをピシッと決めた。2人は頭を上げると「ご挨拶、できました!」と言わんばかりの満足げな表情である。可愛すぎる。
「謁見中なのに、急にごめんなさいね。この子達が、昨日会ったお姉様たちにキチンと挨拶したいって言い出して……」と、オルガ様が申し訳なさそうに話す。
「とんでもございません。王女様方から直々にご挨拶いただき、とても光栄ですわ。私はミレーユ・サリソンと申します」
ミレーユは2人に微笑みながら、そう挨拶を返した。2人もニコニコ顔である。
「サラ・ナースズと申します。この度はご挨拶いただき、誠に光栄です」
サラはドレス姿であったが、サッと騎士の姿勢を取り、王女2人を見つめてながら挨拶する。サラのイケメンスマイルに、王女2人はメロメロのようだった。
「シェリちゃん、昨日この子達が無理やり部屋に連れてって、本をねだったのよね? 昨日は疲れてたでしょうに……」
「いいえ、オルガ様。とんでもないです。私自身がとても癒されましたから、感謝したいくらいです」
王妃様とシェリの会話を近くで聞きながら、サラにメロメロな2人を微笑ましく見守っていた私は、そんな2人とパッチリ目が合った。
2人は見つけた!と、言わんばかりのイキイキとした表情で私の元へやって来るなり、ギュッとしがみついたのである。
「「この方はっ! アリスちゃまです!」」
「わわ!? ご、ご存知でしたか、私の事」
私は慌てて目線を合わせるように、しゃがみ込んだ。
「はいっ! おーきゅーで有名ですっ!」
「噂どおり、可愛いのですっ!」
「へ……? 王宮なんて滅多に来ないですけど、有名って……? レティアーヌ様とリリアーヌ様の方が数百倍可愛らしいですけど、ありがとうございます」
私は首を傾げつつも、そう2人に笑って返したのだった。
────────────────
ところ変わって、私たちは王宮内にある、魔法特別室に移動してきていた。
勿論、私のついうっかり生み出してしまった、新しい魔法に再挑戦する為である。防音、尚且つ防御壁で出来ており、かなり広い空間だ。王宮内にもこんな場所があったんだな。
「う〜……すみません、私の想像力が足りてないせいかと……」
私は魔法を発動させようと何度か挑戦するも、失敗してしまっていた。私が犬なら、耳をぺたんと垂らしている事だろう。
うぅ、なんであの時は出来たのに、発動してくれないんだ……
「ふむ……アリスティア嬢の新魔法は、自分や人が危険に晒された時にだけ、咄嗟に出来るものなのだろうか……」
殿下の見解に、ニャーさんが食らいついた。
「なんだ、じゃあ俺が魔法でも繰り出して、荒療治でもすっかぁ?」
そう言いながら、ニャハハと笑ったニャーさんであったが、すぐにヒッと声を漏らす。
ヒュウッと辺りに冷気が漂ったかと思うと、いつの間にかフォルト様の手のひらには氷玉が浮かんでいた。そ、それ、どうするおつもりでしょうか……
「いや、冗談だって……殺気を出すなよ……」
「そもそも私なんかが、闇魔法に太刀打ちなんて出来ませんよ……」
鬼か……と思いながら、ニャーさんを横目で見た私である。
「俺の属性は闇魔法だけじゃねぇぞ?」
「あ、そうだったんですか。ちなみに何属性なんですか?」
「俺は……ッいってぇ!!!」
そう言いかけた所で、殿下にパシーンと思いっきり平手で頭を叩かれたニャーさんである。お疲れ様です。
「お前は王家の間諜だっていう自覚がないのか……基本情報はまず秘匿、が第一だろう。自分からわざわざバラすな」
「なるほど……自分から言ってはいけないんですね。あ、じゃあ当ててみましょうか」
いい事を思いついたと言わんばかりの、ワクワクとした表情でニャーさんに近づく私。私が近づくにつれて、ズリズリと後退りしている。ふふふ、からかわれたお返しをさせていただこうじゃないですか。
「ヤダ! キミ本気で当ててきそうで怖い! 無理!」
「いやいや、そんな事さすがにある訳ないじゃないですか。う〜ん……水属性じゃなさそう」
猫って水嫌いですしね、と心の中で思っていたのは内緒である。
「……っ!? こ、こわ!!! お、俺ちょっと一旦ドロンするわーーー!!!」
そこまで私が推測すると、ニャーさんは叫びながら、部屋から逃げ出していったのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)