第52話 (別視点)その後の男たち リターンズ
今回は少し短めです。
「あ〜頭にずっと布被ってるのって、まじかったるいわぁ」
アリス達との事情聴取を終えて部屋に入るなり、そう言いながら、ティーグルはパサッとフードを外した。
群青色の短く刈りそろえた髪の毛が露わになる。ただ、目の色は何故かアリスが見た時と異なり、金と黒のオッドアイではなく、両目とも黒であった。
「でもそのフードっていうか服ってさ、裏側に魔法石を付けてるから、夏でも軽いし快適なんでしょ?」
まじまじと見ながら、いいなぁとエヴァンが話す。
「まーな。王家直属だからって事で、いい服を支給して貰えるのは、ちょー助かる」
「それはともかく、本当にニャーさんって呼ばれてたね、ティーグル……っふふふ……」と、エヴァンは耐え切れずに笑い出した。
「エタリオル王家の虎と呼ばれて、その界隈では恐れられているお前が、まさかのニャーさんか……」
ティーグルを横目で見ながら、しみじみとフォルトもそう呟く。
「うっ! あの子にそう呼ばれて、普通に馴染んで返事をしてしまう自分が憎いっ……」
あぁぁ……と叫びながらベッドにダイブしたかと思うと、ガバッと勢いよく起き上がる。
「ていうか実際のところ、あの子一体何者なんだよ? 事前調査じゃ、ほんわかのほほんな普通の可愛いご令嬢って聞いてたのに! 運悪く目が金目になった時も見られちゃったし……俺なんかまたやらかしそうで、もうヤダ……」
「別に、その情報も嘘じゃないだろ」
「ちょ、フォルト。そこは今おいといていいから。金目を見られたって本当なの?」
堪らずツッコミを入れるエヴァンである。
「お前、もうあとは素顔を見せれば、アリスティア嬢に隠してる事は、ほぼなくなるんじゃないか……?」
王族に関係してない令嬢に、どこまでバラしてるんだよと、ティーグルに冷ややかな眼差しを送るユーグなのだった。
「ったく……お前の馬鹿なやらかしは自己責任なんだから、自分でアリスティア嬢に内密にしてもらうよう、頼んでおけよ」
「うぃ〜っす……」
ふぅ、と息を吐くと、ユーグは真剣な表情をして語り始める。
「あと、これはさっき彼女達には怖がらせるかと思って言わなかったんだが……魔法陣が出現した時間は、ちょうど街の警備隊の見回りが近くにいない時間と重なっていたらしい。だから警備隊の到着自体が遅れてしまったようだ」
「……つまり、わざわざ警備隊がすぐに駆け付けられないように、あの時間をピンポイントで狙ったって事?」
「あぁ。魔獣による被害を拡大させる気だったと思っていいと思う。くそ、本当にタチが悪い……」
チッと腹黒い発言をしながら、仮にも王子であるユーグが顔をしかめる。
「うわぁ……彼女たちがたまたまアンジェリッカ通りにいて、広場で休んでなかったらって考えると、恐ろしいね」
エヴァンの発言に、ティーグルが「ハイ? 何言ってんの?」と、茶々を入れた。
「いいか、お前ら。感覚バグってるかもしれねぇけど、よ〜く考えろよ? 普通のご令嬢なら、悲鳴をあげて、その場から動けなくなってるのがオチだぞ?」
「「「まぁ、それは確かに」」」
ティーグル以外の3人は頷く。
「それなのになんだ? 赤髪の子は魔獣が現れた途端に、あのちっこい子を自分の背に庇うし。オメーの婚約者殿は、帝国の留学生と息ピッタリに、氷魔法を魔獣にぶつけるわ。ほんで極めつけに、ちっこい子は前に飛び出して、謎の超強力土魔法を放つわ、新しい魔法を生み出すやら……こんなの犯人ですら予想出来ねぇだろうよ」
もう俺お腹いっぱいっすわ、とヤレヤレと手を振った。
「……こうやって一般的な令嬢の在り方を考えると、アリスティア嬢ってさ、ビックリ箱が何かなのかな?」
「目立ちたくないって言っても、本人が無自覚で目立っちゃってるんだから、もうしょうがないよねぇ」
もはやハハハと、笑うしかないユーグとエヴァンであった。
「ユーグ。明日の謁見後、アリスティアと新魔法の確認をするから、あそこを借りるぞ。それで、場合によっては研究所に報告案件だ」
「了解。あのね? フォルトは2人っきりがいいのかもしれないけど、それ一応王族の僕も立ち会うからね?」
分かってる、と言いたげな顔でチラリと、ユーグの方を見て頷いた。
「それから、今後警備も増やすが、正直なところキリがないのが現状だ。僕達は事件の根源である、犯人探しの方を重点的にしていこう」
ユーグの発言に、皆が「了解」と応える。
「あと、今回の件に彼女たちが関わっている事を、犯人側が知った可能性もあるよね。そう思いたくはないけど、報復される事も視野に入れて、彼女たちの警備は強化させよう」と、エヴァンも気を引き締めた表情で語った。
「ティーグル、お前もしっかり守れよ」
「いやいや、フォルト。俺まーじであの子の護衛にいらないって……」
男たちの夜は、こうして更けていくのであった。
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