第48話 力を合わせて
「ひぇ……思わず魔法使っちゃったけど、これ怒られちゃうかな……」
グレイ先生の黒い笑みが浮かび、ぴぇ……と思わず泣きそうになる私。
「いや、それよりアリスさっき目が……それにあの魔法の時……って色々聞きたい事はあるんだが、緊急事態だから仕方ないか。とりあえず、アリスの判断は間違ってないと思う」
大丈夫だとサラが言ってくれたので、ひとまずホッとする。魔法を使わざるを得なかった事を、最悪証言してもらおう……
「でもどうしよう……あの壁を壊されるのも、時間の問題だと思うの」
何せ強化をしたにはしたけど、ただの土だもの。突進でも繰り返されたら絶対出てくる。とにかく魔獣自体を戦闘不能にさせないと……
「くそ、私も魔法を使いたいけど……こんな街中で強い火力なんて出したら、飛び火の危険があるし……」
サラが手のひらを見つめて、悔しそうな顔で言った。
んんん、落ち着いて考えろ、私。
「騎士様たちの応援が来るまで、魔獣のトドメをさせなくても、せめて仮死状態とかに……ん、仮死?」
なら凍らせたら……?
「氷魔法……そっか、シェリとミレーユに2人で同時に、同じ氷魔法を放ってもらおう!」
上手く当たれば2倍になる……!
その為にも、私とサラで一瞬だけでもいいから魔獣の視界を奪えればいい。ふむ……と少し思案した私は、おもむろにサラに問い掛けた。
「……サラって火属性のさ、太陽の魔法とか使った事ある?」
「え? あるにはあるが……」
「ちょっとこれ、上手くいくか分からないんだけど、サラの強い魔力でこう……で、そうしてくれたら私が……」
ゴニョゴニョとサラに耳打ちする。
「何となく原理は分かったけど、アリスそれって……?」
サラは私の拙い説明でも、すぐに理解してくれたみたいだけど、やや混乱気味の様子だった。
「うん、成功するかは正直分からないんだけど……私達のタイミングを合わせれば、勝機はあるから」
私はグッと目の前で拳を作る。1人じゃ威力も魔法も足りないけど、2人でやれば成功する可能性がある筈なんだ。
「よし、アリスの言う通りにやってみよう」
そう言うと、サラは少し後ろに離れて見守っていたシェリとミレーユに、この作戦を急いで伝えに行く。2人は話を聞くとすぐに、私の元へと駆け寄ってきてくれた。
「2人ともごめんね。危ないのに……」
シュンとした私を見た2人は、何言ってるのよと顔を横に振った。
「もっと危ないのはアリスとサラでしょう? もうっ……さっきは肝が冷えたわ……」
「シェリの言う通りだわ。私達に出来る事なら、頑張ってみるわよ。これでも魔法学園の生徒ですもの」
「それに、さっきは魔法で魔獣を足止めしてくれてありがとう、アリス。おかげで広場に居た人達の避難はできたわ」
シェリの話を聞いて、くるっと周りを見渡すと、私たち4人以外、誰もいなくなっていた事に気づく。
「騎士様への伝達は上手くいってるから、あと少しで到着するはずよ。でも大丈夫なの……?」
シェリが心配そうな表情を浮かべるので、私は敢えてヘラッと笑った。
「大丈夫。いざとなったら、ね?」
私の含みのある言い方で、魔法が上手くいかなかった時に、私が秘密にしている水魔法を使う気でいる事が、分かったようだった。
「……っ! アリス、もう時間がなさそうだ! 先に魔法を発動させるぞ!」
「うん! お願い!」
太陽を見上げて唱えたサラの魔法は、正しく発動しているようだった。よし、この角度で合ってるはず……
私は、あと数秒で壊れるであろう、亀裂の入った壁を見つめて、スッと目を見据えた。
もっと、もっと集中するんだ私。
イメージを明確に……片腕を前に伸ばして、手のひらを広げた。
『標的、狙いを定めよ』
『太陽光の奇術』
……こんな魔法、教科書に載ってませんけどねっ……!!!
土壁が激しい音を立てながら壊れ、魔獣が私に目を向けたのとほぼ同時に、私はタイミングを合わせて勢いよく魔法を発動させた。
サラの魔法で強化された太陽の光。それを私の魔法で細く線状に絞り、生み出した鏡を通して光を反射させる。その激しい光線は、魔獣の目だけをピンポイントで襲った。
「グガァァッ!?」
魔獣は視界を奪われて、一瞬怯んだ。
「今だっ!!!!」
サラの掛け声に重なるように、シェリとミレーユの唱えた氷魔法が、追い討ちをかける。
『急速強化! 凍結のベール』
パキン、パキンと音を立てて、魔獣は瞬く間に生きたまま、まるで彫刻のように氷漬けになったのだった。
「……シェリ、ミレーユ、すごいっ! サラも、皆大成功だよー!」
皆かっこよすぎるっ……!
私が1人でパチパチと拍手をしていると、突然横にシュッと、人が現れた。
「ひょっ!?」
ちょっと気を抜いていたので、物凄くビックリした。この世界、忍者意識高い人が多くないですか……?
「オイオイ……こんな目立つ所でご令嬢が暴れてちゃ、噂になんぜ?」
私が驚きながらもチラリと見たその人は、パッと見、全身黒かった。けれど着ている物は、見ただけでも上等そうな物だと分かる。
何というか……騎士服のマントをやめてフードを付けてカジュアルに、なるべく身軽にしました、みたいな格好だ。服には見る限り、金属の装飾も付けていない。
頭に被っているフードが大きくて、目元がこちらからよく見えなかった。
だけど一瞬、風がたなびいて、フードの隙間から見えたその目は……
「オッドアイ……」
片目が金色であった。あれ? 私、この人の事を知ってるような気がする……?
「ったく、王宮騎士団も来るのがおせぇよなぁ……」
その人はぶつくさ言いながら、凍った魔獣を指差して、気怠げに魔法を唱えた。
『闇夜に問え 審判の監獄』
闇の捕縛魔法で、あっという間に魔獣を檻で囲ったのだった。この暑さじゃ厚い氷でも、もしかしたら溶けるのが少し早いかなと心配だったから有難い。
「おぉ……ありがとうございます」
ほわ〜っと、隣で感心しながらお礼を言う私に、その人は心底呆れた様子である。
「あのさぁ。キミ、得体も知らない奴に、簡単にお礼なんか言わねぇ方がいいと思うけど?」
そう言われて、距離を縮められたかと思うと、クイッと顎に指をかけられた。
「闇魔法を使う奴はな、大抵が要注意人物なんだぜ?」
でもなぁ……そんな風に怖がらせてきたって、もう分かっちゃったんだもの。
私は八の字眉の困った顔をして、ぽそっと呟く。
「だって、貴方はニャーさん。だから大丈夫ですよね?」
猫みたいな金目のオッドアイですし、と私は笑って、自分の目を指差したのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)
次回、ニャーさんの謎は解けます。