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第44話 夏の過ごし方1

 



「「「おかえりなさいませ、アリスティアお嬢様」」」



「ただいま。皆忙しいのに出迎えまで……わざわざありがとね」


 私はそう言って、出迎えてくれた使用人の皆に、ニコッと笑った。



 ようやく夏季休暇に入り、家に帰ってきた。久し振りの我が家だ……!


「「おかえりアリス」」


 母様とクリス兄様も、わざわざ玄関ホールで待っていてくれたようだった。


「ただいま、母様、クリス兄様。あれ? 父様はまだいないんだ?」


 いつもの父様からのタックルが来ないので可笑しいなと思ったら、タックルをかます張本人がいないのである。


「最近王宮で色々と忙しいみたいなのよ。今日はアリスが帰って来るから、絶対早く帰るって意気込んでたけど……」


「きっと夕食前には帰ってくるよ。ほら、アリスは制服を着替えておいで」


「はーい」


 私の返事を聞くや否や、メイドのデイジーがさっと私の後ろに現れた。おぅ、忍者かな……


「お荷物は、既にお部屋の方に置かせていただきました。さ、お召替えに参りましょう」


「デイジー、何か張り切ってない?」


 私が後ろを振り返って問いかけると、デイジーは目をカッと見開いた。


 思わずたじろぐ私。こ、怖いんですけど……?


「勿論ですっ! この3ヶ月、お嬢様を着飾らせる事がなくなり、寂しくて寂しくてっ……!」


「そ、そっかぁ……」


 クッと歯を食いしばるデイジーに、私はそれしか言えなかったのであった。



 自室に戻った私は、デイジーの手を借りて制服から部屋着のドレスに着替えた。


 学園にいる時は、ほとんどが制服か自分1人でも着れる簡素化したドレスだったので、着付けてもらうドレスが早くも懐かしく感じる。



 ちなみに今日はデイジーのオススメを着る事に。というか、やる気いっぱいのデイジーにお任せする事にしたのである。今日はもう用事もないし、家に居るだけなのに、張り切りようが凄いの何のその。


 胸元と袖にフリルをあしらった、オフオワイトの7分袖ブラウスに、光沢のあるワインレッドと、同系色のチェック柄を重ねたドレススカート。ブラウスとドレスのつなぎの部分は、ドレスと同色のコルセットベルトをして、後ろはリボンになっている。


 髪の毛も久しぶりに緩くアップにしてもらった。前世の7月と比べると、カラッとしていて比較的楽だけど、やっぱり夏は暑いしね……



 身支度を終えると、すっかり侯爵令嬢らしくなった私が、鏡に映っていた。


「はぁ……完璧です、お嬢様」


「あ、ありがとう。私が完璧なんじゃなくて、デイジーの腕が完璧なんだけどね?」


「いいえ! 可愛らしいお嬢様を見てると、創作意欲がどんどん湧くんです! 明日はどんな格好に致しましょうか……」


「え〜と、明日もお任せでお願いしまーす……」


 私はその気迫に負けて、そう言って逃げる様に部屋を出たのだった。



 居間に行くと、お茶の準備がされており、私は椅子に腰を下ろす。フゥ、とアイスミルクティーを飲んで、やっとひと息つけた気がした。


「そうそう、アリス。言ってなかったのだけど、キャロルがね、妊娠したそうなのよ。だから夏に帰省予定だったけれど、こっちに来るのは控える事にしたらしいわ」


 帰ってきて早々に、母様から突然のおめでたい話を聞いた私は、目が点になった。これでも令嬢なので、ミルクティーはギリギリ吹き出してない。


「えぇっ!? うわぁ、おめでとうキャロル姉様……! 遊びに来れないのは残念だけど……それなら、休み中にお祝いの手紙でも送ろうかな?」


「ふふ、そうしてあげて。家に届いた手紙のほとんどはアリスの事ばかり書いてあって、心配してるみたいだったから」


「う〜ん、心配するような事は全然ないんだけどなぁ……授業も一応ついていけてると思うし」


「そうだ、アリス。魔法はすっかり慣れてきた? 水魔法の練習は個別に隠れてやらなきゃだから、大変だったろう?」


「魔法は大分コントロール出来るようになって、先生からも大丈夫そうって言ってもらえたの。水魔法は普段シェリと一緒に練習してるんだけど、強力な助っ人がいるから問題ないよ」


「強力な助っ人?」


「うん、殿下とフォルト様」


「あ〜……アリスとシェリーナ嬢だから、その2人が率先して出てくるのか……」



 クリス兄様は、なるほどな、と納得した様子である。母様はそんな私たちのやり取りを、ニコニコとしながら聞いているようだった。


 私が学園での出来事を色々と話していると、ドアの向こうからドタバタと近づいてくる足音が聞こえた。出迎えを待てない父様が帰ってきたのかな、と思っている内に、バァーンと居間の扉が開いた。この騒がしさ、ここは本当に侯爵家なのだろうか……?



「アリスゥゥゥ、おかえりぃぃぃっ!!」


「ぐぇっ……ワ〜トウサマモオカエリナサイマセ〜……」


 毎度上手く父様のタックルをかわせない私は、モゴモゴと棒読みの返事をしたのだった。


「貴方、今日も忙しかったの?」


「そうなんだよ、聞いてくれるか? もうやだ、リバーヘン帝国……残業させるから、嫌いになりそう……」



 ……ん?


 リバーヘン帝国って、ルネ様とミレーユの出身国じゃないか?


 ぶつくさ言っているタックル父様から、ようやく逃れた私は、話に耳を傾ける事にした。


「なんだか最近、リバーヘン帝国の方で揉め事が起きてるらしいって噂があってね。うちの国も一応昔リバーヘンと色々あったから、その情報収集とかで、全然関係ない部署の私が、宰相殿直々に頼まれちゃってねぇ……通常業務に加えてやってるから忙しくて」


「父上、結局その揉め事って、何なのか分かったんですか?」


「うむ、どうやら王子2人の王位継承権争いみたいだ。あそこの王子達は双子だから、まぁいずれ揉めるかもとは噂されてたんだがな。最近王子を取り囲む貴族が派閥に分かれ始めて、活発化してるようだ」



 うわぁ……修羅場だ……


 ルネ様が、夏は忙しくてリバーヘンに帰るって話してたのは、これの件なのかなぁ……と、ふと思った私である。



「リバーヘンの現国王は、まだ明確に決める時期ではないと仰っているらしいが、一部の貴族が先走っている感じだろうな。国王も頭が痛いだろうね……」


 残業は許せないけれど、国王には同情するよ……と言いながら、父様はため息をついたのだった。




いつもありがとうございます(*´꒳`*)

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