第39話 お菓子作りと特訓2nd
休日、私は腕の中に荷物を抱えて、シェリの部屋の前にやって来ていた。
「マーク様、シェリーナ様が出てこられるまで、ひとまず荷物をお預かりしましょうか?」
扉の前に待機しているカルセルク家の従者の方に、そんな風に有り難く声を掛けてもらう。
「大丈夫です、ありがとうございます」
私はニコッと笑って答えた。これは今日の大事なアイテムなのでね……!
よいしょと荷物を抱え直していると、部屋の扉が開いた。
「アリス、いらっしゃい」
「休みの日にごめんね。お邪魔します〜」
ここは、毎回本当に寮かと疑うレベルの広さである。何度か遊びに来ているけれど、未だに中々見慣れない。
部屋は一通りの料理が出来るくらい充分なキッチン付きで、まるでリビングダイニングみたいである。まぁ、今日はその素晴らしい設備をお借りする予定で、お邪魔しているのだけれども。
ふふふ……今回の私は、用意周到なのだ……!
というのも、先日水魔法の特訓をした時、特別講師が殿下とフォルト様だったというドッキリを受けた私。何だかんだでその日、私はフォルト様とマンツーマンで特訓する事になり、そのお礼をしますと約束したのだった。
えーっと……そのお礼をまだ出来ていない事に、最近気が付きまして。
貰っても迷惑にならない物……と考えた時に、消え物つまりはお菓子に決めた。フォルト様なら私が作ったやつでも、普段よくカルセルク家へ遊びに行った時に持っていっているので、多分大丈夫だと思うのだ。
そういう訳で、手作りお菓子をお礼として渡す事にしたのだけれど。どうせなら前に話していた、次の水魔法訓練がある日に渡そうと、私は考えたのである。
……となると、またドッキリをされても困る……!
それに気づいた私は、フォルト様へのお礼のお菓子を渡したい事と、それ故に水魔法訓練をもしまたやるならば、日程を事前に教えてほしい事を、シェリに話したのだった。
あの時は2回目をやるのが、冗談なのか本気なのか、よく分からなかったけれど……本当に次回があるのなら、その日に私が逆ドッキリしたいなと思った次第である。
シェリは「そういう事なら、勿論協力するわ」と、快く頷いてくれた。しかもお菓子作りの場所として、部屋まで提供してくれたのだから、もうシェリには頭が上がらない。
「よしっ! 作りますか!」
私はエプロンを付けて腕をまくり、気合いを入れた。ポニーテールにした髪の毛が、ぴょこぴょこと揺れる。
「結局何を作る事にしたの?」
シェリが、ひょいと横から私の手元を覗き込む。
「ん〜……簡単だけど、クッキーにしようかなって。日持ちもするし、焼け具合も良く分かるから生焼けの心配もないしね」
可愛くラッピングをすれば、きっとそれなりの見た目にもなるだろう。
「ねぇ、アリス。それって……私でも作れるかしら……?」
シェリがちょっと躊躇いがちに、私に問いかけた。
「一緒に作る? 簡単だから大丈夫だよ! それに、殿下にあげたら凄く喜ぶと思う……!」
「シェリーナお嬢様……」
私たちがキャッキャしていると、スッとカルセルク家のメイドの方が、音もなく現れた。
「ロニー……?」
シェリが不安そうな顔をする。
あ、やっぱり公爵令嬢は、普通料理なんてやらないですよね……? 私がハラハラしていると、ロニーさんはササッと、白いフリルのエプロンを広げた。
「「……ん?」」
「お菓子を作るなら、こちらを是非着用していただいて。お髪もまとめましょう」
「え? えぇ、そうね……?」
あれよあれよと言う間に、シェリはロニーさんの手によって、可愛く髪を2つに結んだ、お菓子作りスタイルに変身したのだった。ロニーさんは実に満足げな様子である。あ、着飾らせたかっただけなのですね、ロニーさん……
こうして私はシェリに教えながら、一緒にクッキー作りを楽しんだのだった。私はナッツ入りのココアクッキーを、シェリは紅茶クッキーを、無事に美味しく作る事が出来て、明日が楽しみで仕方がない。
────────────────
第2回、水魔法の特訓デーがやって来た。
勿論今回も、放課後に室内実技場の個人練習室を借りている。
「お忙しい中すみません。よろしくお願いします」
私はフォルト様に、深々お辞儀をした。
「いや、構わない。アリスティアも、夏季休暇に入る前に、ある程度魔力のコントロールが出来ていれば安心だろう?」
「はいっ! 休み明けは実技試験もあるので、コントロールのお墨付きを貰えるように、頑張ります!」
「じゃあまずは前回やった、初級の水魔法をもう一度」
私は背筋を伸ばしてふぅ、と息を吐き、集中する。まずはほんのちょっぴりの魔力で……伸ばした手をゆっくりと開きながら、言葉を発した。
『舞い降りて 粉雪』
手のひらから雪が生まれると、ぱぁっと上がり、防御壁の上でフワリフワリと舞っていた。
よしよし、これなら加減も抑えられているはず……!
かく言う私は、前回の特訓の時よりも、だいぶ魔力調節に慣れてきていた。空いた放課後はコツコツと個人練習を重ねていたので、そのおかげだろうか。
初級魔法はちゃんと威力を抑えられるし、その逆も然り、魔力を増やして威力を上げる事も出来る様になったのだ。えっへん。落ち着いてやれば出来るのですよ、私も。
フォルト様は、そんな私の成長っぷりにちょっと驚いたようで「……想像以上に努力家なんだな」と、呟くように褒めてくれたのだった。
「これならコントロールは問題ない。あとは魔法の種類を増やして、臨機応変に判断する事だな」
「はい!」
「フォルト兄様、アリス。今ちょっと大丈夫かしら?」
隣からシェリの声が聞こえた。
「どうかしたか?」
「殿下もいてくださるし、今日は光魔法を少し試してみようかなって思ったのだけど、2人にも見てもらえたらと思って……」
おぉ、ついに光魔法に挑戦するのね……!
「勿論付き合うよ!」
「光魔法自体、滅多に見ないから何があるか分からないしな。気をつけろよ、シェリ」
私とフォルト様は一旦練習を中断して、シェリの光魔法の挑戦を見守る事となったのである。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)