第34話 光を持つ者の意志
「真実を話す事は、安心と不安のどちらも与える事になるからな。要らぬ心配をかけない様にと配慮した結果、それが裏目に出てしまった」
殿下はようやくカップを手に取ると、紅茶を一口飲んで、少し困った様に微笑んだ。
「殿下……」
シェリは、殿下の複雑な気持ちを思ってか、辛そうな表情をしていた。
「……さぁさぁ! この後が本番なんだから、今は昼食を食べようね? ほら、アリスティア嬢とフォルトを見習って?」
エヴァン様、それは誉めているのでしょうか……?
……丁度サンドイッチをモグモグしている所だったので、物凄く気まずい。何か、シリアスな空気を読めないやつみたいじゃないですか……
「……そうだな」
「そうですね」
殿下とシェリは、私たちの食べっぷりを見て、何とも言えない表情で頷いたのだった。
────────────────
午後。講堂には全校生徒が集まり、ザワザワとしながら集会が始まるのを待っていた。私とシェリも、自分のクラスの列に合流する。
「……私、ちゃんと光魔法を扱える様に、しっかり頑張りたいわ」
ポツリと、シェリの心の声がこぼれた。
「シェリ……」
「折角持つ事が出来たこの魔法、王国の皆の為に使えるようになりたい……」
そう言いながらシェリは、壇上に立った殿下をただ、真っ直ぐと見据えていた。
「うん。私も出来る事は少ないかもしれないけど、サポートするよ」
頑張ろうとしているシェリの背中を押してあげたいな。そう思った私なのだった。
殿下はスッと壇上に立つと、生徒達をゆっくりと見渡して、口を開いた。
「今日は突然集会を開く事になり、驚かせたと思う。この集会は、ルルクナイツ魔法学園の生徒会長としてではなく、エタリオル王国の王族としての発言と捉えて貰ってよい」
殿下の雰囲気が、親しみやすい生徒会長から一気に威厳のある王族の雰囲気へと変わった。
「今朝から広まった噂を、皆は耳にしただろうか。改めて僕の口から言わせてもらうと、国境近くの村に隣接した森で、魔獣の出現が確認されたのは本当だ」
講堂内が、やや騒つく。殿下は頃合いを見てサッと手を挙げ、場を静めた。
「この件は、国民を不安にさせない様、状況が把握出来次第、公表する予定であった。……が、何処かから情報が漏えいし、先に学園内で噂として広まったようだ。僕は噂の情報をそのまま信じてもらうよりも、陛下からの正確な情報を皆に聞いてもらいたいと思う。魔獣出現についてだが、自然に生まれたものではないと調査で判明した。つまり、村に隣接した森の危険性はない」
講堂内はホッとした様子に包まれたが、殿下の続けた言葉で、またもや騒つく事となる。
「……しかし、自然発生ではないと考えると、故意に魔獣を出現させた者がいるという事だ」
うわ、そうなるとやっぱり愉快犯じゃない……?
周囲の皆も、困惑や驚き、不安といった様子で、殿下の次の言葉を待っているようだった。
「誰が、どのように魔獣を出現させたかについては、現在も調査中である。故に明言は避けるが、意図的に魔獣を放した可能性が高い。王家としては、まず村の安全確保を第一にして、森での現場検証を行い、犯人の捜索をしている。尚、怪我人が数名出ているが、皆命に別条はない」
殿下の言葉に、私とシェリは思わずホッとため息をこぼした。怪我人は出てしまったけれど、亡くなった人がいなかったのは幸いだろう。
「皆には色々な憶測をさせ、不安な気持ちにもさせてしまったと思う。今後も新しい情報は、僕の方から皆に共有できるよう、配慮していくつもりだ。又、今回の噂は真実であったが、今後再び流れるかもしれない噂については間に受けないよう、各々注意してほしい」
殿下はそう話し、集会を締めくくったのだった。
「魔獣を出現させるなんて、どうやったのかしらね……」
「何処へでも出現させられるって、絶対危険だよな?」
「村の人達が無事でよかった……噂を聞いた時それが心配で……」
講堂から出て行く皆の声は様々だった。まぁ暫くはこの話題で持ちきりだろう。
学園集会後、今日はそのまま午後の授業が休講となった。
つまりこの後はフリーなのだ。そうだ、それならと、私はシェリに1つ提案をする。
「ねぇねぇ。思い立ったが吉日という事で、今日は空いた時間で図書館に行かない?」
「え? 思い立ったが吉日って?」
「えと……思いついた時に行動を起こすといい事あるよ! ……みたいな感じ?」
うろ覚えのことわざ解説をする私を見て、シェリはクスクスと笑った。
「アリスは難しい言葉を知ってるのね。そうね、折角だしこれから行きましょうか」
「うん!」
よし、今日はシェリの為に、光魔法の情報集めを頑張るぞ……!
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




