第32話 混ざる思惑と噂
繋ぎ部分なので、少し短めです。
騎士様たちの訓練見学を終えて、女子寮内に入ろうとした時に、私は何時ぞやの視線をまた感じた。パッと振り返るが、やっぱり視線を感じた所には、誰も、何もいなかった。
3度目ともなると、恒例のオカルト行事のようだ。私は段々怖い気持ちよりも、諦めの気持ちが勝ってきたものである。
「恒例!猫様の視線チェック〜!」と、頭の中に番組のトークコーナーのタイトルが想像できてしまい、ちょっと面白くなった。
「もしかして、またなの?」
シェリが心配そうにこっちを見た。
「うん。何かもう、猫の保護者みたいな感じなのかな……」
どうにもならないのなら、この視線は見守ってくれている保護者だと思うようにしよう。そう割り切った私なのだった。まぁ実害は、今のところ何もないのでね……
「シェリ、私は心の中で、この視線の持ち主を、ニャーさんと呼ぶ事にしたよ」と、言いながら頷く私。
「えぇ? もう猫だって結論付けたの?」
「うん。だってどう頑張っても姿は見えないし、じゃあもう、私の想像にお任せでいいって事かなと思って……」
見守り、どうぞよろしくお願いします、ニャーさん。
なむなむ。さっきまで視線を感じたところに向かって、手を合わせて拝んでおいた。
「アリスったら、この前はあんなに不安そうにしてたのに。割り切るのが早くて潔いわね」と、シェリは楽しそうに、クスクスと笑いながらそう言った。
「うん。自他共に認める怖がりだけど、気にしすぎるのも良くないからね」
えへへ、と私はちょっと笑ったのだった。
???「……あの子、まじで変なあだ名付けやがったな……!」
その頃のニャーさん(仮)は「くそっ、もうちょっとで目の前に出て行ってやろうかと思ったぜ……!」と、プンプンしていたのだった。
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時と場所は変わって、深夜。
とある屋敷の地下室にて。
そこでは怪しげな男が、独り言を呟いていた。
「…………ふふ。出来た、出来たぞ……?」
薄暗い地下室の中心には、謎の魔法陣が組まれ、仄暗い光を灯っている。その前に、男は立ち尽くしていた。
「あぁ、あの御方も、この研究結果をみて、私の事を更に評価してくださるだろう……!」
男は狂ったように、ブツブツと1人呟き続ける。
「これをまずは、どこかで実験する事から始めようじゃないか……本番の為に、念には念を入れないとな……」
男の声は、誰にも聞かれる事なく、闇夜に消えていった。
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その日の教室はやけに騒がしかった。
教室のザワザワとした雰囲気に、私とシェリは、どうしたんだろう? と顔を見合わせた。
私は近くにいたクラスの女の子達に声をかけ、何かあったのかと聞いてみた。女の子は「あの、噂なんですけど」とおずおずと口を開く。
「国境近くの村に隣接してる森で、魔獣が出現したって本当なんでしょうか……?」
「え……?」
私は首を傾げる。そんな噂、初めて聞いたぞ……?
また別の子も「その森って魔獣が出るとは言われてなかった森ですよね? 新たに生まれるようになってしまったって事なのかしら……?」と、心配そうに話している。
「ちょ、ちょっと待って。皆さん、その噂はどこで聞いたものなの?」
シェリも、不思議そうに問いかける。
だが皆、今朝友人から聞いた噂話なのだと話し、噂の根本が分からないのだった。ましてや、クラスの子が、特段嘘をついているようにも見えない。
一体どこから流れた噂なんだ……?
それに、この噂は本当の事なの……?
……何の因果か、ここ数日私の周りは、やけにオカルトじみているな……
「シェリ、これって殿下に相談案件な気がするよね?」
「そうね。噂が本当なのか、直接聞いてみましょう」シェリも神妙そうな面持ちで頷いた。
「もしも本当だとしたら、村の人たちも不安でしょうし……怪我人が出ていないかとか、すごく気になるわ」
村に魔獣対策がされているとは限らないし、そもそも普通の人は魔獣なんか倒せないだろうから心配だ。
とにかく、殿下に会って話を聞かない事には、何が正しい情報なのかが分からない……!
私たちは、お昼休みをまだかまだかと、歯痒い気持ちで待ち続けるのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)