第31話 見習い騎士様、応援します!
気が付けば長くなってました……!(当作比)
「でも王国騎士団の方達って、改めてすごいなって思ったよね」
そう私がラウル君と話していると、サラが私たちの席のところにやって来た。
「ん? アリスもラウルも騎士に興味を持ったか?」
話が聞こえたのか、ニコニコと嬉しそうにしている。興味はあるけれど、興味の意味合いがサラとちょっと違うのですよ。
「サラ、私はね? ものすごい運動音痴なの。騎士様のような動きが出来たら、それはもう世紀末だよ」
「僕も運動はそんなに得意じゃなくて……」
「そ、そうか。でもよかったら、これを機に騎士見習いの訓練風景でも見に来ないか? 2人が来たら、きっと場の士気も高まると思うんだが」
この学園では、騎士志望の子や騎士科の先輩方が、放課後に集まって自主訓練に励んでいるらしい。サラも入学して、すぐに参加していたそうだ。部活動みたいな感じなのかな。
私が行ったところで場の士気が上がるとは思えないんですけども……? まぁ、ラウル君なら確かに老若男女問わず、癒しを与えられると思うけど。
「う〜ん、見習い騎士様たちの士気を上げるなら、シェリが適任だと思うけど……あ、折角行くならシェリも誘う?」
私が顎に手を当てて考えながら話すと、教室にいた見習い騎士の男の子達が、ピクリと肩を動かした。……お?
サラがそれを見て、ニヤリと笑う。
「よし、シェリも誘おう。友達が見に来てくれるのも嬉しいし、訓練にも力が入っていい事ずくめだな」と言いながら、サラは足取り軽く、シェリの元へ向かうのだった。
フットワーク、軽いなぁ……
あっという間に、シェリに放課後の約束を取り付けたサラなのであった。
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放課後、私とシェリ、ラウル君は教室棟から出てすぐの、屋外グラウンドに足を運んだ。
グラウンドは室内実技場の屋根なしバージョンのような形で、コロッセオ風の造りである。
既に訓練は始まっていたようで、木刀を使った打ち合いが行われていた。私たちはひとまず、階段状になっている観覧席の、1番前の見えやすい席に座って見学する事に。私たち以外にも、女の子の見学者が結構チラホラときているみたいだけれど、なんでわざわざ士気云々の話を、サラはしてたんだろう……?
「わぁ……迫力がありますね……」
「うん。木刀だけど、音もすごいね……」
グラウンド場内に、木刀の打ち合う音が響く。やっぱり普段から鍛えている人達は違うなぁ……と、私とラウル君は感心しっぱなしであった。
「あら、あそこにいるのがサラかしら?」
シェリが見つめる方向に、サラらしき赤髪ポニーテールの後ろ姿が見えた。顔は面を付けているので分からなかったが、きっとあの髪型はそうだろう。
サラは、驚く事に男の子と互角にやり合っていた。いや、なんなら優勢である。あの辺境伯ナースズ家で鍛えているだけの事があるなぁと、私は感心した。
しばらく訓練を眺めていると、ひと段落ついたのか、休憩時間になったようだ。私たちは席から立ち上がり、観覧席の前にあるフェンスに手を掛けて捕まりながら「サラ〜〜〜」と、グラウンドに向かって声を掛ける。
声が届いたのか、サラが面を取って頭を払った。こちらを振り返り、「アリス、シェリ、ラウル」と、片手を挙げて笑顔で答えてくれる。
あ、その仕草はかっこいいわ、サラ。
と、私が思ったのも束の間。近くに座っていた女の子たちの「キャアッ!」という黄色い悲鳴が上がった。
「サラ様ぁー!」や「はぁ……素敵ですわ……」などの声も、後ろから沢山聞こえて来る。
もしかしてこの女の子たち、ほとんどがサラのファンなのでは……?
私は士気を上げるの意味が、何となく分かった気がしたのだった。他の見習い騎士様、ご愁傷様です……
ふとグラウンドを見渡していると、同じクラスの男の子と目があったので、労いも込めて「頑張ってください〜」と手を振る。
男の子はたちまち顔を赤らめたかと思うと、ものすごい勢いで、ペコッとお辞儀を返してくれた。私の応援なんかでやる気を上げてくれるのなら、是非とも応援させていただこう。
「よしっ! シェリもラウル君も、見習い騎士様を応援しようっ?」
「えっ! ぼ、僕もですかっ!?」
「ふふっ、今日は騎士様たちへの応援デーね。頑張って応援しましょ? 私もラウル様に笑顔を向けられたら、心が休まるもの。騎士様方の疲れも、きっと吹き飛ぶと思うわ」
これぞセラピーラウル君だ……!
シェリにもそう褒められ、ラウル君も「そ、それなら頑張りますっ!」と言ってくれた。
私たち3人はよーし、と意気込んで、笑顔で応援をしたのだった。
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アリス達が観客席に腰を下ろしていた頃。
グラウンド場内では、実はこんな会話が飛び交っていた。
「お、おい! あそこに座ってるのって特Aクラスの有名な1年生じゃないか?」
「うわっ、カルセルク公爵家のシェリーナ様だ! やっぱりすごい美人だな……お美しい……」
「真ん中にいるのって、アリスティア・マーク嬢じゃね? え、めちゃめちゃ可愛い」
「ちょっと待って、その隣はラウル・ポトリー君じゃない!? 平民だけど貴族からも愛されるザ・天使! やだ、浄化されちゃう!」
ちなみにこれは、騎士科のお姉様の発言である。
「ふふふ、先輩方? あの3人は私の友人ですけど、騎士に興味を持ってくれて、見学しに来てくれたんですよ」
サラがドヤ顔でそう話すと、グラウンド内がざわついた。
「ちょ、おま……あれだけ女子ファンを捕まえておきながらも、あんな美人たちとも友人って、羨ましすぎるだろ……」
「友人になったのはたまたま気が合ったからですけどね。先輩方が、士気を上げたいってボヤいてたじゃないですか、だから見学に誘ったんです。私も友人が見に来てくれたらやる気も上がりますし。更には場の士気も上がって、いつも以上に鍛えられて最高ですよね」
サラの発言を聞いた先輩は、死んだ目でジトッと見ながら「お前も一応辺境伯のご令嬢なんだから、戦闘狂ってあだ名付けられないように気をつけろよ……」と忠告したのだった。
騎士科の先輩の有り難い忠告は、全く聞こえていないフリのサラなのである。
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おまけ
〜アリスが同じクラスの男子に手を振った時〜
「……っ!! マーク令嬢、俺の事覚えてくれてたんだ、うわー嬉し!」
手を振られた男子は、赤くなった顔をパタパタと仰ぐ。
「お前、同じクラスでまじ羨ましいな……」
「俺もパタナーシュ様みたいに、アリスちゃんって呼びたい……」
近くで見ていた男子達は、そんな事を思い思いにボヤいていたのだった。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)