第30話 魔獣
飼育場見学をして数日も経たないうちに、ローラン先生が言っていた通り、歴史学で魔獣について学ぶ事になった。ローラン先生、カリキュラムをよくご存知で……
歴史学担当は、おじいちゃん先生のバジル・モラクス先生である。のんびりおっとりとした先生で、語りかけるような歴史の授業は、気をつけないと眠りを誘ってくるのだ……!(特に午後)
モラクス先生は、いつも通り穏やかな様子で授業を始めた。
「今日は、皆さんに特にきちんと学んでもらいたい、魔獣についての授業です。普段私たちが生活している中で、魔獣に出会う事はまずありませんね? というのも、皆さん知っての通り、各国には名称は各々違えど【王国騎士団】が存在します。我が王国にも勿論その騎士団があり、魔獣が潜み、生まれるとされる森でスタンピード(魔獣の大量発生による暴走・変異)を防ぎ、私たちの安全を守る為、定期的に討伐をしてくれています」
カツカツ、と黒板に図を用いながら、魔獣と騎士団の説明が書かれていく。
「又、魔獣の森へは基本的に立ち入りが禁止されており、入るには許可が必要です」
先生は、図で表した魔獣の森の箇所にバツ印を書き足した。
「……が、君たちは魔法学園の学生という事で、半年後に森での実技試験がある為、森に行く事になります」
先生のその言葉を聞き、一気に教室内がざわついた。
事前に知っていた子がほとんどだろうけれど、先生の口から直接聞いて、青ざめた表情の子や険しい顔をして黙っている子など、皆反応は様々だった。
かく言う私も、騎士団の魔獣討伐の話は、家庭教師の先生から聞いた事があったし、森での実技試験がある事は、卒業生であるクリス兄様やキャロル姉様から聞いていた。
ただ、兄様たちの話によると、実技試験の内容は学園長の判断で、毎年変わったりするらしいんだよね……
……はっ!
つまりは、試験対策が立てれないって事になる訳でだよね……!?
その場での判断力を試すって事なのかなぁ……?
皆が深刻そうな様子でいる中、そんな事を頭の中で駆け巡らせていた私は、百面相かの如く、表情をコロコロと変えていた。グレイ先生が見たら、また呆れられる可能性大だ。まぁ、見られてないからセーフですけども。
「はい、皆さん静かに。皆さんが心配しているような事はありませんから、安心してください。そもそも入学して半年しか経たない1年生に、魔獣の群れを倒すようになんて、そんな無茶を学園が言うと思いますか?」
先生は皆を落ち着かせるように、少し微笑んでそう話を続けたのだった。
それは確かに。魔法を習い始めて半年で、どこまで出来るかと聞かれたら、魔獣を倒す程の威力のある魔法を使えるかなんて分からないもんね。
「そもそも魔獣の森は、周囲が魔法のかかった塀や柵で囲われていて、騎士団管轄の下、常に監視しています。定期的な討伐のおかげで、森の奥、つまり森の中心部まで行かなければ、魔獣はまず現れません。数自体もだいぶ減ってきているので、定められた範囲から出なければ安全です」
先生の言葉を聞き、教室内はホッとした空気が流れる。
「今年の実技試験の内容は言えませんが、魔獣を1人で倒してくるように、なんて事はないので安心しなさい。ただ、騎士団の魔獣討伐の様子を見学させてもらう事にはなるとは思います。騎士志望の子たちは先輩方の現地での働きを見れるいい機会ですから」
騎士団の方たちはやっぱり強くてかっこいいですよねぇ、と言いながら、先生がしみじみと思いを馳せている。
私が騎士志望のサラにチラッと視線を向けると、目を輝かせて先生の話を聞いていたようだ。
サラはきっと、今から楽しみで仕方ないんだろうなぁ……と思ったのだった。
「時代は進み、各国との戦争がなくなった今、魔法が人との争いに使われる事もなくなった、とは言えませんが、だいぶ少なくなりました。今は魔法が、国民の生活をよりよくしていく為、王国騎士団が国民や街を犯罪者から守る為、そして魔獣討伐の為に使用しているのが主です。
君たちの生まれ持ったその魔法属性を、どのような形で使っていくかは君たち次第です。魔法を研究していくも良し。騎士となって魔法を使うも良し。魔法を様々な分野で取り入れて、生活を発展させていくも良し、です。神からの贈り物だと思って大切にし、君たちの思う方法で王国を支えていってくださいね」
先生はそう言って、授業を締めくくった。
授業が終わってからも、教室では魔獣の事や、実技試験の事などの話題で賑わっていた。私も前の席に座っているラウル君に話を振る。
「ラウル君は森に行くって事、知らなかったんだね?」
「はい、魔獣の森の存在は、お伽話として平民でも小さい頃から聞かされていますから知ってましたけれど……入ってはいけないと言われていた森に、まさか自分が行く事になるとは思ってなかったです……」
やや青ざめた表情で語るラウル君を見て、私は事前に話してあげればよかったなと後悔した。半年後の実技試験の事を、すっかり忘れてた私が悪かったです。
「魔獣の森の事は考えると怖くなっちゃうから、今は別の事を考えよう? ラウル君は将来の夢とか、進路希望はある?」
「そうですね……僕はやっぱり動物に関わる仕事がしたいです。ローラン先生みたいな感じが理想ですかね」
ラウル君は動物の事が頭に浮かんだのか、顔色が少しよくなったような気がした。
「……なるほど〜」
第2のローラン先生かぁ……と、ちょっと遠い目をした私である。
個人的には天使のラウル君に、あの先生の動物愛強めで、ちょっとネジがズレている感じには、なってもらいたくはないけれども。先生としては尊敬するんですけどね……
「アリス様は、将来何になりたいとかありますか?」
逆にラウル君に問われ、私はうう〜んと首を捻った。
私はこの魔法を使って、将来どうしていきたいんだろうか。
この学園は、2年生からは希望した進路によってクラスが分かれていく。だからこの1年で、ひとまず自分の目指したい将来像を、きちんと見つけられるようにしたいな、と思ったのであった。
……まぁ、今は学ぶ事で精一杯なのだけどね!
「考えてみたけど……まだこれ!っていう夢がなくて。でも魔法をもっと勉強して、自分の可能性を広げてから考えてみたいなって」
何とも情けない、正直な回答になってしまったが、ラウル君は特に気にした様子はなく「アリス様の可能性は無限大っぽいですもんね!」と、言われた。
後々考えると、あれはフォローだったのかよく分からなかったけれど、褒めてくれてたのだと信じる事にした私である。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)