第28話 憩いの場 1
とある日の特Aクラスにて、実にほのぼのとしたやり取りが行われていた。
「今日こそは! 飼育場に行こうと思います!」
「はいっ! アリス様!」
私はラウル君と、目を合わせて強く頷き合った。そんな私たちを、クラスメイトが微笑ましく見守っていたとはつゆ知らず。
なんだかんだ延びてしまっていた飼育場見学に、やっと今日行ける事になったのだ。嬉しくて自然と笑顔が溢れる。
1日中私がソワソワしながら過ごしていたのは、もはや言うまでもないだろう。
終業のチャイムが鳴ってからすぐに、私とラウル君は教室から出た。ちなみにシェリは、今日は王宮でのお妃教育がある為、放課後は別行動である。
「ラウル君はもう何度か行ってるんだよね?」
「はい。小鳥の世話を、途中から飼育場の方で出来る様に、先生に許可してもらったので」
入学式の時にラウル君が見つけた、あの怪我をした小鳥は、学園の飼育場で元気に過ごしているようだ。
楽しみだなぁ……学園探索をしてる時にチラッと見たけど、他にどんな動物がいるんだろう。
そういえば、前世の私も動物が好きで、犬も猫も飼ってたんだよなぁ、とふと思い出して懐かしくなった。
私たちは教室棟を出て、ハーブ園と畑を通り抜けながら道を進む。森の小道を抜ければ、飼育場への到着だ。
「わぁ……モフモフパラダイス……!」
ちょうど飼育場の放牧エリアには、羊にヤギ、ウサギ、プレーリードッグなどのモフモフ達がのんびりとしていた。
……プレーリードッグ?
私はちょっと目を疑ったが、本物のようだった。一体誰の好みなのだろうか……?
「……何でちょっと変わった動物が普通にいるんだろう?」と、思わず口から疑問が溢れた私である。
「飼育している人の好みですかね? ここは魔法薬学の先生が担当されているので、先生がお好きなんでしょうか……?」
はて、とラウル君も首を傾げた。
放牧エリアの柵の外からの入口はないので、こっちから入りましょう、と私はラウル君に案内される。
室内飼育場の方にお邪魔すると、そこにはつなぎの服を着た40代位のダンディなおじ様が清掃作業をされているところだった。
「おっ、ラウル君の友達か?」
「はいっ! 以前から来たいと言ってくれていた、同じクラスのアリスティア・マーク様です!」
「こんにちは、アリスティア・マークと申します。見学の許可、ありがとうございます」
私はおじ様に向かってペコリとお辞儀をした。貴族令嬢と言えど、前世の記憶もあってか、ペコペコする癖は中々抜けない。まぁ、歳上の方への敬意は忘れちゃいけないから、これはこれでいいのだ。
「俺はここの飼育員をやってるトマだ。あんまり女の子はここに来ないから嬉しいねぇ。動物好きなら、是非沢山触っていってあげてくれ」と、トマさんは笑ってくれた。
魔法薬学の先生が担当って聞いていたけれど、確かにこれだけ広い飼育場のお世話は、1人じゃ出来ないですよね。キョロキョロと辺りを見渡すと、個室になっているスペースでは、また別の飼育員の方が、動物のお世話をしている様子だった。
「ここの飼育員さんって沢山いらっしゃるんですね」と、私はトマさんに話しかけた。
「そうだなぁ、ここだけに限らず、学園内では意外と魔法が使えない俺みたいな奴が結構な数働いてるんだよ。学園運営側の事務員とか飼育員、あと食堂関係とかな。裏方仕事が結構多いけど、魔法が使えない分、武道だったり別の能力に長けてる奴も割といるんだ」
「おじさんもこう見えて、いざとなったら斧振り回しちゃうからね!」と、いい笑顔で言われて、私は「わぁ〜猟奇的ぃ……」と、心の中で呟いたのだった。
「アリス様っ! まずはどの動物が見たいですか?」
ふむ。聞いた話によると、動物の種類は両手で数え切れない位いるらしい。どうしようかな……と悩んでいると、少し離れたところから、小さな動物の様なシルエットがこっちに向かって走ってきているようだった。
「「ん?」」
私とラウル君は、何だろうと目を凝らす。トマさんはまたか、と言いながら笑っているけれど、日常茶飯事なのだろうか?
「あっ!? そこの方達〜! すいません、その子捕まえてくださ〜〜〜い!!!!」
別の飼育員さんが慌てた様子で叫んでいる。どうやら何かが逃げ出したらしい。
シュタタタッと、軽快にこっちに向かって走っていたのは……
「……リスザル?」
目がくりくりの、ふわふわとした小さなリスザルだった。
リスザルは、私たちの目の前で急ブレーキが掛かったかのように止まると、私の腰辺りにピョンッとへばり付き、そのままよじよじと上へ登っていく。
「え、えぇ?」
私が為す術もなくじっとしていると、最終的に私の肩の上に座ってフゥ、と言わんばかりに落ち着いたのだった。ものすごく人懐っこいリスザルだな……?
その様子を見ていたトマさんが「ありゃま。コイツ、君の事気に入ったみたいだな。しばらくは離れないと思うぞ?」と、驚きの言葉を告げる。
「えっ!? 私、はじめましてなんですけど、そんな事ってあります……? こ、こんにちは?」
私は肩に乗ったリスザルに、ちょいっと指を差し出して声をかけてみる。キュッと鳴いて、目を合わせてくる姿は中々可愛らしい。
「でもこの子、どうしたらいいんですかね……?」
「なに、リードがあるからそれを付けておけば、飼育場見学は問題ないぞ。散歩がてら、連れて歩いてやってくれ」
やっと追いついた他の飼育員さんから、トマさんがリードを預かると、リスザルの首輪にヒョイとリードを繋いだ。
「このリードを離さなければ、大丈夫。何かあったら、近くにいる飼育員に声を掛けてくれ」
……まぁ、ちょっとした動物触れ合い体験だと思う事にしようかな……そう割り切った、切り替えの早い私なのだった。
「アリス様、どうしましょう? この子がいるなら、屋外より屋内の方を見て回りますか?」
「あ、じゃあラウル君が助けた小鳥の所に行こう? 私もどんな様子か見たかったし」
ひとまず私は、肩にリスザルを乗せたまま、鳥達がいる所を目指したのだった。
……なんか、見学仲間が増えました。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




