第26話 水魔法 秘密の特訓 1
ラウル君の魔力枯渇の件から数日後、放課後に私とシェリは、室内実技場の個人練習室を予約していた。というのも、私が皆に隠している、水魔法の練習をしたいが為に予約したのである。
「今日はよろしくお願いします、シェリ先生」
そう言いながら、シェリに恭しくお辞儀をする私。
「アリスったら、私もまだ習いたてよ? だから今日は、特別講師が来てくれてるわ」と、シェリがクスクス笑いながら話す。
「え、特別講師?」
私の秘密を知っている人って限られているけど、一体誰の事だろう……?
室内実技場の、予約していた練習室の扉を開けると、そこにはなんと、ユーグ殿下とフォルト様が居たのだった。
いや、豪華な講師すぎませんかね……!?
「やぁ、シェリ、アリスティア嬢」
「ご、ご機嫌よう、殿下……」
殿下のいい笑顔に、毎回の事ながら、私は少し引くついた。
「今日は水魔法の練習をしたいんだって? シェリから話は聞いてるよ。やっぱりマンツーマンの方が分かりやすいかなって思って、もう1人、水魔法が使えるフォルトも連れてきたんだ」
……ん? マンツーマン?
シェリが殿下に教えてもらって、つまり私が……?
私はそろ〜りと、目の前にいらっしゃる銀髪美形の顔を見上げると、バチッと目が合った。
「時間が勿体ないな。アリスティア、やるぞ」
あ、ですよね! フォルト様直々に教えていただくのですね……!
「は、はいっ!」
意図せず、まさかの急展開なのだった……!
「アリスティアは他の属性魔法を、一通り試してみたか?」
「はい、初級魔法は問題なく発動しました。ただ、まだ魔力量の調節が上手くいかなくて、コントロール練習をしている所です……」
ふむ、とフォルト様は少し考えていたようだったが「範囲の上限が定まってないと、イメージが広がりすぎて魔力が膨れ上がる。それが課題点なら、この練習室の方が向いてる。グラウンドと違って天井も高くないし、四方を壁で囲われているからな」と、アドバイスをくれた。
そう、個人練習室は1人用から複数人用まで、様々なサイズの部屋がある。
私たちがいるこの部屋も、さほど広くはなく、魔法を放つ最低限の範囲が保たれている程度の大きさなのだった。
なるほど、たしかにこれならイメージを抑えやすい気がする……!
試しに俺がやろう、と防御壁の前に立つと、フォルト様は片手を前に突き出した。
『凍てよ 氷結の矢』
凍った弓矢が、ヒュッと防御壁に向かって数本、ものすごい速さで飛んでいき、砕け散った。辺りに冷気が漂う。
「フォルト様の攻撃魔法、すごく速いですね……?」
「発動までの時間を速めるのも大事だが、攻撃自体のスピードを速めるようにもしている。遅くて当たらなかったら意味がないからな」
魔法が発動すればよいという訳ではないんだなぁ……と、感心しっぱなしの私なのであった。
さて、どんな水魔法を試してみようかな、とうんうん唸っていると、フォルト様にクイッと腕を引かれた。あわわとしている間に、気がつけば防御壁の前に立たされていた。
「ほら、後ろで見てるから。試しに初級をやってみろ」
頭上で優しく話されると、なんだかむず痒い気持ちになる私である。変に緊張してきた、落ち着け私。
フォルト様と同じように、片手を前に突き出して魔力を巡らせる。水の初級魔法……と言えばこれだっ……!
『舞い降りて 粉雪』
フワッと粉雪が、私たちの頭上からふり注ぐ。
……いや、綺麗だけどね? 私は防御壁の方にだけ降らせたかったのですよ。やっぱりまだコントロールが上手くいかないのだった。
「わっわっ、また範囲が広すぎましたっ! 寒いですよね、すみません!」
私は慌てて、フォルト様に薄くかかった雪を、えいえい、ポフポフと背伸びして手で払った。
フォルト様はちょっと呆気に取られていたが、フッと微笑むと、何を思ったのか雪を払っていた私の手を握る。
『我らを包め 光風』
フォルト様が魔法を発動させると、暖かい春の風が、私たちの周りをひと吹きした。……かと思うと、身体にかかっていた粉雪は、風に乗って空中に舞い、消えていったのである。
「ほわ……フォルト様は風魔法も使えるんですね。ありがとうございます……」
私は自分の身体を、キョロキョロと見て確認する。頭に乗っていた雪も全て払われたようで、触ってみるとどこも濡れていなかった。すごい。
「水と風の2属性持ちだからな。ほら、失敗してもいいから、もう一度水魔法を使ってみろ」
「はいっ!」
よし、めげずに回数をこなして慣れていこう……!
そんな2人の様子を見たユーグ殿下が「ほんと無意識なイチャつきって、目の毒だよ」と言いながら、やれやれといった仕草をしていたのは、言うまでもない。
いつもありがとうございます(*´꒳`*)




