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第25話 保健室と猫

 



 放課後になり、私は自分とラウル君の鞄を持って、迎えに行く準備をする。そこに、ルネ様が申し訳なさそうな顔をして現れた。



「アリスちゃん〜 俺この後予定が入っちゃってるから、一緒に保健室行けないんだけど平気?」


「ラウル君が起きたら、自力で歩いてもらうよ。大丈夫大丈夫」


 どうしてもの時は、職員室でグレイ先生を呼ぼうと目論む私である。



「私じゃ役には立てないと思うけど、付き合うわよ?」


 話を聞いていたのか、帰り支度を済ませたシェリが私の席までやって来ていた。


「え、いいの? ありがとうシェリ」


「わぁ……シェリーナ嬢も対象に入りそ〜」


 なんだかボヤいているルネ様とチェンジで、シェリと保健室、再トライします!



 教室棟から本棟へは、直通の渡り廊下があるので、近くて便利だ。シェリと話しているうちに、すぐ保健室に到着した。私も、これなら迷わないで行けそうである。



「先生? ラウル君の様子どうでしょうか? お迎えに来ました〜」


 コンコンと扉をノックして、先ほど同様扉をそっと開けて、声を掛けながら入室した。


 先生は部屋に入ってすぐの、診察机で事務をしていたようだった。


「ん〜あと30分は寝てると思うわよ〜 お茶でも飲んで待ってなさいな。……あら、アンタが噂の光属性持ちの子ね? 殿下の婚約者候補でもあるカルセルク公爵家の……シェリーナちゃんだったかしら?」


「はい、そうです」


 先生はシェリの事をよくご存知のようだった。


 ほら、座って座ってと、私たちは促されてソファーに座った。


「いきなり光属性なんて言われても困っちゃうわよね。何か相談したい事があれば保健室に来なさいな。保健室の先生にはね、生徒達の為の守秘義務もあるから。安心して」



 先生はニコッと微笑んで、私たちの前のテーブルに温かい紅茶とお菓子まで置いてくれた。ルネ様と来た時は挙動が可笑しかったけど、やっぱり優しい。美少年を見つけると我を忘れるのかな、と結論づけた私であった。


「あ、そういえばアタシ、名乗ってなかったわね。保健室担当職員のニコラ・メイエよ。ニコラ先生って呼んでね。保健室って普段かなり暇だから、気軽に遊びに来てちょうだい」


 はい、と私とシェリは返事をした。


 ここで女子会しよう、そうしよう。淹れてくれた紅茶もとっても美味しいです。



「シェリーナちゃんとお友達って事は、アンタがもしかしてマーク侯爵家の秘蔵、末っ子アリスちゃん?」


 ニコラ先生が、向かいのソファーに足を組んで座り、その膝に頬杖をつきながら話す。


「全然秘蔵でも何でもないですけど……そうです、アリスティア・マークです」


 なるほどなるほど、と意味深に私を眺めるのは何なのでしょう…………?


 先生からの視線を逸らすように、窓の向こうの景色を見た瞬間。



「ん?」


 また、あの時の中庭での謎の視線を感じたのだ。


 えぇ、何……怖いんですけど……


 私は、先生なら知っているかも、と少し期待して問いかける。


「ニコラ先生? あの、この学園って猫とか飼ってたりしませんよね?」



 私は保健室の窓の外を、もう一度じっと見つめる。昨日と同様、気づいた時にはもう何もいないのだけど。



「……猫? 学園で飼ってはいないはずだけど……どうして?」


「なんだか昨日から、猫みたいな視線を感じてて。私、猫の観察対象になってる気分なんです……ぅぅ、猫の霊とかじゃないですよね……?」


 もしそうなら、シェリに光魔法でお祈りとかがあれば、してもらいたいと割と本気で思っている私だった。


 ちょっと怖くなって隣にいたシェリに身を寄せた。シェリも心配そうにしてくれていて、怖さを共有させてしまっていたら、申し訳ない。



 先生は少し思案していたが「そうねぇ……さすがに霊はいないと思うけど。きっとその内ひょっこり出会えるわよ。どうしても気になるなら、アリスちゃんがその猫の現れる規則性を探してみたら? 猫って意外と頭いいから、考えて歩き回ってるかもしれないじゃない?」と、アドバイスをくれた。



「気になるというか、別に害はないので危険とかそういう面では怖くないんですけど……姿が見えないからちょっと不安になっちゃって。ありがとうございます、また気配を感じたら考えてみます!」


 私はそう、ニコラ先生にお礼を告げた。人に話すと気持ちが楽になるなぁ……



 しばらく3人でたわいも無い話をしていると、ベッドからモソモソとシーツの動く音が聞こえた。あ、ラウル君起きたかな?


「……あれっ!? ここ、保健室ですか!?」


 慌てた様子で、ラウル君が起き出してきたのだった。



「おはようラウル君。急に起きて大丈夫なの?」


「アリス様! あれっ、シェリーナ様も!? 待っててくれたんですか!? すみません、ありがとうございます……!」


 ややテンパリ気味のラウル君である。まぁ、実技場にいたと思って、目を覚ましたらベッドの上じゃ、混乱もするよね。


「ニコラ先生とお茶をしながらのんびりしてたのよ。ラウル様はとりあえず、先生に今の状態を確認してもらった方がいいわよ?」


 シェリの助言にハッとし、素直に応じたラウル君なのだった。



「大丈夫、問題なさそうね。でもまだ今は、魔力が少し寝た分回復しただけだから、無理はしちゃダメ。今日は寮に戻ったらご飯を沢山食べて早めに寝て、魔力をしっかり全回復させなさいね」


 先生からの許可も無事もらえて、ひとまず寮に戻れそうです。よかったね。


「ニコラ先生、ありがとうございました」


「またいつでも遊びに来てね〜」


 私たちはお礼を告げて、保健室から退出したのだった。




 ────────────────




「猫ねぇ……」


 ニコラ先生は、保健室で1人呟いた。


()()()()飼ってないのよね、猫。どこの猫かしら……」




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